令和6年(2024年)司法試験受験に関する備忘録


本記事の趣旨

せっかく司法試験を受験し、そこそこ独特かもしれない方法で学習のうえ合格したので、その旨記録に残し、まかり間違って誰かの何かの役に立つかもしれないと考え共有する。

書いてあること

  • 筆者の概要

  • 筆者が何をしたか

  • 筆者が使用した教材

  • 筆者の試験結果

  • 筆者の自己評価

備忘録なので、総じて筆者の経験については書いてある。

書いていないこと

  • 一般に、合格のために何をすればよいか

  • 一般に、合格のためにどの教材を使えばよいか

  • 司法試験予備校に関すること

  • 司法試験予備試験に関すること

備忘録なので、総じて(一般論を含め)筆者の経験していないことについては書いていない。

筆者のプロフィール

  • 東京大学教養学部(前期課程)文科一類に入学、修了

  • 東京大学法学部(第1類法学総合コース)に進学、卒業

  • 東京大学法科大学院(既修)に進学

  • 司法試験をロー在学中に受験、合格(倒産法選択)

  • 司法試験予備試験の受験経験なし

  • 司法試験予備校の使用経験なし

  • 資格取得が趣味、取得資格等の一覧はこちら

選択科目について

出願直前まで選択科目はこれといって決めておらず、出願当時の選択肢としては法学部で履修した労働法、法科大学院で履修した経済法、倒産法、租税法があった。何となく履修した松下淳一教授の倒産法の授業が予想を超えて面白かったため、倒産法を選択することとした。

試験対策

学習スケジュール

  • 適宜:基本書を読む

  • 2024年3月末~4月頭:短答式肢別(憲法・民法・刑法)1周目

  • 2024年5月~6月末:論文式問題・解説・解答例を閲読

  • 2024年6月1週目~3週目:短答式肢別(憲法・民法・刑法)2周目

  • 2024年7月10日~14日:受験

短答式試験対策

  • いわゆる肢別本(憲法・民法・刑法)を2周読んで解いた

  • 解答ページを手で隠して1問ずつ解き、解答を確認する作業の繰り返し

  • 1周目は概ね2週間、2周目は23日間で完了

  • 2020(令和2)~2023(令和5)くらいの短答式試験は本番直前にTKCの問題演習システムで解いた

論文式試験対策

  • TKCから入手した過去の論文式試験の問題、解説、解答例を読んだ

  • ダウンロードしたPDFファイルをdropboxに格納し、スマートフォンでもPCでも簡単に閲覧できるように設定

  • これを2006(平成18)から2023(令和5)まで1周実施

  • 2021(令和3)くらいから過去に遡る順序で実施、最後の直前期に最近2年分を実施

  • 答案構成は頭の中だけで実行、特にメモなど作成せず

  • 答案作成も頭の中だけで実行、特に紙や電子ファイルには書かず

使用教材

肢別本は憲法、民法、刑法について使用したが、ここには記載していない。六法も学習時にはほぼ使用していない(e-Gov法令検索を愛用している)。この他の演習書、論証集、模擬試験などは特に使用していない。

憲法

  • 芦部信喜『憲法 第7版』岩波書店

  • 渡辺康行、宍戸常寿、松本和彦、工藤達朗『憲法Ⅰ 基本権 第2版』日本評論社

  • 渡辺康行、宍戸常寿、松本和彦、工藤達朗『憲法Ⅱ 総論・統治』日本評論社

行政法

  • 宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論 第8版』有斐閣

  • 宇賀克也『行政法概説Ⅱ 行政救済法 第7版』有斐閣

  • 宇賀克也『行政法概説Ⅲ 行政組織法 第5版』有斐閣

民法

  • 佐久間毅『民法の基礎1 総則 第5版』有斐閣

  • 佐久間毅『民法の基礎2 物権 第2版』有斐閣

  • 道垣内弘人『担保物権法 現代民法3 第4版』有斐閣

  • 中田裕康『債権総論 第4版』岩波書店

  • 潮見佳男『基本講義債権各論 契約法・事務管理・不当利得 第3版』サイエンス社

  • 潮見佳男『基本講義債権各論 不法行為 第3版』サイエンス社

  • 窪田充見『家族法 民法を学ぶ 第4版』有斐閣

商法

  • 田中亘『会社法 第4版』東京大学出版会

民事訴訟法

  • 三木浩一、笠井正俊、垣内秀介、菱田雄郷『リーガルクエスト民事訴訟法 第3版』有斐閣

刑法

  • 大塚裕史、十河太朗、塩谷毅、豊田兼彦『基本刑法1 総論 第3版』日本評論社

  • 大塚裕史、十河太朗、塩谷毅、豊田兼彦『基本刑法2 各論 第3版』日本評論社

刑事訴訟法

  • 酒巻匡『刑事訴訟法 第2版』有斐閣

倒産法

  • 松下淳一 作「東大ロー2023年度Aセメスター倒産法授業レジュメ」

  • 松下淳一、菱田雄郷 編『倒産判例百選 第6版』有斐閣

試験結果

合格した。
以下の試験結果は、結果通知書の記載による。

短答式試験結果

  • 憲法 40点/50点

  • 民法 73点/75点

  • 刑法 46点/50点

  • 合計 159点/175点(10位)

論文式試験結果

  • 公法系 103.33点/200点(第1問憲法B、第2問行政法B)

  • 民事系 203.10点/300点(第1問民法A、第2問商法A、第3問民事訴訟法A)

  • 刑事系 107.06点/200点(第1問刑法A、第2問刑事訴訟法B)

  • 倒産法 59.27点/100点

  • 合計 472.77点/800点(300位)

総合結果

  • 総合得点 986.36点/1575点(211位)

所感

肯定的に評価しうる点

  • 受験当日まで健康を維持し、終始楽しみながら学習を進めることができた。

  • 特に受験当日は、気心知れた法科大学院の仲間(特にクラスメイト)が同じ受験会場に集まっており、精神的な支えとなった。大学入試センター試験(当時)の雰囲気が思い出された。

  • 法科大学院における学業と両立しながら進めることができた。

    • これが在学中受験を躊躇していた最大の理由であったが、東大ローにおいては3年次の必修の科目などを学期の前半に固める配慮がされており、結果として大きな問題は発生しなかった。

    • この学期において、前半(4~5月)は週12コマ、後半(6~7月)は週6コマで18単位を取得し、修了に際しての単位数不測の弊も特に発生していない。ついでに、成績にも概ね満足している。

  • 基本書を(ものによっては繰り返し)読み込むことで、試験対策のみならず法科大学院の授業にも好影響がもたらされた。

  • 短答式試験について、短期間ながら集中的な演習を実施し、満足のいく成果を達成した。

  • 受験当日、回答中にボールペンの黒インクが切れたものの、あらかじめ想定して対策を講じていたため、慌てることなく予備のインクに切り替えて回答を継続できた。

否定的に評価しうる点

  • 論文式試験について、明らかな準備不足、特に演習不足があった。

    • 特に、本番形式の問題について、自主的にあるいは模擬試験で等の形式を問わず、一度も答案を書くことなく受験当日を迎えたことは、準備不十分を超えて無謀の評価を免れない。

    • 特に筆者については、司法試験予備試験の論文式試験に向けて十分な対策を積んだなどの事情もない以上、やはり通り一遍の演習という形での対策は行うことが望ましかったように思われる。

    • いわゆる論証(パターン)については意識することがなかった。そもそも筆者は論証(パターン)がどのようなものかほぼ理解していないため、この点については肯定的にも否定的にも評価しがたい。

  • 法科大学院の同期など周囲の受験者と比べると、具体的な試験対策に着手するのがやや遅れた。

    • しかし実際問題、これ以上に早期から具体的な試験対策に着手する実益を感じなかった(すなわち、「もっと早くから試験対策をしていれば、もっと良い成果を残せただろう」とはどうも感じられていない)ことも偽らざる実感であり、特に東大ロー2年次のカリキュラムに追従しながら並行して試験対策を進めるだけの意欲も能力も筆者にはなかったとも評価しうる。

    • もっとも、今後例えば司法修習に取り組んだ際などに、このことゆえの、他の受験者と比較した理解の甘さが露呈する可能性はあると考えている。その場合には甘んじて現実を受け入れ、粛々と研鑽を積んで追いつくよう試みるより他にないように思われる。

終わりに

筆者は、法科大学院における学業との両立の可能性について自信が持てなかったため、在学中に司法試験を受験するか否かについてはかなり迷いがあったものの、結局のところは受験することを選んで正解であったと評価している。というのも、仮に受験することを控えていたら、当年6月から7月にかけての授業の少ない時期を有効に使うことも、また翌年の司法試験の受験後に生じる何の予定もない半年以上の期間を有効に使うことも筆者にはできなかったであろうと考えられるからである。もっとも、受験料28,000円を納付はしたものの、仮に翻意して受験をやめたとしても何かそれ以上のペナルティを負うわけでもないと楽観的に捉えていた部分は少なからずある。

本稿の執筆においては、追記修正の可能性は留保しつつ、なるべくありのままの自己評価を備忘録として記述したつもりである。「終始楽しみながら学習を進めることができた」との自己評価もあわせれば、かなり軽率に受験に臨んでいるとのそしりを免れないかもしれないが、いかなる記録も無いよりはましと考え、恥を忍んでここに共有することとする。

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