ほんとのほんとは
むかしむかし、とある田んぼと畑しかない田舎で生まれ育ったわたしは、とにかく聞き分けがよくて、怒られるのが嫌いな子どもだった。
3才のころにいもうとが産まれた。
おちびのころ、わたしはよく「妹ちゃんが産まれたからわたしは抱っこしてもらえなかった!」
と母親にクレームを言っていたらしい。ワンオペの育児にそれどころじゃなかったのかは分からないけれど、社畜の父は普段からあまり家にいなかったことは覚えている。
わたしはたぶんほんとうは、すごく甘えたがりだと思う。強がって気にしないふりをしているだけで。見せないようにしているだけで。
いまでも忘れられない小学5年生の夏。
読み終わった漫画は友達同士で適当に回して読むのがあのころはやっていたんだと思う。
休日の午前中、ソフトボールの部活帰りに友達から題名も聞かず漫画を借りた。
汗だくで帰宅し、借りた漫画が入ったリュックを玄関先に放り投げたまま、一目散にシャワーに向かった。
その後。激おこの母。
リュックの中身を確かめたら借りてきた本がエロ本だった、と。(たぶん当時の少コミ)
とても嫌な記憶でどんなふうに怒られたのか思い出せないのだけれど、普段滅多に怒らない母にきつく怒られて、借りた友達の家まで怒って乗り込んだ。
その子はいまでも仲のいい幼馴染で、先日会った時にこのことを思い出したよって教えてくれた。
🐼ちゃんが今でも無意識に、性的なこととか異性に対して抵抗感というか言葉で言い表しにくいような色々を感じてしまうのは、たぶんだけど、ダメなものとして禁止をした親の影響が大きいよ、と。
たしかにそうかもしれない。
なんでそんなに悪かったのかよく分からない。(結局読めてないしね)
絶対に怒られたくなかったし、今でも全力で空気を読んでいる。
遊びに行くことの言い訳のために架空の友達は3人くらい増えた。今月も自分の誕生日に架空の友達と遊びに行く。
高校3年生。
卒業後は就職以外に選びようがなかった。
選びようがなくても学校見学には行かなければいけなくて、興味のある分野の専門学校で1日過ごした日はとてもわくわくした。
勉強したいことは自分で稼いでからにしなって言われたんだよね。覚えてる。当時家計がカツカツだったことも覚えている。母親によく通帳の残高を見せられた。どうしようもできなかった。
21歳
高校卒業後就職。2年目くらい。
昔の約束を思い出して学校の資料を取り寄せた。
その頃には社会の荒波に揉まれて心がくたくたで、ついでに働けど自分の稼ぎでは自分のことを学校に行かせてはあげられそうになかった。
高校生の頃に言われたことをやってのけるのは、とても無理だった。資料は半分に折って、分からないようにマジックで線を引いてゴミ箱に捨てた。
23歳
家庭の雲行きが怪しくなり、父の仕事を手伝うようになった。前職は退職した。おかげで家庭の平穏はなんとか保たれた。
ほとんど話さなかった父と、ほとんどの時間を一緒に過ごすようになった。
家にいないで仕事ばかりしているだけあって、お客さんからの信頼は激アツだった。
(周りの大人はびっくりするくらいお仕事がおできにならないけれど、父がなんとかしているおかげで何とかなっている。本当に仕事はできるんだろうなと感じた。)
いいお父さんね、って何回言われたかわからないけど、今でも父として良いのか、社長として良いのかわからずに、適当な相槌しかできない。嫌いではないから手伝っているのだけれど。
現在、あと数週間で30歳。
父は昔ほどキレキレじゃなくなってきた。
受ける量は増えるけれど、こなす時間は昔以上だ、
元から事故で片目が不自由なのだけれど、健康な片目が老眼で見えないので秘書のようにアレやれコレやれとリマインドして読み上げて、なんとかなんとかやっている。他の人にわたしと同じことをさせるのはちょっと難しく感じてしまう。
でもこれはわたしの目指したところじゃない。本当はこんなことしたいんじゃない。この仕事に関しては興味も意欲もない。自信もない。
(ついでに会社の大人は大問題をしでかす。今後は誰かひとり有給を取ると会社をまわすのがしんどくなることが予想される。つまり極力休めない。)
ちゃんとやった。
しっかり働いた。
お金がかからない娘だったでしょ?って冗談半分で親に言ったこともある。手がかからない子だった、と言われたこともある。我ながらその通りだと思う。よくやってると思う。
過干渉で、とにかく心配性な母と、仕事しかしてない父と、サッと出て行って順調すぎるくらいにライフステージの変化を進めていく妹と。よく取り持って、平和を保って過ごせてきたと思う。天才だな。
そんなところで、
ほんとはもうそろそろ自由にさせてほしい。
空気読みだけをしないで自分のことをしたい。
ほんとのほんとはね、ディズニーシーで仕事がしたいです。自分が大好きな場所で、にこにこしながら仕事がしたい。
教室でぼろぼろ泣きながら話してから、泣くほどやりたかったんだ…って再認識をして、最近はちょっとずつ、そうやって話せるようになってきた。
現実の対策がわからなくて今すぐにと言えないのだけど、わがまま言うならほんとは今すぐがいい。
嘘つかないでフラフラ出かけたいし、いろんな人に会ってみたいし、たまには外でお酒とかのみたい。制限されずに少コミ読みたいし、隣の男はよく食べるだってでかいテレビで見たい。
(現代の少コミがどんなやつなのか知らないし、例のドラマはスマホのTVerで見てる)(見てる…)
そんなことを考えている29歳と11ヶ月の脳みその中身。