CoC7版「外から訪れたもの」リプレイ

新クトゥルフ神話TRPG、シナリオ「外から訪れたもの」のリプレイを掲載します。
肌がぞわぞわするような恐怖の付きまとう、とても楽しいシナリオ、そしてセッションでした。
KPはMPKさんです。

3時間ほどのセッションの簡易リプレイなので、
さらっとスナッククトゥルフとしてお読み頂けるかと思います。

本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『新クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.
Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.
PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「新クトゥルフ神話TRPG ルールブック」

※「外から訪れたもの」は、新クトゥルフ神話TRPG、サプリ「ビブリオテーク13」掲載のシナリオです(著:黒崎江治先生)。
 当リプレイは当該シナリオの大幅なネタバレを含みますので、PLとしてプレイ予定の方の閲覧はお避けください。

●探索者とNPC


【探索者】

▼上島 成利(カミシマ ナリトシ/男性/29歳)
PL:ありろくん

職業は刑事。
ぶっきらぼうだが情に篤い性格をしている。面倒ごとを押しつけられやすい。
坂崎、森下とは高校時代に仲の良い3人組だった。
得意技能は〈近接戦闘(格闘)〉〈射撃〉〈聞き耳〉。
STRが高い。

▼坂崎 時緒(サカザキ トキオ/男性/29歳)
PL:遥 唯祈

作家(自称)。実際は時折ウェブニュースの記事を書く程度で、長編小説は一度持ち込みをして没を食らって以来一作も仕上げていない。自信だけはあり、胸を張って作家を自称する。
上島、森下とは高校時代に仲の良い3人組だった。
得意技能は〈ラテン語〉〈オカルト〉〈目星〉。
POWが高い。

▼町田 武蔵(マチダ ムサシ/男性/29歳)
PL:やっきぃくん

編集者。
NPCの作家、森下文弘の担当をしている。
(いちおう坂崎の担当でもあるが、もう2年は作品を受け取っていない)
穏やかで丁寧だが、作家の〆切には厳しいタイプ。
得意技能は〈言いくるめ〉〈説得〉〈図書館〉。
INTが高い。


【NPC】

▼森下 文弘(男性/29歳)
怪奇小説作家。デビュー作は「天竺鼠の館」。
柔和で人当たりの好い性格だが、
頑固でこだわりが強い一面がある。
仕事は着実で、これまで〆切を破ったことはなかった。

▼森下 雪乃(女性/21歳)
文弘の妹。医大生。
兄妹の仲は良いようだ。
小学生の頃は上島と坂崎のことを「成利にぃ(兄)」「時緒にぃ」と呼んで慕っていた。


●リプレイ本編

▼事の始まり

編集者の町田武蔵は、怪奇小説作家の「森下文弘」の新作のプロットの提出を待っていた。
真面目な「森下先生」にしては珍しく提出が遅れ、
「入手した資料の翻訳に時間がかかりそうだ」と連絡をしてきて三ヶ月。
町田は、とうとう直接進捗の確認をするために森下の家を訪れる。

その1週間前。
森下の友人の上島成利と坂崎時緒は、顔色の悪い森下から「会って相談したいことがある」と連絡を受けていた。次の土曜に、と言われ、約束通りの17:00に彼の家、練馬のマンションの403号室を訪れる。

そして森下文弘の担当編集者の町田、友人の上島・坂崎は扉の前で鉢合わせする。
互いに自己紹介を済ませ、首をかしげる3人。

時緒:町田さんがいるってことは、文弘の相談って作品が詰まってるとかの話?
成利:だったらなんで俺たちが呼ばれてんだよ。
時緒:刑事の経験談が要るとか。
成利:お前は?
時緒:俺はほら、作家仲間だから!(ドヤァ)
成利:ほんとお前のその自信どっから来てんだよ!?

町田がインターホンを押すが、応答はない。歩いてくるような音もない。

町田PL:這い寄る音も。
成利PL:早い早い早い。

時緒:コンビニ行ってるとか?
成利:5時に呼ばれたから来たんだぜ。お前じゃあるまいし。
町田:……私だからダメなのかもしれません。ご提出が滞っているので……
時緒:そっかー、あるある!

代わって上島成利がドアを叩いて呼び掛けてみるが、やはり反応はない。
隣の家の母娘が物音に顔を出してきた。

〈信用〉判定に成功した町田が彼女たちに話を聞いてみる。

隣の主婦:ご在宅だとは思うんですけれど、しばらく前から様子がおかしくて……
町田:様子がおかしい?
隣の主婦:はい。いつもきちんとしていた方なんですが、髪も乱れがちで、髭も伸ばしっぱなしに……
探索者たち:(顔を見合わせる)
隣の主婦:もしかしたら、病院かなにかに行かれたのかもしれません。
町田:病院?
隣の主婦:はい。……実は、昨日の早朝に…… 悲鳴のようなものが聞こえまして。

流石に顔色を変える3人。
町田がドアノブをひねってみると、なんと扉はあっさり開いた。

▼探索

町田:先生? ……お邪魔しますよ?

KPが部屋のマップを出す。
1LDK、ベランダ付きの、ありふれたマンションの一室だ。

玄関にはスニーカーが一足転がっている。
靴箱の上には、デビュー作「天竺鼠の館」を笑顔で掲げた文弘と、妹の雪乃が写った写真。
写真立ての陰には家の鍵が置きっ放しだった。

成利:鍵……? 中に居んのか?
時緒:……待て待て、クモ膜下出血で倒れてるとかそういうんじゃ……!

3人は家に踏み込む。
町田はLDKに続く扉の付近に少量の血痕を見つける。

町田:先生。先生!?
KP:返答、人影はありません。LDKの対面型のキッチンは設備も整っています。文弘はまめに自炊をする人間でしたが、今はシンクが汚れています。
時緒:お皿とか?
KP:そうです。汚れた皿やパッケージが積みっぱなし。
時緒:珍しいな。

町田が〈目星〉の判定にハード成功し、強盗などに荒らされた形跡はないと知る。

風呂場で倒れた可能性を危惧した時緒は洗面所と風呂場へ。
洗面台に薬瓶が2つ置かれている。名称で検索(〈図書館〉)してみると、処方薬の睡眠導入剤と抗不安薬であることが分かった。

町田:先生……?(寝室へ)

町田、ベッドの近くの壁にピン留めされたコピー用紙を見つける。
そこには赤い大きな文字で「本を捨てろ!!」と書かれていた。

成利:編集者さん? なんかあった?
町田:いえ…… これは……

町田はそれが森下文弘の筆跡であることを確認(〈母国語〉成功)。
寝室のカーテンを開けてベランダを見て、
そこに奇妙な魔法陣と、手すりにへばりついた異物を見つける。

その時、突然玄関をノックする音。
肩を跳ねさせる町田。
刑事の上島成利が応対に出る。

時緒:(洗面所からのんきに)なんだ、帰ってきたんじゃねえか。
成利:……。(慎重に扉を開ける)

▼来訪者

玄関口に立っていたのは家主ではなく、見知らぬ西洋人だった。
彼は「ジャック・モリス」と名乗り、森下を探していると話す。

モリス:私は、手違いでここに来てしまった“ある本”を回収しにきたのです。
成利:本?
モリス:とっても、とっても危険なものなのです。
成利:危険な本なんてもんがあるのか?
モリス:きっとあなたには信じられないと思うのですが、その本は『妖蛆の秘密』といいまして。
成利:よう…… そ?
モリス:黒い革の装丁の、これくらい大きな本ですから、見ればわかると思います。
成利:それは、森下があんたに渡すと言ってたんで?
モリス:いえ。私が元の持ち主で、手違いで文弘さんに渡ってしまったので、
成利:……(怪訝な顔)
モリス:この本は本当に危険です。異界の魔物を呼び出す召喚の呪文が載っているんですよ。

上島、もう完全にまともでない相手を見る顔に。

モリス:本当に、読むだけでも正気を蝕みかねないんです。
成利:はー……? おーい、時緒。時緒!
時緒:なんだよ、文弘帰ってきたんだろ? なにやって…… は?

上島、モリスの言うことを時緒に伝える。
時緒、件の本について〈オカルト〉の判定を行うが、エクストリーム成功を要求され失敗。

成利:ようその…… ひみつとかいう。
時緒:ヨウ素?
成利:ヨウ素のひみつ。小学校の理科の学習漫画かなんかか?
時緒:ジャガイモ? ジャガイモの話???

KP、ここでモリスに対する〈心理学〉か〈人類学〉の判定を促す。
応対に出ているふたりは失敗してしまった。

モリス:では、本は見ていないんですね?
成利:そこまで目立つ本は見てねえな。
モリス:もしも見つけたら、触らないでくださいね。私、また来ます。
時緒:お、おい。連絡先か何か……
モリス:すみません。日本に来たばかりで。

柔和な笑みを残して、モリスは立ち去ってしまった。

▼残されたのは

町田はベランダに出る。
手すりに付着した半透明な粘液のようなものへの〈医学〉判定に幸運を消費して成功し、
「渇いてからさほど時間が経っていないこと」
「動物性の分泌物だということ」のふたつに気づく。
町田はとりあえず鞄に入っていたデジタルカメラで現状を撮影。

玄関から戻ってきた成利・時緒も、リビング側からベランダへの掃き出し窓を開ける。
赤い血で描かれていた魔法陣がそこには広がっていた。
付近には、血の付着した奇妙な刃物が落ちていた。

自ら身体を傷つけて、尋常ではない量の血を使い、魔法陣を描いた森下文弘。
およそまともな精神状態で出来ることではない。
正気度ロールが要求され、町田のみ1D2の正気度減少を受ける。

魔法陣に書かれている文字はラテン語。
だが、〈ラテン語〉に詳しい時緒にも内容は読み取れなかった。

町田:そろそろ、警察への連絡をした方が良いのではないかと思うのですが。
時緒:成利ー?
成利:応援呼ぶか。……だが、この状況じゃ……

ベランダで考え込んだ瞬間、
KPが「グループ幸運ロール」を要求。
危うく成功し、何も起こることはなかった。

時緒は町田に「ジャック・モリス」が森下文弘の作家仲間ではないかということ、
「黒革の表紙の本」を編集部から資料として渡したことはないかということを確認。

町田:いえ、特に聞いたことはないですね。
時緒:そうか……
町田:ですが、先生は資料の翻訳作業に難航しておられるということでした。
時緒:資料。
町田:ええ。どんな本を翻訳していたのか……
成利:……黒い、革の。
町田:黒い?
成利:なんとかの…… なんとかっていう。
時緒:なんもわかんねえじゃねえかよ。……たしか、「ヨウソノヒミツ」って。
成利:なんかが召喚できるって。
町田:またまた、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。

召喚。
3人の視線がベランダの魔法陣を見る。

時緒:……煮詰まった文弘が、本に書いてあった召喚を、試した……?
町田:ありえない話だという前置きをしたうえでですが。
成利:おう。
町田:ここに、恐らく生物的な分泌液が。

ここで本の名前を検索し、妖蛆、という変換だけは発見。

時緒:蛆、……

成利:ここに出る窓の鍵は、
町田:閉まっていました。
時緒:じゃあ、これを描いた後、一度中には戻ってる。飛び降りたってことはないはずだ。

階下を覗き込む時緒。
とたん、KPが幸運度で判定を要求。
判定が成功すると、何も起きなかった。

下の垣根に森下文弘が、ということもなく。

時緒:……そういや、玄関行く途中にも血痕があったんだよな。
町田:はい。それで事件性を疑ったのですが。
時緒:リビングのドアは開いてた。
町田:開いていました。
時緒:文弘はきちっとした性格だ。
成利:開けっぱってこたぁ、あんまりねえよな。
時緒:何かがあって、……走って、裸足で、外へ出た……?

▼「本」

3人は「黒い本」を探し始める。
「本を捨てろ!」と書かれた紙が風に揺れる。

町田が本棚から一通の手紙を発見する。
差出人は、古物商。
高級な便せんに癖の強い英語の筆記体で書かれた内容は。

「今回お送りしましたのは、かのルドヴィグ・プリンによって16世紀に記された『妖蛆の秘密』に間違いございません。
 これはウェセックスに住んでいた好事家、ジャック・モリスの屋敷で発見されたものです。
 彼は残念ながらすでに亡くなっておりますが、使用人によれば随分と黒魔術に傾倒していたようです。遂には自ら呼び出した2体の魔物と戦い、手傷を負わせましたが、一緒にいた飼い犬ごと食い殺されてしまったと聞いております……」

くれぐれも慎重に扱うように。
手紙は、そう締めくくられていた。

成利:……さっきそのおっさん、来たろ。
時緒:盗み出したもんだからこういう曰くをつけた、とかじゃ、ねえの……?
町田:さっきの方。影が無かったとか、鏡に映らなかったとか、そういうことはありませんよね?
時緒:無かったと思うぜ?(アイデア判定失敗)
成利:ああ。
時緒:……。俺なら、資料本をどこに置く……?

時緒は文弘の仕事机を探りに行く。
デスクにはパソコン、身分証入りの財布、ドキュメントスキャナー、プリンター、付箋だらけのラテン語の辞書が置かれていた。

パソコンを起動すると、パスワードを要求された。
時緒はまず文弘の誕生日を入力。エラー。
だが、「パスワードのヒント」が表示された。ひとこと「ISBN」と。

時緒:――町田さん。
町田:はい。
時緒:「天竺鼠」のISBNコード、出せる?
町田:はい。ちょっと待ってくださいね。

町田は本が無いかとクローゼットを探っている(が、〈目星〉失敗)。

時緒はパソコンにログインすることに成功。
デスクトップは整頓され、小説原稿、高価な翻訳用ソフト、各種資料などが並んでいる。
その中に、奇妙なフォルダがひとつだけあった。
フォルダ名は「秘密」。

時緒:秘密。……secret、……ちがう。"mysterium"だ。
成利:俺トイレ行ってくるわ。
時緒:おう行け行け。こっちは少しかかりそうだ。

地味に誰も調べていなかったトイレに行ってみる成利。
壁に掛けられたカレンダーの裏に、「本を捨てろ!」の殴り書きを見つける。

成利:おい、こっちにも書いてあったぞ。
町田:寝室に本はなさそうです。
成利:時緒、なんかあったか?
時緒:んー……(フォルダを開く)

中にはテキストファイル、手書きの図やスケッチなどの画像ファイルなど。
時間を掛ければラテン語の技能を使って何かしらわかることもありそうだ。

時緒:30分くれ。どうにかして読んでみる。
成利:分かった。なんか飲む?(冷蔵庫へ)
時緒:炭酸水。
町田:お構いなく。

時緒PL:冷蔵庫怖いよ!?
成利PL:おれ何の気なしにうろついて怖いもん発見しちゃう役やってるから今。
KP:あーww

冷蔵庫を開けた成利は、ろくな食材が無いことに気づく。
自炊が好きだったはずの文弘が、ここ1ヶ月ほどは缶詰やレトルト食品等ばかりで食事を済ませている。
残っているのは小麦粉や油、調味料くらいしかない。

と、玄関から今度はせわしなくインターホンを押す音が聞こえてきた。

▼第2の来訪者

「はい」と答えつつ、警棒に手を掛けて玄関に向かう成利。

?:文弘にいさん、開けて! 私、雪乃!!
成利:雪ちゃん!?(扉を開ける)
雪乃:成利にぃ!!(抱きついてくる)

文弘の妹、雪乃は片手に大きな固いものの入った紙袋を下げている。
なにか怖い目に遭ったのか、泣きそうな声でまくしたてる言葉は何を言っているか分からない。
精神分析が苦手な成利は、「しっかりしろ!」と肩をゆすることで〈威圧〉で判定を許可され成功。

雪乃:文弘にいさんは、いないの?
成利:……いない。俺たちも今探してるところだ。時緒も来てる。あと編集者の兄ちゃんか。

少しほっとしたらしい雪乃は話し出す。
3ヶ月くらい前から「仕事が立て込んでいる」と言われ兄と連絡が取り辛くなったこと、
2か月前、仕事の内容についてたずねたところ、
非常に強い口調で拒絶されたこと。
そして3日前、何の連絡もなく――
1冊の古びた大きな黒い本が送られてきたこと。

成利:……(渇いた笑い)。おい、見つかったぞ?
時緒:なにがー。
成利:本。
時緒:は?
成利:雪ちゃん、雪ちゃん。大丈夫だから来い。

成利は玄関に鍵を掛け、リビングのカーテンを閉めてから雪乃をリビングダイニングに通す。
雪乃の話を繰り返す成利。

成利:で、3日前にこの本が雪ちゃんとこに送られてきたんだとよ。
町田:……失礼しますね。

そっと袋から本を取り出す町田。
黒い革の装丁には「De Vermis Mysteriis」の文字が刻まれている。

時緒:虫…… 妖蛆、の、……神秘。秘密。
雪乃:みなさんがいてよかった。さっき外で男の人に呼び止められて。
成利:外人さん?
雪乃:うん。ジャックっていう人で…… この本を渡せって迫られたの。
町田:(本を開いている)
雪乃:何でかもわからないし、何をされるかもわからなくて、逃げてきたの。

町田は、ベランダで見た魔法陣と同じ「図案」を本の中から探そうとする。
KPからアイデアでの判定を許可され、レギュラー成功。
ほぼ同じころ、パソコンを弄っていた時緒が〈ラテン語〉の判定を行い、
失敗するものの本を手渡されて照らし合わせるプッシュを行ってエクストリーム成功を出した。

「De Vermis Mysteriis」の内容は、異界の存在を召喚する手順を示していた。
ただし、何らかの知識の理解を前提として書かれている。

そしてパソコンに残されていたテキストファイルは「妖蛆の秘密」の索引注釈版だった。
本編の内容を訳したテキストファイル自体は消去されていた。

雪乃:にいさんはどこにいるのかな……
成利:俺たちも探してる。あいつに呼ばれた時間にここに来たんだよ。
雪乃:じゃあ、きっとこの本に秘密があるんだわ。

興奮する雪乃への〈心理学〉に成功した町田は、雪乃が不安のあまり混乱していることを読み取る。

町田:雪乃さん、落ち着きましょう。事実としてあるのは、先生が失踪したということです。

〈言いくるめ〉にエクストリーム成功し、
今にも暴れ出しそうだった雪乃を落ち着かせることに成功する。

時緒:成利さあ、あいつスマホその辺においてたりしねえ?
町田:鳴らしてみましょうか。
成利:頼むわ。

寝室のクローゼットの中から着信音。

町田:……ありました。

時緒はそこにテキストファイルが移されていないかを調べる。
が、スマホには特に移された跡はなかった。

続けて成利が通信の履歴を調べる。
メールの中から、イギリスの古物商とのやり取りを発見。
町田が寝室の本棚に遭った手紙を持ってくる。

町田:これがありました。逆に、ジャック・モリス氏との通信履歴はないですね。
KP:ないです。

時緒はパソコンに残された資料と照らし合わせ、
黒い本の中から町田が見つけたあの魔法陣のページ付近を自力で翻訳にかかる。
友人が何を呼び出そうとしていたのか。
どのような代償を払い、どのような危険がそこにはあったのか。
彼は現在、どうなっている可能性があるのか。

KPは、索引注釈を見つけたこと、時緒の〈ラテン語〉が80%あることを鑑みて、2時間ほどで翻訳の判定が行えると裁定。

時緒:わかった。その間は頼む。
町田:そろそろ、夕食を取りましょうか。
成利:雪ちゃんもいるしな。

成利が近くのコンビニに買い出しに出ることになった。
彼は近くをうろつくジャック・モリスを警戒してもいる。
町田が思いつき、2時間は使わない時緒のスマホと成利のスマホを繋げた状態にしておくことを提案。

成利が買い出しに出る間、
町田は本の1ページの端をそっとデザインカッターで切り取り、
コンロの火にかけてみる。
問題なく燃え尽きたのを見て、いざという時には本を燃やすことを決意した。

▼21:00

買い出しに出た成利は、マンションから出てすぐのコンビニへ。
KPは彼にまた幸運度で判定を要求。成利、これに成功。
何も起こることはなかった。

成利は弁当と飲み物を買いつつ、コンビニの店員に情報収集を試みる。
森下文弘は2日前にやってきたのが最後だということ、
今日になって「変わった外人さん」がマンション付近をうろついていること、
先ほど雪乃に話しかけていたことを聞き出した。

成利が帰って来てしばらくする頃、21:00。
時緒の翻訳が終了した。
〈ラテン語〉の判定はハード成功。

書かれていた内容は「不可視の下僕の覚醒」。

その瞬間、坂崎時緒の全身に怖気が走った。
自分の理解を触れる何かに確実に触れてしまった、という恐怖の認識が襲う。
「ここに書かれていることは、嘘でも与太話でもない」。
世界には、己の知らない深淵がある。すぐそばに口を開けている。

KPは〈クトゥルフ神話〉技能を1レベル上昇させたうえでの正気度判定を要求。
判定は成功。正気度減少は一時的狂気に至らない範囲で済んだ。

続けて、KPはプレイヤーたちに「星の吸血鬼」のページを読んでよいと指示。それが文弘の魔法陣が呼んだ存在だ。
そのうえで、それを「召喚」する呪文と「従属」させる呪文は別であることも分かったと伝えた。

そして、従属させて与える命令は上書きが可能であるとも。

文弘が実行したのは、不完全な呪文。
召喚には成功し、従属には失敗している。

時緒:呼び出して、……呼び出したものに、やられた……?

星の吸血鬼は、対象の血を吸いつくして殺し、
その後ゆっくりと時間のかかる消化を終えると
対象の姿に化けることができるようになるという。

時緒は星の吸血鬼の能力から計算を行い、文弘が生きている可能性が残っていないことを知る。
青い顔をして立ち上がり、他の3人に対して重い口を開く。

成利:それで。何が書いてあった。
時緒:文弘が妙なものを…… これ以上は聞かない方がいい、妙なものを呼び出したっていうのは本当らしい。
成利:あのバカ、何のために。
時緒:あいつは、……資料を確かめなければ書かない真面目なやつだった。

そして、時緒の脳裏にはもう一つの事柄が厳然たる事実のように思い浮かぶ。
「魔導書とは、そういう存在なのだ」と。
呼び出すことができるのなら、呼び出させずにはおかないのだと。

町田は話を聞きながら、森下文弘のパソコン内を探す。
〈図書館〉でエクストリーム成功し、「最後のプロット」を探し出した。

金持ちの好事家が、黒魔術への興味から古い魔導書を求め、召喚を目指す。
古物商と出会い、魔導書を入手し、読み解いてゆく。
そして召喚した怪物とそれに振り回される人間を描き、やがて……

時緒:……落ち着いて、聞いてくれるか。
町田:はい。
時緒:もうすぐここに、文弘がやって来る。
成利:は……?
時緒:絶対に。扉を、開けるな。

沈黙。

成利:帰って来るんじゃ、ねえのか。
時緒:正確に言う。文弘の姿をした何かが現れる。だがそれは文弘じゃない。
成利:(呻く)
時緒:俺たちにできるのは、できるだけ早くここを離れて、二度と近づかないことだ。
町田:ドッペルゲンガーのようなものでしょうか?
時緒:ああ。それをすごく悪化させたようなもんだ。

町田:確認しましょう。その本を求めてきた人がいましたね?
成利:そうだな。
町田:渡した方が良いものですか?
時緒:いいや。絶対に駄目だ。
成利:そうなのか。
時緒:この本には、化け物に言うことを聞かせる方法も書いてある。「あれ」は、それを無きものにしようとしている化け物のほうだ。

時緒:これを俺たちが使うことができれば、そいつを元の世界に追い返すこともできるだろう。だが……

「使うことができれば」。
その言葉を口にした瞬間、坂崎時緒の脳内に「できる」という可能性が思い浮かんだ。

町田PLはルールブックを確認。
従属させるには、正気度を減らしたうえで
「化け物」と対抗POWロールを行わなければならない。
この本を手にしていれば、それが少し有利になる。

町田PL:あとはこいつ相手なら、MPを15払えれば更に良いが、15なんて……
時緒PL:ある。
町田PL:なんて?
時緒PL:ジャスト15。全て使えばできる。
成利PL:おいおいおい。
KP:本と合わせて、ボーナスダイス+2か。

時緒PL:とはいえ、成功自体はできても、対抗で上の成功段階を出せる可能性は低い。
成利PL:まあなー。
時緒PL:例えばハードとハードになったら、
町田PL:POWの高い方が勝つ。
時緒PL:75。ちょうど同値だ。
成利PL:そうなったら1D100で勝負になる。
時緒PL:五分か。五分の賭けには持ち込める。
KP:あるいは呪文の場合、両者に悪い結果が出る、っていう裁定もありうる。

さすがに考え込むプレイヤーたち。

時緒:文弘が、……あいつがやったことなんなら、片をつけてやんねえとなあ。

時緒PL:って言っちゃうよなあ……
成利PL:うん……w

町田:雪乃さん、少々お話があります。あなたを〈説得〉します。
KP:説得内容は。
町田:森下先生が既に亡くなっていること。その姿をしたものが訪れても、扉を開けないこと。

町田はこの判定にイクストリーム成功。
雪乃は涙を浮かべながらも深く頷いた。

成利:少なくとも、文弘を殺した殺人野郎がこの近くにいるんだろ。
町田:それなのですが。ここにやってきた人物が、モリスさんの「成り代わり」なのですか。
時緒:ああ。殺した奴に成り代わるタイプのドッペルゲンガー、だ。
成利:たち悪いな……
時緒:恐らくだが、文弘を「消化」しきったらあいつの姿になる。

時計が21:45を指した。
玄関から、ピンポーン、という音が、奇妙に間延びして聞こえた。

▼そして、第3の

成利:銃は効かねえんだっけか。
時緒:効かねえ。だから、……お前は雪ちゃんを守ってくれ。
成利:前に出る。
時緒:なんで。
成利:呪文を唱え終える前にお前が殴られて死んだらどうする。
時緒:……。
成利:壁は要るだろうが。

ピンポーン。

時緒、成利が玄関に向かう。
町田は雪乃を庇いつつ寝室へ移動する。
扉の外の存在はノブを回すが、成利が帰宅時に施錠を宣言していたため開けられない。

成利:俺が警察入って鍛えたのはさあ。
時緒:ああ。
成利:化け物と喧嘩するためじゃねえんだけどなあ。(身構える)
時緒:俺がラテン語勉強したのだって魔導書読むためじゃあねえよ。(本を開く)
町田:坂崎先生。
時緒:おう。
町田:プロット案、残っていますので。
時緒:……、
町田:どうか。仕上げのほうを。
時緒:……。(笑う)分かった。

ガチャガチャ。ピンポーン。

?:こんばんはー。ジャックです。ジャック・モリスです。

成利:ジャック・モリスなのか。
時緒:開けないと言ったら。
?:魔導書さえ渡して頂ければ構いません。妖蛆の秘密。あるんでしょう、ここに?
成利:ねえっつったらお前は帰るのかよ。文弘をどうした!
?:いや、私にはトンと存じ上げないことですが。

寝室で声を聴いていた町田が〈心理学〉に成功。
明らかな嘘だ、と見抜いて合図を送る。

?:私は本当に魔導書が欲しいだけなのですよ。
時緒:その魔導書ってのは、
?:はい!
時緒:こんなことが書かれてる魔導書か?

時緒が扉越しに仕掛けた。従属の呪文の詠唱を開始する。
ジャック・モリスの姿をしたものの態度が豹変し、
「やめろ!」と叫んで扉に打ちかかった。
成利が時緒の前に出て警棒を構える。

巨大な牙や爪のようなものが扉を削る音。
正気度判定が要求される。
時緒が失敗、正気度減少は1。成利と町田は成功。

?:ソノジュモンヲヤメロオオ!!

時緒は手を震わせながらも呪文を唱え続ける。
化け物は扉を壊そうと判定を行うが、すぐには破壊できなかった。
DEXの値は時緒が65、化け物が40。
間一髪、詠唱が先に完成した。

対抗POWロールが発生。
時緒がこれにイクストリーム成功で勝利した。

?:ヤメロ! ヤメロオオ!
時緒:(震え声で)外なる世界に、……還れ……!!

次の瞬間。
軋み、揺らいでいた扉の向こうが、
電源を落とされたかのように唐突に無音になった。

時緒:……。ありがとう、成利。
成利:……。おう。
時緒:破りにかかられたのが扉でよかった。
成利:全くだ。俺が千切れ飛ぶとこだぜ。

扉の外には誰も、いや、何もいなかった。
騒ぎを聞いて出てきたマンションの住民が、傷だらけの扉を見て驚いた顔をする。

成利:……は。
時緒:――雪ちゃん、町田さん、

疲弊した顔で笑い合い、寝室に声を掛けようとした、その時。

KP:坂崎。君には、さっきの一瞬「星の吸血鬼」と従属呪文でつながったので閃くことがある。
時緒PL:はい。
KP:いま倒したのが、ジャック・モリスの呼び出したほう。――もう一匹、いる。

▼再会

時緒:! ……成利! 扉を――

KP:居場所も分かる。INT判定。
時緒PL:……幸運を21消費して成功させます。レギュラー。
KP:上。このマンションの屋上だ。

時緒:……もう一匹。上、だ。
成利:まじかよ。
時緒:行くか。
成利:ああ。

成利は出てきているマンションの住民に警察手帳を見せ、
「マンションに暴漢が入り込んでいるから、近くの公園に避難を」を指示をする。

成利:編集者さん。俺と時緒はもう一匹をどうにかしに行く。どうする。
町田:まあ、……何かあった時の、壁は必要だと思うので。
成利:(自分も言ったことなので何も言えずに笑う)
KP:じゃあ3人で行くんだね。
成利:雪ちゃん。
雪乃:はい。
成利:みんなと一緒に公園に行ってな。
雪乃:でも、兄さんのしたことなら……
成利:(優しく)成利にぃと時緒にぃに任せろ。

雪乃は涙を浮かべながらも、その言葉にうなずいて駆けて行った。

成利:時緒、もう一回いけんのか。
時緒:何とかな。さっきより確率は下がる。
町田:……屋上、でしたか。

町田PLが、屋上に上がるよりは最上階の天井越しに呪文をぶつけようと立案。
成利が〈ナビゲート〉で「703号室」からなら行けると割り出した。

703号室に向かうも、扉にはもちろん鍵がかかっている。
マンションの廊下から、成利が警棒で扉の鍵を破壊しにかかる。
一撃では壊すことができず、幾度か判定を行ううち、KPが謎の判定を行い始めた。
そして。

「星の吸血鬼」が先に階下からの異音に気づき、屋上を這い――

KP:ではアイデア判定をお願いします。

町田と時雄がこれに成功。
振り向くと、屋上からだらりと逆さまに垂れ下がって来ていたものがあった。
それは、人間をゼリー状の素材に変え、無数の触手を生やしたような「なにか」。
そしてその人間の常識を大きく外れたおぞましいものの顔の部分だけが、
森下文弘の特徴を否定しようもなく備えていた。

正気度判定が発生。
「文弘の姿で来ると覚悟ができていた」ことで、10%のボーナスが与えられた。
判定には全員が成功、正気度減少は2ポイント。
あやうく誰も一時的狂気に陥ることはなかった。

ここから全員がDEX順に行動する。
65の時緒が従属の呪文の詠唱を宣言。
今度のダイスボーナスは1つのみ。
星の吸血鬼との対抗POWロールの結果、
時緒が再びイクストリーム成功を叩き出して勝利した。

異形の者を、元居た世界に送り返した時緒は、

時緒:その姿を絶対に、……雪ちゃんに、見せるんじゃねえ……。

絞り出すようにぽつりと、呟いた。

▼エンディング

KP:また一瞬吸血鬼とつながった結果、もう文弘から関連した吸血鬼はこの世界にいないと分かります。

時緒:(膝をつく)
成利:……どうすんだ、その本。
町田:火がつくことは確認済みです。
時緒:他の奴に対抗するときのため…… っつってこれを俺が持ち続けると、きっと同じことが起きる。
成利:お前が呼び出しちまうと?
時緒:(頷く)魔導書ってのはどうも、そういうもんらしいぜ。

成利PL:KP。
KP:はい。
成利PL:俺がこの件を警察に伝えると、警視庁のなんとかファイル課みたいなエキスパートがやって来てこの本を封印してくれたりはしませんか。
KP:(笑)残念ながらそういう課はありませんね!

時緒:……焼く、か。
町田:その。坂崎先生はその本なしでもあれを呼び出せてしまうのでは?
KP:今の段階では仮の習得です。本なしで呼べるほどではない。
時緒:あの魔法陣ぜんぶ暗記まではできてねえや。
町田:であれば、その隙に。……消してしまいましょう。

マンションの屋上で、3人は魔導書に火をつけた。
魔法陣を拭き消した布と共に、全ては炎の中へ。
煙の向こうで、朝日の輝きが東の空を染めはじめていた。

KP:
「外から訪れたものを安易に呼び入れてはならない。
 それが慈悲深い無知の薄膜を破ってやってきたものならば――」

時緒:――という文章を、町田さんから託された、文弘のプロットから起こした共作の締めにします。
町田:そして、そのタイトルは。

原作:森下文弘、共著:坂崎時緒。
稀代のリアリティを持つ怪奇小説『外から訪れたもの』が、
作家・森下文弘の遺作となった――。