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『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』 映画史と地位向上

ハリウッド黎明期からの、スタントのみに関わらない女性キャスト、スタッフの地位の歴史がうかがえる今作だけど、単純にスタントウーマン達の名スタントを観るだけでも価値がある。さらにフィルムに残らない苦悩や偏見が語られると、今まで観てきたものの奥深さが増してくる。
使われている過去映像では、サイレント時代のものから一気に6、70年代まで進んだと思う。いわゆるハリウッド黄金期という期間がスタントウーマンたちにとって不遇であったのかなとも考える。サイレントでは動きが重要だったが、トーキーになって音楽や歌、そしてダンスが主流になったという背景もあったかもしれない。もちろん戦争の影響もあるだろう。

やがてTVシリーズの隆盛が始まる。今作でも多くの時間で語ってくれたジーニー・エッパーの経歴、出演作の連なりは凄い。『バイオニック・ジェミー』『ワンダーウーマン』『チャーリーズ・エンジェル』。
思わず「あっ」と思ったのは映画『ロマンシング・ストーン』のあの泥だらけになりながら斜面を滑り落ちるシーン。今作では「これを彼女が」という驚きが他にも多くあるが、ちょっと懐かしいものでの発見は特に楽しいものだ。

ジュリー・アン・ジョンソンのエピソードは苦い。彼女は60年代後半からスタントのキャリアをスタートさせているようだが、しばらくして1970年にSAG初の女性会長としてキャシー・ノーランが就任する。彼女もそういう変化が起こりつつあった時期から語ることができるレジェンドである。しかし男性上位のスタント業界では冷遇されたというし、男が女優のダブルを演じたり、肌の色を変えることも普通にあった。そうした歴史を実際の証言で知ることは貴重。
1975年にはスタントウーマンの協会が立ち上がる。そしてジュリーは1976年から1981年まで『チャーリーズ・エンジェル』で数多くのスタントに携わり、あの事故が起きる。ウェブで見つけたインタビュー記事を読むと「首の骨を折ったがその日のうちに病院から現場に戻って、走るシーンのスタントをこなした」というのは凄まじい。そして利権(ドラッグ絡み?)を守りたいものたちによってブラックリストに入れられたことが示唆された。ジェンダーの問題だけでなく、業界の暗部とも戦ったということになる。そこでも勇敢なのだ。

今作で気付かされるのは、スタント業を親子、もしくは姉妹でやっているケースが少なく無いということ。まあ俳優でもそうしたケースはあるので意外では無いが、やはりエヴァンス姉妹は強く印象に残る。ドゥカティに跨ってのインタビューはクールで、とりわけデビー・エヴァンスのカースタントとバイクスタントは凄いキャリアを誇っている。ワイスピのアレとかクラッシュシーンも見事にこなす、というか第一人者としての起用だろう。そのような存在になっている女性スタントのことを知らなかったのはちょっと恥ずかしい。彼女の数多くの仕事の中で、最近では『ブックスマート』でエイミーのダブルとしてクレジットされている。もちろん終盤にファイアーバードを爆走させるシークエンスでの出演だろう。作品のことを思えばデビーの起用も製作側の強い意向があったと思っていいのでは。デビーありきの演出とも考えられるがどうだろう。

個人的にはバイクスタントが大好物で、『マトリックス リローデッド』のハイウェイのシークエンスも今となってはやや古く感じるが、当時は「どこまでが実映像で‥」というのは想像したものだ。VFXが見どころだった時代を代表するような作品だけに、スタントの迫力をあまり感じていなかったが、こうして当事者のデビーが「ノーヘルメットで100数十㎞出したわ」と言っているのを聞くと、思わずメイキング動画を見たくなった。逆走のところでは実際に蛇行しながら対向車を避けている(最終的には車両は足されているが)映像は十分に迫力がある。ちなみにキャリー=アン・モスもノーヘルで路肩を運転しているから凄い。そして今年公開されるという『マトリックス4』がどうなるのかは気になるところ。

ここ数年で印象的なバイクスタントがある作品と言えば『007 スカイフォール』と『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』だろう。特に後者はレベッカ・ファーガソン演じるイルサと、トム・クルーズが演じるイーサン、そして敵という三つ巴の超絶なチェイスがあった。ここではトムが例によって自分で運転しているのが話題になった。こちらもノーヘルでどうかしてる。
ではイルサの方は誰がダブルをやったのかを調べると、女性のバイクスタントのクレジットはIMDbには無かった。だから高速でワインディングを走っていたのは男性スタントで、顔が見えそうな前からのショットはノークレジットのスタントウーマンではないかと想像する。顔がはっきり見えてるのはよくある牽引車を使用したレベッカ本人によるショットだろう。どう観てもかなり危険なスタントで安全性などが考慮された結果でそのような判断もあるだろう。スタントウーマンたちも「内容を聞いて危険を感じたら断る」と言っていた。

レベッカは作中で格闘するシーンなどアクションが多くあったが、そちらのダブルはLucy Corkというスタントウーマン。彼女は今作には出てこないが、何しろレベッカのダブルだからMIシリーズの常連になっている。その他の大作にもクレジットされていて公開延期が続く『ブラック・ウィドウ』ではレイチェル・ワイズのダブルをやっているようだ。BWもスタントウーマン目線で観るとまた違う趣がありそうで、スカーレット・ヨハンソンのダブルには4人がクレジットされている。それを知ればかなり多様なアクションが盛り込まれているなと予想できる。

近年ではVFXに拠らないアクションの価値が上がってきていると感じていたが、日々研鑽している彼女たちのスキルを見せられると、今後も強い女性たちが活躍する作品を多く観たいなと思う。

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