論点解析経済法(第2版)Q14 解答例
こんにちは。社会人の方はお仕事、学生の方は授業がそろそろ終わる頃でしょうか。残りのお仕事、授業もあと少しの間、頑張りましょう!
さて、本日は、昨日に引き続き、『論点解析経済法(第2版)』のQ14の解答例です。Q14は、企業結合の問題ですね。企業結合は、効果要件の認定がややこしいので、練習あるのみだと思います…!ぜひ、本問にも挑戦して、効果要件認定のコツをつかんでみてください!
それでは、以下、解答例です。
1 A社がB社からトラック製造部門を譲り受けること(以下、「本件譲受け」という)は、独占禁止法(以下、「法」という)16条1項1号に反し、違法とならないか検討する。
2 まず、B社のトラック製造部門は、「重要部分」に該当し、本件譲受けは「重要部分の譲受け」(法16条1項1号)に該当しないかが問題となる。
(1)重要部分の譲受けについて、法16条1項1号の趣旨は、事業譲受けを通じて市場において独立して競争的行動をとる主体が減ったり、事業を譲り受ける会社の意思決定の影響下にある事業等の範囲が実質的に変化したりすることにより、市場における競争が不活発となることを規制する点にある。
そこで、「重要部分」とは、事業を譲り受けようとする会社ではなく、事業を譲り受けさせようとする会社にとっての重要部分を意味し、当該譲受け部分が1つの経営単位として機能しうるような形態を備えるものをいう。
(2)本件において、B社は、トラックの生産において市場シェア20%を占めており、トラックの製造販売を行う競争単位として機能している。そのため、B社のトラック製造部門は、1つの経営単位として機能しうるような形態を備えているといえる。
(3)したがって、B社のトラック製造部門は、「重要部分」に該当し、本件譲受けは「重要部分の譲受け」に該当する。
3 「一定の取引分野」とは、市場すなわち特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性という観点も考慮される。
(1)トラック以外の自動車とトラックでは、用途や効用が異なることから、トラック以外の自動車とトラックとの間における需要の代替性は低い。また、A社の法務担当者は、「わが社の乗用車部門は今一歩の状況にあり、自動車メーカーとしては4位または5位であるにすぎません」と述べていることから、トラック以外の自動車とトラックでは、供給の代替性も低いといえる。
そのため、商品の範囲としては、トラックの製造販売分野と画定できる。
(2)また、特に海外メーカーとの取引があるとの事情はなく、日本国内においても限られた地域においてのみ取引があるといった事情もないため、地理的範囲としては、日本国内であると画定できる。
(3)したがって、本件における「一定の取引分野」は、日本国内におけるトラックの製造販売分野であると画定する。
4 「競争を実質的に制限する」とは、特定の事業者又は事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量、その他各般の条件を左右することができる状態をもたらすことをいう。また、「こととなる」とは、企業結合により、競争の実質的制限が必然ではないが容易に現出し得る状況がもたらされることで足りるとする蓋然性を意味する。
(1)本件譲受けが行われた場合、A社はトラック製造販売分野において、52%の市場シェアを有することとなり、第1位の市場シェアとなる。第2位の市場シェアを有するC社の市場シェアが23%であることを踏まえると、他の競争者による圧力は低いといえる。また、外国事業者の市場シェアが5%であることから輸入圧力も低い。
したがって、単独行動の観点から、A社は本件譲受けにより、市場支配力を形成する蓋然性があると認められる。
(2)本件譲受けをした際のA社の市場シェアは52%であり、2位のC社の市場シェアが23%、3位のD社の市場シェアが15%であることから、A社と他の競争者との間で市場シェアの格差が大きいため、協調的行動をとり市場支配力を形成するとは考え難いとも思える。しかし、市場シェアが10%を超える有力な事業者が、本件譲受けにより4社から3社に減少することを踏まえると、協調的行動をとることにより、市場支配力を形成する蓋然性があると認められる。
(3)よって、本件譲受けにより、「競争を実質的に制限することとなる」と認められる。
5 以上より、本件譲受けは、法16条1項1号に該当し、違法である。
もっとも、問題解消措置としてA社がB社に対してOEM供給を行う場合、上記独禁法上の問題点を解消することができないかが問題となる。
本件譲受け後においても、A社とB社がトラックの販売及びサービスを独立して行うのであれば、競争者の単位は減少しないこととなる。また、上記4の通り、本件譲受けにおける競争制限効果はそれほど大きなものではないことからすると、競争単位の減少がなければ、トラックの製造販売分野において、市場支配力を形成する蓋然性は認められない。
もっとも、OEM供給を行うにあたり、A社がB社に対し、B社の販売先、販売先への販売価格・販売分量を毎週A社に情報提供させると、B社は独立して販売活動を行うことができなくなるため、前記のような競争促進効果を期待することができない。
したがって、OEM供給を行うにあたりB社にA社に対する情報提供をさせなければ、上記問題解消措置により、本件譲受けは法16条1項1号に反しないこととなる。
以上
以上になります。この起案について、教授は、「問題解消措置については、原則の構造的措置に言及した上で、本件でのOEM供給について検討してもらうのが良い」とコメントされています。起案される際には、このコメントも参考にしてください。
それでは、本日はここまでです。本日も読んでいただきありがとうございました。