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改めてThink differentの意味を問う

「1984」として知られる、Macintosh発売に先駆けて放送されたApple社のテレビCMをご存知の方も多いだろう。

このCMは、ジョージ・オーウェルによるSF大作「1984」が描く過度な監視社会を、文字通り撃ち壊す映像が極めて印象的な作品だ。

全米視聴率が50%を超えるアメリカンフットボールの王者決定戦であるスーパーボウルの最中に放送されたこのCMは、Appleの存在意義を世界に示すに充分、いやそれ以上の仕事をした。

その後、1990年代に入り、Appleはかの有名な「Think different」キャンペーンを展開する。



「発想を変える」、「ものの見方を変える」という意味のキャッチコピーは、より大衆に分かりやすいものとなっているが、根幹のメッセージは1984となんら変わりない。

Appleの根幹には、常に「現状維持圧力に対する挑戦意識」が存在する。

「現状維持圧力に対する挑戦意識」とは一体なんであろうか。

また、それがApple製品とどう関係があるのだろうか。

その答えを知るには、まず生命の起源を遡る必要がある。


生命の起源と人類の歴史

宇宙は無から巨大な爆発が起きて始まったとされる。

その時、宇宙にエネルギーが生まれた。

そしてそのエネルギーは、移動する特性を持っており、そこに時間は生まれた。

やがてエネルギーが冷却されると、そこに物質が出来た。

その物質は、長い時間をかけて生命を築いた。

宇宙の歴史を五行でまとめるには限界があるが、生命の成り立ちは今回の本質ではないためお許し頂きたい。

そして、面白いのはここからだ。

人類の歴史は、生命の歴史を逆走しているかもしれない、と考えるSF作家や未来学者が出て来たのである。

人間は、まず地球上の他の生物を支配下に置いた。

動植物を操り、自らの欲を満たした。

次に人間は、木材から鉱物まで、物質を支配し、生活に役立てるようになる。

こうなると人間は、時間の支配が可能になる。

長持ちする工芸品をこしらえたり、紙に概念や時々の出来事を記録するようになったのだ。

それでも飽き足らない人間は、移動を革新し、地理的な支配を企てる。

大航海時代や植民地支配がその典型だ。

そして我々は、この数十年の間にエネルギーの時代に突入した。

このタイミングでエネルギーとは、一見矛盾に聞こえるが、知識と情報を高密度なエネルギーと捉えると、話は変わる。

例えば、もし核分裂を知らなければ、ウランがエネルギーや兵器になることはない。

情報と知識がウランをエネルギーに変えるように、知識をかけた争いが絶頂を迎えたのがこの時代である。

安定という名の進歩の終焉

するとどうであろう。

勘の良い方はお気付きの通り、生命の歴史を逆走する我々をこの先で待つのは「無」である。

「無」と言っても、必ずしも地球や宇宙の終焉と言った話ではない。

ここでいう「無」とは、コンピューター、AI、情報技術の発展が、我々が人類史に渡って求めてきた安定をもたらしてくれるという意味である。

一見平和な話に聞こえるが、冒頭で話したジョージ・オーウェルの「1984」を思い出してほしい。

情報の支配、即ち監視によってもたらされた安定が意味するのは、進歩の停止以外の何物でもないのだ。

スティーブ・ジョブズは、この人類の生存危機を予見していた。

そして、誰でも簡単に使えて、創造性を最大化出来るパーソナルなコンピューターをデザインすることで、誰もが現状維持圧力に挑戦出来る世界を実現しようと試みた。

Macintosh、iPhone、iPadは、その哲学、その闘争の現れである。

Macintosh、iPhone、iPadは、大航海時代の船であり、世界大戦下の兵器である。

そしてそれらが、今我々個人の手に委ねられているのである。


Appleは死んだのか

スティーブ・ジョブズがこの世を後にして以来、Appleの哲学は消えた、プロダクトに革新性がないと揶揄されることが多くなった。

実際に業績悪化の話も聞こえるし、苦戦しているのは間違い無いのかもしれない。

しかし、先日の世界最大の見本市Consumer Electronics Show(CES)会場付近で掲載されたビルボードを見た時、私は一縷の希望を見出した。

(Image credit: 9to5Mac)

「What happens on your iPhone, stays on your iPhone(あなたのiPhoneで起きたことは、全てあなたのiPhoneの中に残る)」

「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」、日本で言えば「旅の恥はかき捨て」のようなことわざをもじった、Appleの高いプライバシー意識を宣伝する巧妙な広告である。

GAFAを成すGoogleとFacebookの二社は、近年プライバシー問題の話題に事欠かない。

情報を整理する、世界を繋ぐことを目的とした彼ら自身が監視者の立場に陥る可能性を、世界は注意深く観察している。

データの蓄積が我々の生活を豊かに変える事実を否定する気は一切ない。

しかし、利便性と何がトレードオフの関係にあるのか考える機会を、我々一般消費者は充分に作ることが出来ていない。

我々の手中にあるこの強力な武器は、敵も自分も殺すことが可能である。

次にその武器を手に取るときは、一度発想を変えて見てほしい。

人類の進歩の可能性は、あなたの手の中にある。

Think different. 


筆者


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