差別と偏見 5
【第二章】-2『開始された戦い』
寮に帰った二人はみんなを自分たちの部屋に集めこの日の出来事を伝えると、まずこの日の結果を尋ねたのはアリであった。
「どうだったマイク」
「まあ聞いてくれ、今日会った弁護士の先生が手を貸してくれるそうだ。お金もかからない」
「大丈夫なのかそれ?」
「どういう意味だそれ?」
ソムチャイの言葉に一体何の事かと不思議そうに尋ねるマイク。
「この国の言葉でタダより高い物はないという言葉があるそうだ! お金がかからないのは助かるがほんとに大丈夫なんだろうな?」
ソムチャイに対し応えたマイクの声は落ち着き払っていた。
「大丈夫だ心配するな、今日会った弁護士の先生はNPOの活動もしていて僕たちの様に不当に扱われている外国人の支援をしているそうだ! だから僕たちの費用は掛からないそうなんだよ」
「そうなのか? 信じていいんだな?」
「ただそれには条件があって訴訟に発展しないことが条件だそうだ! つまり裁判だ。裁判になってしまうとその裁判費用が掛かってしまうそうだ。でもその裁判費用も慰謝料に裁判費用を上乗せして請求するから心配ないみたいだ。ただ裁判費用と言っても弁護士費用と訴訟費用は別で、訴訟費用はどうしても掛かってしまうそうだがそれもほとんど額は多くないらしい。いずれにしてもなるべくそうならないようにはすると言ってくれた。とにかく信じよう、他に解決策もないしな?」
「確かにそうだな、信じるしかないか」
ソムチャイの声であったが、そこへ飛んできたのはアリの声であった。
「でもさ、慰謝料がもらえるなら裁判になった方が良いんじゃねえか?」
「それがそうでもないんだよアリ。裁判になったからと言って勝てるとは限らない、勝てる可能性が高いのには違いないがな?」
マイクが応えると納得の言葉を口にするアリ。
「確かにそうかもな?」
マイクに代わり続きを説明するエリック。
「まずは会社に内容証明というものを出すそうだ」
次にマイクがICレコーダーを差し出しながら説明する。
「その後会社が何か言ってくるかもしれないから、その時このICレコーダーで会話を録音しておいてほしいそうだ」
「そうか、会社に何か言われても録音しておけば証拠になるという事だな?」
それはソムチャイの言葉であり、それにマイクが続ける。
「そうだな? とにかく今日はこれで解散しよう、あとは内容証明が届いて会社がどう出るかだ」
そうしてこの日は解散となった彼ら。
会社に内容証明が届いたのはその二日後の事だった。
その日の休憩時間、血相をかいて外国人社員全員を呼びに来る工場長の小林。
「お前ら外国人ちょっと会議室まで来い」
突然の指示にほら来たとばかりにぞろぞろと会議室に向かう外国人社員たち。会議室に向かう途中マイクはそっとポケットの中のICレコーダーのスイッチを押す。
会議室に入るとそこにはこの会社の佐々木社長が本社からやってきており代表してマイクが驚いた表情を浮かべながらも問いかける。
「お疲れ様です社長、突然どうしたんですか?」
「どうしたんですかじゃないだろ! 君たちは何をしたんだ一体」
社長の佐々木が言うがその言葉の端々には怒りがにじんでいた。
「突然なんですか?」
問いかけるマイクに対し工場長の小林が手紙のようなものを差し出しながら続ける。
「弁護士事務所からこんなものが来たよ、内容証明だそうだ」
「その事ですか……」
マイクの一言に小林は怒りの声で続ける。
「その事ですかじゃないだろ! 一体陰で何をやっていたんだ。住む家まで与えてやってこの仕打ちか、一体何が不満なんだ」
ここでエリックが反論する。
「何言っているんですか不満だらけですよ。あなた方は僕たちが外国人で日本の事を知らないことを良い事に給料を不当に安くしているじゃないですか、他の日本人の社員たちは僕たちの倍以上もらっているのに僕たちはその半分にも満たないなんて」
「なにを言っているんだ、マイクに聞いたのか? それはこの前も説明しただろ、君たち外国人と日本人ではスキルが違うんだよ、日本人の社員より君たちの方が能力が劣るんだ、給料が安いのは当然だろ」
「いい加減な事言わないでください! 僕たちだって日本で働くために頑張っているんです。日本人の社員こそさぼってばかりで僕たちばかりに仕事をさせているじゃないですか! それに日本人の社員にしかできない仕事があるのならわかります、でもそうじゃないじゃないですか。僕たちは日本人の社員たちと同じ仕事をしています、それなのにどうして僕たちの給料はこんなに少ないんですか?」
「仕事内容が同じなのは知っていたが、小林君本当なのか、日本人社員たちが外国人たちばかりに仕事をさせてさぼっていると言うのは?」
エリックの放った突然の告白と、それを問いただす佐々木の言葉にうろたえてしまう小林。
「そんな事ありません、日本人の社員もしっかり仕事をしています。何を言ってるんだエリック、君の方こそいい加減な事を言わないでくれ!」
小林の言葉に激しい口調で反論するマイク。
「エリックはいい加減な事なんて言っていません、工場長こそ日本人のみんなが仕事をしてないの知ってるじゃないですか! 工場長だってそうです、ほとんど現場に来ないでいつも何してるんですか」
「ほんとなのかそれは、どうなんだ小林君。さっき君は日本人の社員はきちんと仕事をしていると言ったな、ほとんど現場に行かないのにどうしてそんな事が分かるんだ?」
「何言っているんですか、私もちゃんと仕事していますよ! 確かに事務仕事も多いですが現場でもちゃんと仕事しています、部下の社員の事が分からないなんてことはありません。むしろさぼっているのは彼ら外国人の方です」
そう言う小林であったが嘘を付いているのは小林自身であり、その彼も事務仕事にかこつけてさぼっていることの方が多かった。
「そうか、では嘘を付いているのは外国人たちの方なんだな?」
事もあろうに小林の言葉を信じ、外国人たちの言葉は信じようとしない佐々木に憤りを感じ、マイクは激しく抗議する。
「どういう事ですかそれは、どうして工場長の言葉を信じて僕たちの言っていることは信じてくれないんですか!」
「当然だろ! 日本人の言う事は信じられるが君たちのような外国人の言う事なんて信じられないに決まってるだろ! 君たちはすぐ噓をつくからな?」
あまりの差別的発言に驚いてしまうしかなかったマイク。
「なんですかそれ、僕たちがいつ嘘をついたというんです。勝手なことを言わないでください、一体僕たちの事をなんだと思ってるんですか! あんた達日本人がそんなだから犯罪に走るしかない外国人が絶えないんだ」
同様に本来公平な立場でいなければいけない佐々木によるまさかの差別発言に怒りの声で叫ぶアイン。
「嫌ならやめてもらったって良いんだよ、そんな事出来ないだろ? なんたって君たちのパスポートはこっちにあるんだからな。お前らはうちの会社でずっと働き続けるしかないんだよ、安月給でな」
ついに本性を現した佐々木。
(なんだよこの会社クズばっかじゃねえか、とんでもねえところに入っちゃったな?)
この様に思うしかないエリック。
「とにかく僕たちはあなた方に負けません、最後まで戦い続けますからね。みんないくぞ!」
エリックがこの様に捨て台詞をはくと、みんなを引き連れその場を後にした。
つづく
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