人の知識顕示欲を利用した拡散と、意図的炎上を利用した拡散

1.人の知識顕示欲を利用した拡散

現代は宣伝が大事だといいますけれど、この前SNSで面白い現象を目の当たりにしたのでそれについて考察してみます。

それは、何気ない1枚の写真から始まりました。通勤ラッシュの時間帯なのかプラットホームに止まっている電車にはたくさんの人が乗降しています。投稿者は、いつ終息するのか分からない新型コロナウイルスの感染防止とは無縁のこの状態に対して「密です!けしからん!」というようなコメントを書いていました。

端から見ていた自分は全くその通りだと思いました。しかし、鉄ヲタの人がその写真の異変に気付きます。停車している電車の車両が現在は走っていないことを瞬時に見抜いて「時系列的にその写真は何年も前のものだからおかしいぞ」とその間違いを指摘し、結果的に写真よりもその指摘の方がバズりました。

この事例から言えるのは、知識を持っている人にとって一目瞭然な間違いを見ると、時にそれを言わずにはいられない心理をくすぐられるということです。クイズ番組で芸人などがする意味不明な解答に対して視聴者がテレビの前で正しい答えをツッコむのに似た感じでしょう。「自分は知ってるぞ?」という優越感もあるし、正しい答えをを知らない周囲に教えてあげたい知識顕示欲も少なからず付いてきます。上記の鉄オタの人は善意の指摘をしたのでしょうけれど、この心理的な動きは拡散手法として非常に有用だと思います。基本的には、次のような手順と言えます。

人の知識顕示欲を利用した拡散の基本手順
1.知識を持った人が見れば一目瞭然の間違いネタを仕込んでおくものの、そこについては一切触れずにしておく
2.気づいた人が間違いの指摘をSNS等で拡散させる
3.その指摘に興味を惹かれて大勢の人たちがやってくる

この例は知識を持った人と間違いを指摘する人が別々の人でしたけれど、ある程度拡散に時間がかかってしまうのがネックです。もっと効率的にやりたい場合は別々のアカウントを作っておき、自分でネタを仕込んで、自分で間違いを指摘すればできないこともありません。理想は、こんな小細工に頼らないで自然発生的にバズるのが一番良いのですけどもね。

また、間違いを指摘する人には親切心からではなく、その間違いを馬鹿にする人もいるはずです。一時は気持ちが良いのでしょうが、人を見下すことに意識が向くと心理的な死角が生じ、自分が拡散に利用されていることに気づくことができません。馬鹿にしているつもりがかえって拡散のお手伝いとなり、結果的に拡散者の思う壺にならないように注意したいところです

2. 意図的炎上を利用した拡散

ソフトな1項よりもえげつない方法が意図的炎上を利用した拡散です。どんなにそれが不快なものであろうとも法に触れない範囲であれば、誰が何を書こうか勝手です。基本的に、拡散者が一番困るのは誰も反応してくれないことであって、こういう時に決まって採る手段は(自称被害者という立ち位置から)ひたすらに何かをボロクソに貶すことです。

炎上する(=人の注意を引く)こと自体が目的なので、誹謗中傷を書いたり、何かを思いっきり叩くことに対して躊躇や罪悪感、自分の言葉に対する責任などは持っていません。なので、この手の拡散者は自分が叩かれだしたら自身の正当性を示そうとはせず、分が悪くなると平気で逃亡します。

正当な理由もなく何かを貶すことは直情的で、確かに大勢の人に不快感を与えることができます。当然ながら、善意の人、貶されたことを守ろうと猛反発する人、面白がって寄ってくる人たちがどっと押し寄せてきてすぐに炎上します。拡散するのが目的なら簡単に達成はできるでしょうけれど、拡散者が言っていることの信憑性はゼロに等しいので、それ単体では宣伝にはつながらないでしょう。

200813 宣伝

ただし、この炎上騒動と同時に別アカウントで本当に拡散したいことをセットに発信するのならば宣伝効果があると思います。先に不快感を与えて(マイナスにして)からそれを回復させる、いわゆる ”サゲてからアゲる” のは良く用いられる手法です。上図のように、通常の宣伝と併せた印象値のグラフを描いてみました。

”サゲてからアゲる” の分かりやすい例は「昔やんちゃしてた人が今ではこんなに真面目になりましたよ、良い話ですよね?」とか「嫌がらせをしていた人が機転の良い反撃によって大恥をかきました、気持ちいいですね?」っていう手放しではスカッとしない感じのものです。トータルの印象値はマイナスにはなるものの、通常と比較すれば記憶には強く残ります。

第一段階のサゲる行為は一見何をやってるんだか分からないですけど、これは宣伝を意図したギャップ(不快感)を力づくで作り出しています。この下ごしらえがあって、第二段階で「ステルスマーケティングしつつ、どれだけプラスに見せかけられるか?」を示すのが拡散者の腕の見せ所となります。こちらも基本手順をまとめておきましょう。

意図的炎上から拡散に至る基本手順
1.誹謗中傷、罵詈雑言の限りを尽くして対象を貶し、炎上させる
 ※本当に宣伝したいものはこの時点では隠しておく
2.別アカウントを用い、真逆の好意的な文言で真に宣伝したいことを書く
  ただし、ステルスマーケティングと悟られてはならない
 ※エッジの効いた皮肉が共感され、上手く拡散されれば宣伝成功

まとめ

SNSを使った宣伝手法として、1.人の知識顕示欲を利用した拡散、2.意図的炎上を利用した拡散を書きました。これらは人の心理を巧みに衝いたもので、感情的に反応してしまうと拡散者の思惑通り宣伝・拡散のお手伝いとして利用される結果となります。それぞれの基本手順の流れを把握したうえで、拡散する際には自分がそれを宣伝したい時だけに留めておく方が無難だと思われます。

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はる筆線屋
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