【量子化学】シュレディンガー方程式にある微分演算子(∇^2)の極座標変換、気合が入ってないと途中で力尽きる説
0.何なんこの記号「∇」?
個人的に化学の分野の中で逆格子と並んでシュレディンガー方程式の計算が最も理解に苦しんだんですが(実は今も良く分かってはいない)、このNOTEでは後者について記しておきたいと思います。時間に依存しないシュレディンガー方程式(3次元)について、教科書を眺めると微分演算子(∇^2)がポンと出てくるページがあったんです。
∇^2= (∂^2 / ∂x^2) + (∂^2 / ∂y^2) + (∂^2 / ∂z^2) ——⓪
元々、∇は1次元の位置に関する項を3次元に拡張したものに相当します。だから、「たぶんこれは3次元空間の一地点を2階微分してるんだろうな」というのはギリギリ理解できるんですけど、トップスライドのように次行で全く別物にしか見えない式が出てきて「これ、なんでこうなったんよ??」とずっと不思議に思ってたんですよ。
1.極座標変換
「∇^2は極座標変換してみたら計算できるでよ?」っていう軽いノリで書かれてたので、ウィキペディアの「球座標」の項を参考に手計算してみることにしました。
最初に、座標 (x, y, z) をスライドのように (r, θ, φ) という記号を使った表現の仕方に変えます。地球🌏で例えるなら、r は中心からの距離、θ は緯度、φ は経度のイメージですね。
極座標変換を行った結果、xは (r, θ, φ) についての関数であることが分かります。xが微小変化した際には、それに合わせるように (r, θ, φ) の値も変化するので、3変数それぞれについて偏微分してやる必要がでてきます。ここで自分は数学の不勉強のせいで、デカい壁にぶち当たってしまいました。
2.全微分と逆三角関数の導関数
悲しいかな、自分は偏微分についての授業をほとんど受けておらず、全微分についても全く無知な状態でした。困った時はウィキペディアさまさまですね。
この全微分という項を参考に式を組み立てていきます。
x成分についての関数、例えば f(r, θ, φ) なるものがあると考えると、fを3変数について偏微分したら次のようになります。
∂ / ∂x = (∂r / ∂x) (∂ / ∂r)
+ (∂θ / ∂x) (∂ / ∂θ)
+ (∂φ / ∂x) (∂ / ∂φ) ——①
①式中のfの記号は便宜上省略して書いています。このうち、(∂r / ∂x)、(∂θ / ∂x)、(∂φ / ∂x) を合成関数の微分と逆三角関数の導関数(特にarctanの微分)を駆使してゴリゴリ計算すると次のようになります。
(∂r / ∂x) = sinθ・cosφ ——②
(∂θ / ∂x) = (cosθ・cosφ) / r ——③
(∂φ / ∂x) = -sinφ / (r・sinθ) ——④
②③④式を①式に放り込むと、
∂ / ∂x = (sinθ・cosφ) (∂ / ∂r)
+{(cosθ・cosφ) / r} (∂ / ∂θ)
-{sinφ / (r・sinθ)} (∂ / ∂φ) ——⑤
x成分はこれでできたんで、次いでy成分・z成分についても同様に行います。さらっと書いているようですけれど、この作業だけでルーズリーフ2枚が計算式でびっしり埋まりました。
3.気合でやる2階偏微分
さて肩慣らしが終わったところで、∇^2の式を導くためにもう1度、楽しい楽しい偏微分をやりましょう(狂気)。
「いやいや、ちょっと待って!そんなことやらんでも、⑤式を2乗して⓪式に放り込んだらえぇだけと違いますの?」と一瞬はそう思うんですけど、実際2乗してみたら式中に合成関数の微分がさりげなく紛れ込んでいるんで、計算が複雑化しています。
簡単に言えば、単なる2乗の感覚で計算をしてしまうと違う答えが出てきちゃうんですよ。悪意を感じますよね。「ごちゃごちゃ言わんとはよやれ」ってことで、早速2階目の偏微分を気合でやっていきましょう。
目的とする式は⑤式をxで偏微分したものなんで、次のように書き表せます。
(∂^2 / ∂x^2) = (sinθ・cosφ) (∂ / ∂r) (∂ / ∂x)
+ {(cosθ・cosφ) / r} (∂ / ∂θ) (∂ / ∂x)
- {sinφ / (r・sinθ)} (∂ / ∂φ) (∂ / ∂x) ——⑥
⑥式中の2階偏微分に相当する項を求めるために、⑤式を (r, θ, φ) についてそれぞれ偏微分すると、
(∂ / ∂r) (∂ / ∂x) = (∂ / ∂r) (sinθ・cosφ) (∂ / ∂r)
+(∂ / ∂r) {(cosθ・cosφ) / r} (∂ / ∂θ)
-(∂ / ∂r) {sinφ / (r・sinθ)} (∂ / ∂φ) ——⑦
(∂ / ∂θ) (∂ / ∂x) = (∂ / ∂θ) (sinθ・cosφ) (∂ / ∂r)
+(∂ / ∂θ) {(cosθ・cosφ) / r} (∂ / ∂θ)
-(∂ / ∂θ) {sinφ / (r・sinθ)} (∂ / ∂φ) ——⑧
(∂ / ∂φ) (∂ / ∂x) = (∂ / ∂φ) (sinθ・cosφ) (∂ / ∂r)
+(∂ / ∂φ) {(cosθ・cosφ) / r} (∂ / ∂θ)
-(∂ / ∂φ) {sinφ / (r・sinθ)} (∂ / ∂φ) ——⑨
⑦⑧⑨式を合成関数の微分に注意しながらゴリゴリ計算していきます。3つ共計算し終わったら、まとめて⑥式に放り込んでみましょう。便宜上、sinθ=a、cosθ=b、sinφ=c、cosφ=d と置いて表記すると次のようになります。
(∂^2 / ∂x^2) = (a^2・d^2) (∂^2 / ∂r^2)
+ (b^2・d^2 / r^2) (∂^2 / ∂θ^2)
+ {c^2 / (r^2・a^2)} (∂^2 / ∂φ^2)
+ (2ab・d^2 / r) (∂^2 / ∂r∂θ)
- (2ad / r) (∂^2 / ∂r∂φ)
- {2bcd / (r^2・a^2)} (∂^2 / ∂θ∂φ)
+ {(b^2・d^2+c^2) / r} (∂ / ∂r)
- {2ab・d^2/ r^2 - b・c^2 / (r^2・a)} (∂ / ∂θ)
+ {2cd/ (r^2 ・a^2)} (∂ / ∂φ) ——⑩
式が長いにもほどがあるわ… ( 'ω' ; )
ちなみに、これはx成分だけの結果なんで、同様の計算をy成分・z成分についても行わないといけないんです。絶望的ですよね、この計算量。リアルに日が暮れます。本NOTEには記しませんけれど、⑩式のように⑪⑫式を導くことができます。個人的にはこの作業でルーズリーフが4枚ほど必要でした。
4.微分演算子(∇^2)との邂逅
幾多の困難を乗り越えて、微分演算子(∇^2)との邂逅をようやく果たす時が来ました。
∇^2= (∂^2 / ∂x^2) + (∂^2 / ∂y^2) + (∂^2 / ∂z^2) ——⓪
⓪式に3項で得られた⑩⑪⑫式を放り込んで同じ係数ごとに整理するとトップスライド通りの式を導くことができます。
∇^2= (∂^2 / ∂r^2)
+ (2 / r) (∂ / ∂r)
+ (1 / r^2) (∂^2 / ∂θ^2)
+ {b / (r^2・a)} (∂ / ∂θ)
+ {1 / (r^2・a^2)} (∂^2 / ∂φ^2) ——⑬
教科書では⓪式の次行に「球対称の系においては」という前置きがあって、突然⑬式がでてくるんです。初見だとこの行間で「何が起こったんや!?マジックか?」と、まるで意味が分からなかったわけですが、実際に計算したら確かにその通りでした。
この導出する過程を教科書で全部載せると、見開き数ページは数式の羅列が続きます。「こんなことで紙面を食うのは教科書を買う側にしてみたら余り意味のない嵩増しになるから、全部すっ飛ばして結果だけ書いたよ」ということが何となく分かります。でも、初学者にとっては書いてくれた方がありがたいですね。
実は、この全部の計算を自分は無機化学の夏休みの宿題で出された経験があるんですけど、ぶっちゃけ訳が分からな過ぎて夏休み中、ずっと頭が炸裂してました。本来この極座標変換は、電子の存在確率を計算するための単なる前準備に過ぎないので、そういう意味では量子化学ってマジパネェなって今でも思います。
( ˘ω˘ ; ).。oO( 数学苦手な人やったら、トラウマどころじゃすまへんぞ、これ……