ワンクール分の糸巻き(江村あるめ人形展『脈なき鼓動』
江村あるめ人形展『脈なき鼓動』
鳥の足はこれだから
最後のひなドール
愛されポケットとちいさいおとも
江村あるめ人形展『脈なき鼓動』
2022年10月15日(土)~10月22日(土)
ギャラリー懐美館にて(東京・代官山)
natsumikan.noor.jp
なんとか仕事で近くに寄れたので、恵比寿駅から懐美館へ走ってきた。ギリギリに行ったせいかなんとギャラリー独り占め。矯めつ眇めつとっくり眺めて、贅沢な時間を過ごさせていただきました。
鳥とくだものが合体したシリーズや、水滴に顔がついている「あまみず」のシリーズなど、少しずつ知ってはいたけれど。こんなにたくさん一度に見るのははじめて。個展は10年ぶりだそう。
鳥の足はこれだから
特徴的な「くだものインコ」など鳥のシリーズの足。太いところと細いところのコントラストがしっかりあって、質感もめちゃくちゃ鳥。針金に紐を巻いてある。
なんと、「鳥足の糸巻き作業は1クールで3羽分終わらなかったな……というくらい」。
ネットフリックスでアニメワンクール観る分くらいの時間をかけて糸を巻いているらしい。途方もない時間!それもあって、量産できないらしい。蓮やいちじくなど新作のインコたちは3体ずつの展示だけど、もっと作りたかったと作家さんは言っていたとのこと。
昔の作品の足は細いのでもう少し短時間で作れるのだけど、「鳥の足はこれだから」とこだわりを持って作っていると伺った。そう聞いて見直すと、ぷくぷく足の子とそうでない子が。足首の鑑別票も愛らしい。視野が広がるって面白いね!
ずらりと並ぶ「ひなびんが」
10年ぶりの個展で、その間ほとんど出さずにたくさん作り溜めてきたという「ひなびんが」シリーズ。小さいけどチープでないつくりで、サイズに似合わない迫力がある。この一角はとくに異界に迷い込んだような気持ちになった。ひなびんがシリーズがこんなに一堂に揃うことは今後ないだろう、と聞く。
個人的にとても気になってしまったのは、うさぎなんだか鳥なんだかわかんない子。かわいいピアスなのか、誰かに飼われているその枷なのか、いまいちわからないお耳の輪っかも、不穏で好みだ。
最後のひなドール
大人気シリーズのパーツが引越しで出てきたので最後に作った、という子たち。どこかおすまし顔。幼い等身だけど、幼女ではなさそう。
愛されポケットとちいさいおとも
「スズメバチになりたい」と題された少年は、作家の一番お気に入りだという。何年か前に完成していたけど、作家の手元で大事にされていたのだそう。すごくあかるい目をしていて、愛されてのびのび過ごして来たんだろうな、これからも愛されていくんだろうなって感じを受ける。首の球が大きいのが、お人形っぽくてかわいい。
展示では、レモンインコが周りに群がっている。
元々のレモンインコのシリーズは、ほぼ実物大のレモンのサイズで作られている。そのうち2体だけ、少年の手のひらのサイズに合わせて小ぶりに作られている。かれらはスズメバチ少年のおともとして、購入者の元に一緒に送り出されるらしい。なんだろう、少女趣味なポケモンみたい。おともとか相棒って、小さい男の子の夢だと思う。
しっかりした作りのズボンには、大きめのポケット。そのポケットには、入り口に展示されていたさくらんぼの一つを入れて送り出される予定だそう。男の子ってドングリとか蝉の抜け殻とか、何だかわかんないゴミとかいっぱいポケットに詰めて帰ってくるけど、そんな感じにしては随分と可愛いものを入れてもらうのね。よかったね。どこぞに婿入りしても寂しくないね。
久しぶりにお人形作家さんの個展に行って、ひとりの世界観をいっぱいに浴びて、きゅーっと集中して観られたので本当に楽しかったです。