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論点解析経済法(第2版)Q16 解答例

こんにちは。今日はあいにくの雨ですね。地域によっては雨が降ってないところもあるかもしれませんが、私の居住地は、けっこう強い雨が降っています。風邪をひかないように気を付けましょう。
さて、本日は、『論点解析経済法(第2版)』のQ16の解答例です。Q16は、Q14と同じく企業結合の問題です。ぜひ解いてみてください!

それでは、以下、解答例です。

1 A・B両社によるC社の設立は、独占禁止法15条の2第1項1号に反し、違法とならないか検討する。

2 A・B両社によるC社の設立は、「共同新設分割」(同法15条の2第1項柱書、同項1号)の方法により、出資比率各50%の共同出資会社であるC社を設立し、それぞれが営むα製品の製造販売事業をすべてC社に承継させるものである。

3 「一定の取引分野」(同法15条の2第1項1号)とは、市場すなわち特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性という観点も考慮される。
(1)α製品は4種類のグレードに分かれそれぞれ用途が異なっているが、α製品の製造販売業者は、4種類すべてのグレードのα製品を製造販売しており、設備、コスト、時間のいずれの面においても、それぞれ異なる種類のグレードに転換して製造販売することは容易であることから、各種グレード間での供給の代替性がある。そして、α製品は他の製品とは異なる性質・効能を有しており、α製品に代わる商品は存在しない。
 β製品はα製品に不可欠の原料であり、用途によっては、γ製品がβ製品に競合しうることもあるが、現在のところ、その規模は小さいものにとどまっていることから、β製品の需要の代替性は小さい。
 したがって、本件における商品の範囲としては、α製品の製造販売分野とβ製品の製造販売分野であると画定できる。
(2)α製品のユーザーは、全国的に所在しており、α製品の製造販売業者は、これに対応してα製品を供給していることから、α製品の製造販売分野における地理的範囲は日本国内であると画定できる。
 また、β製品のユーザーは、α製品の製造販売業者を含め、安定調達を優先する傾向が強く、輸送時間がかかる海外メーカーよりも国内メーカーから購入しており、今後もこの傾向に大きな変化はないものと認められることから、β製品の製造販売分野における地理的範囲も日本国内であると画定できる。
(3)よって、本件における「一定の取引分野」は、日本国内におけるα製品の製造販売分野と、日本国内におけるβ製品の製造販売分野である。

4 「競争を実質的に制限する」(同法15条の2第1項1号)とは、特定の事業者または事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態をもたらすことをいう。また、「こととなる」(同号)とは、企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが容易に現出しうる状況がもたらされることで足りるとする蓋然性を意味する。
(1)日本国内におけるα製品の製造販売分野について
ア C社はα製品の製造販売分野において、シェア40%で第1位の事業者となり、L社、M社、N社、O社との市場シェアの格差が大きくなる。そのため、C社の単独行動による市場支配力が形成・維持ないし強化されるとも思える。
 しかし、α製品の需要が減退傾向にあり、L~O社は、いずれも、α製品の製品設備の稼働率は低く、製造設備に余裕があるため、α製品の製品設備の稼働率が高くなれば供給余力は大きい。また、数年前までは、α製品の輸入品は、低価格であるものの、品質面で劣り、供給も不安定であったことからほとんどなかったが、近年では、韓国、中国からの輸入品の品質が向上し、輸入品と国産品との間に品質の差がなくなり、安定的に輸入が増加している。そして、α製品の輸入についての法規制は存在しないことも考慮すると、輸入圧力は大きい。さらに、ほとんどのユーザーは、複数の取引先から購入しており、α製品の品質に差がないことから、購入先を変更することは容易であり、実際にも、購入先を変更することが珍しくないことから、需要者からの競争圧力も認められる。
 そのため、単独的行動の観点から、C社は市場シェアが大きくなるものの、「競争が実質的に制限されることとなる」とは認められない。
イ また、前記の通り、ほとんどのユーザーは、複数の取引先からα製品を購入しており、α製品の品質に差がないことから購入先を変更することは容易であり、実際にも購入先を変更することが珍しくないことから、需要者間での競争は活発であるといえるため、需要者からの競争圧力が大きい。そのため、協調的行動の観点からも、「競争を実質的に制限することとなる」とは認められない。
ウ したがって、日本国内におけるα製品の製造販売分野において、「競争を実質的に制限することとなる」とは認められない。
(2)β製品の製造販売分野について
ア C社はβ製品の製造販売分野において、A社とB社との間接結合により、市場シェア65%で第1位の事業者となり、S社、T社、U社、V社との市場シェアの格差が大きくなる。そして、β製品の需要も減退気味であるが、S~V社はいずれも、近年、β製品の製造設備を縮小させてきており、製造設備に余裕がないことから、供給余力は小さい。β製品のユーザーは、α製品の製造販売業者を含め、安定調達を優先する傾向が強く、輸送時間がかかる海外メーカーよりも国内メーカーから購入しており、今後もこの傾向に大きな変化はないものと認められることから、輸入圧力も小さい。また、β製品の製造販売には、数百億円規模の巨額の設備投資が必要とされるところ、過去40年間、新たにβ製品の製造販売事業に進出した事業者は存在しないことから、新規参入圧力も小さい。さらに、β製品の製造販売業者とそのユーザーとの取引は、α製品の製造販売業者との取引の場合を含め、比較的固定的な関係にあり、取引先が変更されることは少ないことから、需要者からの競争圧力も小さい。
 そのため、単独行動の観点から、「競争を実質的に制限することとなる」と認められる。
イ また、前記の通り、β製品の製造販売業者とそのユーザーとの取引は、α製品の製造販売業者との取引の場合を含め、比較的固定的な関係にあり、取引先が変更されることは少なく、新規参入圧力も低いことから、C社は、S社等の他の事業者との協調的行動により、競争を実質的に制限する蓋然性があるといえ、「競争を実質的に制限することとなる」と認められる。
ウ したがって、日本国内におけるβ製品の製造販売分野において、「競争を実質的に制限することとなる」と認められる。
(3)よって、C社の設立は、日本国内におけるβ製品の製造販売分野において、「競争を実質的に制限することとなる」と認められる。

5 以上より、A・B両社によるC社の設立は、独占禁止法15条の2第1項1号に反し、違法となる。

6 A・B両社によるC社の設立については上記のような独占禁止法上の問題点があるところ、当該独占禁止法上の問題を解消するための措置について検討する。
(1)本件におけるA社・B社におけるC社の共同新設分割の方法による設立は、α製品の競争者間での企業結合、β製品の競争者間での企業結合であるため、水平的企業結合である。水平的企業結合の場合、問題解消措置としては構造的措置をとることが原則とされているが、本件においては、次のような行動的措置をとるべきである。
(2)まず、A社およびB社とC社との間で、β製品に関する価格や生産量等の情報遮断措置を設けるという措置をとることが考えられる。
(3)次に、A社およびB社から、β製品の開発および営業に長年従事してきた従業員数名ずつを、従業員として出向させることを取り止めさせるという措置をとることが考えられる。

以上

以上になります。なお、教授からは、「この問題を起案する際には、水平的企業結合について改定あれば十分ではあるが、垂直的企業結合についても触れることができればなおよい」とのコメントをいただいています。令和6年の司法試験では、企業結合の問題が出題されませんでしたので、令和7年以降の司法試験では、垂直型企業結合の対策も絶対にしておきましょう!

それでは、今回はここまでです。読んでいただきありがとうございました。


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