新クトゥルフ神話TRPG、シナリオ「外から訪れたもの」のリプレイを掲載します。
肌がぞわぞわするような恐怖の付きまとう、とても楽しいシナリオ、そしてセッションでした。
KPはMPKさんです。
3時間ほどのセッションの簡易リプレイなので、
さらっとスナッククトゥルフとしてお読み頂けるかと思います。
※「外から訪れたもの」は、新クトゥルフ神話TRPG、サプリ「ビブリオテーク13」掲載のシナリオです(著:黒崎江治先生)。
当リプレイは当該シナリオの大幅なネタバレを含みますので、PLとしてプレイ予定の方の閲覧はお避けください。
●探索者とNPC
【探索者】
▼上島 成利(カミシマ ナリトシ/男性/29歳)
PL:ありろくん
職業は刑事。
ぶっきらぼうだが情に篤い性格をしている。面倒ごとを押しつけられやすい。
坂崎、森下とは高校時代に仲の良い3人組だった。
得意技能は〈近接戦闘(格闘)〉〈射撃〉〈聞き耳〉。
STRが高い。
▼坂崎 時緒(サカザキ トキオ/男性/29歳)
PL:遥 唯祈
作家(自称)。実際は時折ウェブニュースの記事を書く程度で、長編小説は一度持ち込みをして没を食らって以来一作も仕上げていない。自信だけはあり、胸を張って作家を自称する。
上島、森下とは高校時代に仲の良い3人組だった。
得意技能は〈ラテン語〉〈オカルト〉〈目星〉。
POWが高い。
▼町田 武蔵(マチダ ムサシ/男性/29歳)
PL:やっきぃくん
編集者。
NPCの作家、森下文弘の担当をしている。
(いちおう坂崎の担当でもあるが、もう2年は作品を受け取っていない)
穏やかで丁寧だが、作家の〆切には厳しいタイプ。
得意技能は〈言いくるめ〉〈説得〉〈図書館〉。
INTが高い。
【NPC】
▼森下 文弘(男性/29歳)
怪奇小説作家。デビュー作は「天竺鼠の館」。
柔和で人当たりの好い性格だが、
頑固でこだわりが強い一面がある。
仕事は着実で、これまで〆切を破ったことはなかった。
▼森下 雪乃(女性/21歳)
文弘の妹。医大生。
兄妹の仲は良いようだ。
小学生の頃は上島と坂崎のことを「成利にぃ(兄)」「時緒にぃ」と呼んで慕っていた。
●リプレイ本編
▼事の始まり
時緒:町田さんがいるってことは、文弘の相談って作品が詰まってるとかの話?
成利:だったらなんで俺たちが呼ばれてんだよ。
時緒:刑事の経験談が要るとか。
成利:お前は?
時緒:俺はほら、作家仲間だから!(ドヤァ)
成利:ほんとお前のその自信どっから来てんだよ!?
時緒:コンビニ行ってるとか?
成利:5時に呼ばれたから来たんだぜ。お前じゃあるまいし。
町田:……私だからダメなのかもしれません。ご提出が滞っているので……
時緒:そっかー、あるある!
隣の主婦:ご在宅だとは思うんですけれど、しばらく前から様子がおかしくて……
町田:様子がおかしい?
隣の主婦:はい。いつもきちんとしていた方なんですが、髪も乱れがちで、髭も伸ばしっぱなしに……
探索者たち:(顔を見合わせる)
隣の主婦:もしかしたら、病院かなにかに行かれたのかもしれません。
町田:病院?
隣の主婦:はい。……実は、昨日の早朝に…… 悲鳴のようなものが聞こえまして。
▼探索
町田:先生? ……お邪魔しますよ?
成利:鍵……? 中に居んのか?
時緒:……待て待て、クモ膜下出血で倒れてるとかそういうんじゃ……!
町田:先生。先生!?
KP:返答、人影はありません。LDKの対面型のキッチンは設備も整っています。文弘はまめに自炊をする人間でしたが、今はシンクが汚れています。
時緒:お皿とか?
KP:そうです。汚れた皿やパッケージが積みっぱなし。
時緒:珍しいな。
町田:先生……?(寝室へ)
成利:編集者さん? なんかあった?
町田:いえ…… これは……
時緒:(洗面所からのんきに)なんだ、帰ってきたんじゃねえか。
成利:……。(慎重に扉を開ける)
▼来訪者
モリス:私は、手違いでここに来てしまった“ある本”を回収しにきたのです。
成利:本?
モリス:とっても、とっても危険なものなのです。
成利:危険な本なんてもんがあるのか?
モリス:きっとあなたには信じられないと思うのですが、その本は『妖蛆の秘密』といいまして。
成利:よう…… そ?
モリス:黒い革の装丁の、これくらい大きな本ですから、見ればわかると思います。
成利:それは、森下があんたに渡すと言ってたんで?
モリス:いえ。私が元の持ち主で、手違いで文弘さんに渡ってしまったので、
成利:……(怪訝な顔)
モリス:この本は本当に危険です。異界の魔物を呼び出す召喚の呪文が載っているんですよ。
モリス:本当に、読むだけでも正気を蝕みかねないんです。
成利:はー……? おーい、時緒。時緒!
時緒:なんだよ、文弘帰ってきたんだろ? なにやって…… は?
成利:ようその…… ひみつとかいう。
時緒:ヨウ素?
成利:ヨウ素のひみつ。小学校の理科の学習漫画かなんかか?
時緒:ジャガイモ? ジャガイモの話???
モリス:では、本は見ていないんですね?
成利:そこまで目立つ本は見てねえな。
モリス:もしも見つけたら、触らないでくださいね。私、また来ます。
時緒:お、おい。連絡先か何か……
モリス:すみません。日本に来たばかりで。
▼残されたのは
町田:そろそろ、警察への連絡をした方が良いのではないかと思うのですが。
時緒:成利ー?
成利:応援呼ぶか。……だが、この状況じゃ……
町田:いえ、特に聞いたことはないですね。
時緒:そうか……
町田:ですが、先生は資料の翻訳作業に難航しておられるということでした。
時緒:資料。
町田:ええ。どんな本を翻訳していたのか……
成利:……黒い、革の。
町田:黒い?
成利:なんとかの…… なんとかっていう。
時緒:なんもわかんねえじゃねえかよ。……たしか、「ヨウソノヒミツ」って。
成利:なんかが召喚できるって。
町田:またまた、ファンタジーやメルヘンじゃあないんですから。
時緒:……煮詰まった文弘が、本に書いてあった召喚を、試した……?
町田:ありえない話だという前置きをしたうえでですが。
成利:おう。
町田:ここに、恐らく生物的な分泌液が。
時緒:蛆、……
成利:ここに出る窓の鍵は、
町田:閉まっていました。
時緒:じゃあ、これを描いた後、一度中には戻ってる。飛び降りたってことはないはずだ。
時緒:……そういや、玄関行く途中にも血痕があったんだよな。
町田:はい。それで事件性を疑ったのですが。
時緒:リビングのドアは開いてた。
町田:開いていました。
時緒:文弘はきちっとした性格だ。
成利:開けっぱってこたぁ、あんまりねえよな。
時緒:何かがあって、……走って、裸足で、外へ出た……?
▼「本」
成利:……さっきそのおっさん、来たろ。
時緒:盗み出したもんだからこういう曰くをつけた、とかじゃ、ねえの……?
町田:さっきの方。影が無かったとか、鏡に映らなかったとか、そういうことはありませんよね?
時緒:無かったと思うぜ?(アイデア判定失敗)
成利:ああ。
時緒:……。俺なら、資料本をどこに置く……?
時緒:――町田さん。
町田:はい。
時緒:「天竺鼠」のISBNコード、出せる?
町田:はい。ちょっと待ってくださいね。
時緒:秘密。……secret、……ちがう。"mysterium"だ。
成利:俺トイレ行ってくるわ。
時緒:おう行け行け。こっちは少しかかりそうだ。
成利:おい、こっちにも書いてあったぞ。
町田:寝室に本はなさそうです。
成利:時緒、なんかあったか?
時緒:んー……(フォルダを開く)
時緒:30分くれ。どうにかして読んでみる。
成利:分かった。なんか飲む?(冷蔵庫へ)
時緒:炭酸水。
町田:お構いなく。
▼第2の来訪者
?:文弘にいさん、開けて! 私、雪乃!!
成利:雪ちゃん!?(扉を開ける)
雪乃:成利にぃ!!(抱きついてくる)
雪乃:文弘にいさんは、いないの?
成利:……いない。俺たちも今探してるところだ。時緒も来てる。あと編集者の兄ちゃんか。
成利:……(渇いた笑い)。おい、見つかったぞ?
時緒:なにがー。
成利:本。
時緒:は?
成利:雪ちゃん、雪ちゃん。大丈夫だから来い。
成利:で、3日前にこの本が雪ちゃんとこに送られてきたんだとよ。
町田:……失礼しますね。
時緒:虫…… 妖蛆、の、……神秘。秘密。
雪乃:みなさんがいてよかった。さっき外で男の人に呼び止められて。
成利:外人さん?
雪乃:うん。ジャックっていう人で…… この本を渡せって迫られたの。
町田:(本を開いている)
雪乃:何でかもわからないし、何をされるかもわからなくて、逃げてきたの。
雪乃:にいさんはどこにいるのかな……
成利:俺たちも探してる。あいつに呼ばれた時間にここに来たんだよ。
雪乃:じゃあ、きっとこの本に秘密があるんだわ。
町田:雪乃さん、落ち着きましょう。事実としてあるのは、先生が失踪したということです。
時緒:成利さあ、あいつスマホその辺においてたりしねえ?
町田:鳴らしてみましょうか。
成利:頼むわ。
町田:……ありました。
町田:これがありました。逆に、ジャック・モリス氏との通信履歴はないですね。
KP:ないです。
時緒:わかった。その間は頼む。
町田:そろそろ、夕食を取りましょうか。
成利:雪ちゃんもいるしな。
▼21:00
時緒:呼び出して、……呼び出したものに、やられた……?
成利:それで。何が書いてあった。
時緒:文弘が妙なものを…… これ以上は聞かない方がいい、妙なものを呼び出したっていうのは本当らしい。
成利:あのバカ、何のために。
時緒:あいつは、……資料を確かめなければ書かない真面目なやつだった。
時緒:……落ち着いて、聞いてくれるか。
町田:はい。
時緒:もうすぐここに、文弘がやって来る。
成利:は……?
時緒:絶対に。扉を、開けるな。
成利:帰って来るんじゃ、ねえのか。
時緒:正確に言う。文弘の姿をした何かが現れる。だがそれは文弘じゃない。
成利:(呻く)
時緒:俺たちにできるのは、できるだけ早くここを離れて、二度と近づかないことだ。
町田:ドッペルゲンガーのようなものでしょうか?
時緒:ああ。それをすごく悪化させたようなもんだ。
町田:確認しましょう。その本を求めてきた人がいましたね?
成利:そうだな。
町田:渡した方が良いものですか?
時緒:いいや。絶対に駄目だ。
成利:そうなのか。
時緒:この本には、化け物に言うことを聞かせる方法も書いてある。「あれ」は、それを無きものにしようとしている化け物のほうだ。
時緒:これを俺たちが使うことができれば、そいつを元の世界に追い返すこともできるだろう。だが……
時緒:文弘が、……あいつがやったことなんなら、片をつけてやんねえとなあ。
町田:雪乃さん、少々お話があります。あなたを〈説得〉します。
KP:説得内容は。
町田:森下先生が既に亡くなっていること。その姿をしたものが訪れても、扉を開けないこと。
成利:少なくとも、文弘を殺した殺人野郎がこの近くにいるんだろ。
町田:それなのですが。ここにやってきた人物が、モリスさんの「成り代わり」なのですか。
時緒:ああ。殺した奴に成り代わるタイプのドッペルゲンガー、だ。
成利:たち悪いな……
時緒:恐らくだが、文弘を「消化」しきったらあいつの姿になる。
▼そして、第3の
成利:銃は効かねえんだっけか。
時緒:効かねえ。だから、……お前は雪ちゃんを守ってくれ。
成利:前に出る。
時緒:なんで。
成利:呪文を唱え終える前にお前が殴られて死んだらどうする。
時緒:……。
成利:壁は要るだろうが。
成利:俺が警察入って鍛えたのはさあ。
時緒:ああ。
成利:化け物と喧嘩するためじゃねえんだけどなあ。(身構える)
時緒:俺がラテン語勉強したのだって魔導書読むためじゃあねえよ。(本を開く)
町田:坂崎先生。
時緒:おう。
町田:プロット案、残っていますので。
時緒:……、
町田:どうか。仕上げのほうを。
時緒:……。(笑う)分かった。
?:こんばんはー。ジャックです。ジャック・モリスです。
成利:ジャック・モリスなのか。
時緒:開けないと言ったら。
?:魔導書さえ渡して頂ければ構いません。妖蛆の秘密。あるんでしょう、ここに?
成利:ねえっつったらお前は帰るのかよ。文弘をどうした!
?:いや、私にはトンと存じ上げないことですが。
?:私は本当に魔導書が欲しいだけなのですよ。
時緒:その魔導書ってのは、
?:はい!
時緒:こんなことが書かれてる魔導書か?
?:ソノジュモンヲヤメロオオ!!
?:ヤメロ! ヤメロオオ!
時緒:(震え声で)外なる世界に、……還れ……!!
時緒:……。ありがとう、成利。
成利:……。おう。
時緒:破りにかかられたのが扉でよかった。
成利:全くだ。俺が千切れ飛ぶとこだぜ。
成利:……は。
時緒:――雪ちゃん、町田さん、
▼再会
時緒:! ……成利! 扉を――
時緒:……もう一匹。上、だ。
成利:まじかよ。
時緒:行くか。
成利:ああ。
成利:編集者さん。俺と時緒はもう一匹をどうにかしに行く。どうする。
町田:まあ、……何かあった時の、壁は必要だと思うので。
成利:(自分も言ったことなので何も言えずに笑う)
KP:じゃあ3人で行くんだね。
成利:雪ちゃん。
雪乃:はい。
成利:みんなと一緒に公園に行ってな。
雪乃:でも、兄さんのしたことなら……
成利:(優しく)成利にぃと時緒にぃに任せろ。
成利:時緒、もう一回いけんのか。
時緒:何とかな。さっきより確率は下がる。
町田:……屋上、でしたか。
KP:ではアイデア判定をお願いします。
時緒:その姿を絶対に、……雪ちゃんに、見せるんじゃねえ……。
▼エンディング
KP:また一瞬吸血鬼とつながった結果、もう文弘から関連した吸血鬼はこの世界にいないと分かります。
時緒:(膝をつく)
成利:……どうすんだ、その本。
町田:火がつくことは確認済みです。
時緒:他の奴に対抗するときのため…… っつってこれを俺が持ち続けると、きっと同じことが起きる。
成利:お前が呼び出しちまうと?
時緒:(頷く)魔導書ってのはどうも、そういうもんらしいぜ。
時緒:……焼く、か。
町田:その。坂崎先生はその本なしでもあれを呼び出せてしまうのでは?
KP:今の段階では仮の習得です。本なしで呼べるほどではない。
時緒:あの魔法陣ぜんぶ暗記まではできてねえや。
町田:であれば、その隙に。……消してしまいましょう。
KP:
「外から訪れたものを安易に呼び入れてはならない。
それが慈悲深い無知の薄膜を破ってやってきたものならば――」
時緒:――という文章を、町田さんから託された、文弘のプロットから起こした共作の締めにします。
町田:そして、そのタイトルは。