9:30〜11:30
「ということで、面接はなんやかんや言われていますが、リラックスしてあなたらしさを出してくれれば全然大丈夫です」
全然大丈夫じゃない!わたしらしさって言葉嫌い!いつも一緒の子が言う。ゆるゆるのファッションとは一転、黒のピチッとしたやつだ。わたしも彼女とお揃いのピチッとしたやつ。説明会の開始早々もう苦しくなってきた。知らないふりしているけど、背中側に亀裂が入り始めている気がする。
少し出しちゃおうよ、その子はイタズラっぽく囁く。
ダメよ、こういうところも見られているとかいうじゃない、だらしなく見えるわ。
困った顔でたしなめると、わたしはそういうので判断する会社はお断りだもん、とそっぷ向いてだらしなく緩み始めた。
だれもだらしなくしてないよ、みんな、ピチッと、キチッと、パリッと、してるよ。
知らなあいと、ゆるんだ彼女はとても気持ちよさそうにしていて、あちこち傷み始めたわたしも迷い始めた。このガチガチの形から解き放てられたらどんなに楽だろうか。みんな長時間はまり続けてよく大丈夫だなあ、なんて思いながら周りを見てみた。真隣なんてピカピカのとんがった形に収まっていた。鋭利であればあるほど選考に有利だとかなんとか。もちろんその分うんと窮屈だし苦しい。すごい……涼しい顔している!
こんなところでつまづいてしまってはダメだダメだ。わたしたちは、ここに来る時ですらちゃんと歩けなかった。
みんなスタスタ バリバリ テキパキ
あなたいつもみんなは、って言うけれど、みんなって何人よ
もうすっかり形にハマらずにブラブラしている彼女に言われた。
そりゃあみんなはみんなよ、全員よ、エブリワンよ
と少し遠く離れた前の席の子に目をやった。少しだけ形からハミ出て、解放された部分で一生懸命呼吸していた。
気づくとあちこちで息遣いを感じる。
スーハースーハー
よくよく見るとかなりとんがっていた彼も姿勢を何度も直している。
みんながみんな大丈夫なんてことないんだ。
わたしが感じていることは変じゃないって分かった瞬間、なんだか楽になった。
かといって右足を注意した手前、いきなり全部緩むのは気がひけるのでひょっこり頭だけ外に出してみた。
スーハースーハー
「ねえ、ひだりあし、明日はなんもないからお出かけ絶対にサンダルにしようね」
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