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タカラノツノ 第1話 #創作大賞2024#ファンタジー小説部門

あらすじ 北国の山村で農民の子として生まれた少年・タカには、生まれながらに頭に角があった。両親はこれをひた隠しに子どもを育てたが、父親が病死。同時に角のことも発覚し、村の不幸を「鬼」の仕業とする村人たちによって母親とともに村を追われ、流浪の旅に出る。
南へ下った二人は旅路の果てに捨丸という猟師と出会い、共に暮らすようになる。それまでと同様に、タカの角のことを隠しながらも山奥でそれなりの幸せを得て暮らす三人だったが、国の殿様が戦による侵略により、貧しい自国を繁栄させようと目論むようになると、その暮らしには暗雲が立ち込めはじめるー。

本編

 これから、「タカラノツノ」の話をしよう。タカラノツノの頭にはその名のとおり、ほうせきのように美しい角が一本、生えていた。そう、まるで鬼のように。そんな角をもって生まれた子の話を、これからはじめよう。

《生まれた村 かれた稲とはやり病》
 タカラノツノは、山にかこまれた、小さいけれど米のたくさんとれる北の村に住む、お百姓のわかいふうふのはじめての子どもとして生まれた。むっちりした手足していて、体ぜんたいもまるまるとしていた男の子だった。そうして生まれるとすぐに元気な大声で泣いた。その声にかあちゃんはにっこりほほ笑んで、息子の頭をなでた。その手がふと、頭のてっぺんで止まった。
 (どうしてこの子の頭の先は、ちょっととんがっているのかしら。)
かあちゃんはふしぎに思ったけれど、あんまり気にしなかった。もともおおらかなしょうぶんだったし、それいじょうに男の子はとてもかわいい元気な子だったから、かあちゃんにはそれでよかった。とうちゃんが空をとぶタカのように自由な、強い子に育つように、とその子にタカという名まえをつけた。

 とうちゃんもかあちゃんもお百姓だったから、かあちゃんはしばらくすると生まれたばかりのタカをつれて、朝早くから田んぼにはたらきに出かけ、日がくれると家に帰るようになった。ふうふは二人でおしゃべりしながら夕はんを食べた。かわいいタカをながめながら食べると、ごはんはいっそう、おいしかった。

 けれど月日がたつにつれ、かあちゃんもとうちゃんも自分たちの息子の頭のとんがりが、どんどんもり上がりつづけていることに気づきはじめた。タカが一つになった年のある朝、二人はそれが、小さな角になっているのを見つけた。そのすがたはまるで昔話に出てくる、悪さをして人を困らせる鬼が小さくなったみたいだった。
 それがわかって二人はとてもびっくりしたけれど、自分たちの子どもを悪い鬼だとは思わなかった。でも、ほかの人たちが同じように思うかはわからない。ひょっとしたら鬼だと言われて、殺されてしまうことだってあるかもしれない。二人は何日も話し合って、ある朝早くに子どもをつれ出し、夜おそくなってからその頭に手ぬぐいをまいて帰ってきた。そして村の人たちには、この子は頭に悪いおできができてしまって、お医者さまからてぬぐいをまいて、お日さまに当てないように言われたのだ、と話をした。

 でも生きていればいいことも、悪いこともおとずれる。悲しいことに、この家族にはその“悪いこと”が思うより早くおとずれた。

 それまで村では毎年、米がゆたかにみのった。だからかぞく三人は、食べることにはこまらずにすんだ。
しかしタカが四さいの夏をむかえた年、村の稲がとつぜん、いっせいにかれはじめた。大人たちは、大あわてでこやしをやったり、稲をからせる虫がいないかと一まい一まい、葉っぱをしらべたり、水をいつもよりたくさん田んぼに引き入れたりした。だが、稲は青いまま立ちがれてしまった。りゆうはわからないけれど、そういう病気になってしまったのだ、と大人たちは考えるしかなかった。

 けっきょくその年の秋にはほとんど米がとれなかった。年貢(ねんぐ)を取られてしまうと、それぞれの家にはもう、自分たちで売れる米はいくらも残らなかった。
 この村の人々は、米がたくさんとれる分、ほかの作物を育てることをしてこなかった。そのことがわざわいした。さいしょのうちはまだ自分たちのたくわえがあったが、米もお金もつきてきた村人たちは、だんだんやせこけていった。お腹がすくにつれ、けんかも多くなった。タカのむちむちとした手足も細くなって、ひもじくて何度も泣いた。でも、とうちゃんもかあちゃんも、それをどうしてもやれないのだった。

 弱り目にたたり目、とはよくも言った。そうこうするうちに、弱った村人たちの体に、悪いやまいがはやりはじめた。年がかわるころには、何人もの人たちがそのはやりやまいで死んだ。そしてその中にはタカのとうちゃんもいたのだった―。

 夫が死んでとほうにくれるかあちゃんと、幼いタカをあわれに思った村人たちが、とうちゃんのおそうしきを手つだいに来てくれた。
 かあちゃんは涙をこらえて、みんなにお礼を言いながらとうちゃんを見おくったけれど、タカはかなしくてさびしくて、「とと、とと」と泣きつづけた。そのすがたがあんまりあわれだったので、となりにすわっていたおばさんがかあちゃんの代わりに、タカの頭を、いたわるようになでた。その手が頭のてっぺんでふと止まった。
「 おや、やけにかたいねぇ。石でも入っているんじゃないかい?」おばさんはひとりごとのようにつぶやくと、タカの手ぬぐいを取ってしまった。

 かあちゃんが気づいて、はっとふりむいたときはおそかった。おばさんの大きな声がひびきわたった。
 「みんな、見ておくれ、この子の頭を!この子は鬼の子だよ!」それまでやさしかったおばさんの目の色が見る見るうちにかわるのを見て、タカは体のしんがぎゅうっとつかまれるような感じがして、体じゅう冷えた。こわさと悲しさで、それまで流れていたなみだは引っこんで、声が出せなくなった。
 「いいえ、ちがいます、ちがいます。この子は鬼なんかじゃありません。わたしの息子です。」かあちゃんは泣きさけぶように言ったけれど、みんなは信じていなかった。だってみんな、おばさんと同じような、つきさすようなするどい目でタカを見ていたから。
 「稲がかれたのも、村に病がはやったのも、この鬼がわざわいを呼んだからじゃないのか。」そう言った庄屋さまの声もきびしく、タカにはとてつもなくこわかった。
 「いいえ、この子は人間です。もしほんとうに鬼だというなら、この子が生まれた年にはもう、村はこんな風にひどいありさまになっていたはずではありませんか!」かあちゃんはがんばった。あとから考えれば、かあちゃんの言い分はまったくもって正しかったけれど、みんなは耳をかさなかった。飢えと病で打ちのめされ、みんなの心はささくれ立っていた。とうちゃんとかあちゃんがおそれていたとおり、タカを鬼の子だと思い、殺してしまおうという話も出たのだと、あとからかあちゃんは話してくれた。
 それでもかあちゃんは村の人たちとずっと仲がよかったから、こわかった庄屋さまも村の人たちも、だんだんかあちゃんの話を聞いてくれるようになった。けれど、タカのすがたがおそろしくてどうしても見ていられない、という人は何人もいた。
 けっきょくそれから何日も村の人たちと話し合ったかあちゃんは、タカをつれて村を出て行くことにしたのだった―。

 まだ雪が残るさむい朝、二人は村から旅立った。
 「よかったわ。お前まで私のそばからいなくなってしまわなくて。」と、かあちゃんがタカをだきしめて笑いかけたから、タカも笑っていられた。
雪のすき間から、赤い梅の花が二人を見おくってくれたから、タカはうれしかった。

#創作大賞2024

第2話:https://note.com/hal211/n/n8931cfff15e0
第3話:https://note.com/hal211/n/nbf8a4a3c08e1
第4話:https://note.com/hal211/n/n3fbdacc5abe8
第5話:https://note.com/hal211/n/neaa5fdfc0f32
第6話:https://note.com/hal211/n/n1f3394ed233d
第7話:https://note.com/hal211/n/na43a37274862
第8話:https://note.com/hal211/n/n9d2c9acb4a08
第9話:https://note.com/hal211/n/n8a68ebaab608
第10話:https://note.com/hal211/n/n26c79305ce66
第11話:https://note.com/hal211/n/n50e3b7beb0dc

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