論点解析経済法(第2版)Q4 解答例
こんにちは。本日はお昼の投稿です。お勉強中の方もお仕事中の方も引き続き頑張りましょう!
さて、今回は、前回に続いて、『論点解析経済法(第2版)』のQ4の解答例です。経済法を学習中の方はぜひ参考にしてみてください!この解答例も教授に添削していただいてます。
第1 設問1
1 X1~X6が、会合を開いて、Tの市況に関する意見や情報の交換を行い、標準加工料金表を策定し、当該標準加工料金表を参考としてTの販売価格を設定する合意(以下、「本件合意」という)をしたことは、不当な取引制限(独占禁止法(以下、法名省略)2条6項)に該当し、3条後段に反し、違法とならないか検討する。
2 「事業者」(2条1項)とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいい、「他の事業者」(2条6項)とは、実質的な競争関係を含む、相互に競争関係にある独立の事業者のことをいう。
本件において、X1~X6は、日本において建築用資材Tの製造・加工・販売を行っている「事業者」(2条1項)である。そして、X1~X6は、いずれも日本においてTの製造・加工・販売を行っていることから、相互に競争関係にある独立の事業者であるといえる。
したがって、X1~X6のそれぞれの「事業者」は、それぞれの「他の事業者」と本件合意を行ったと認められる。
3 「共同して」とは、事業者間に意思の連絡があることをいう。そして、意思の連絡とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、明示の合意をすることまでは必要ではなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる。
(1)本件において、X2は、昨年9月10日の会合において、標準加工料金表を定めて、この表を参考にして販売価格を決定するという提案を行い、X1及びX3は、この提案に直ちに賛意を示している。そして、昨年10月10日の会合において、X1~X3の間では、規格全種類について標準加工料金について意見が一致するに至っている。そのため、X1~X3の間では、標準加工料金表を参考にしてTの販売価格を決定することについて、明示の合意に基づく意思の連絡があったと認められる。
(2)また、X5は、昨年9月10日の会合においては、標準加工料金表を参考にしてTの販売価格を決定することについて賛意を示さなかったものの、昨年10月10日の会合までにどのような標準加工料金を設定すべきかについて社内で検討し、昨年10月10日の会合において、その検討結果を述べて、標準加工料金をいくらにするかを話し合っている。そして、X5は、昨年10月10日の会合において、終始、X1らが提案する標準加工料金よりも高額にすべきだとして異議を唱え続けているが、当該異議は、標準加工料金表を参考にした販売価格設定を止めるべきだというような内容の異議ではない。さらに、X5は、標準加工料金表を参考とした価格設定の利用開始時期に関する話し合いを黙って聞いていた。そのため、X5は、標準加工料金表を参考として販売価格を設定する意思を有していることをX1~X3に対して示しているといえ、X1~X3とX5との間で、標準加工料金表を参考にしてTの販売価格を決定することについて、明示の合意に基づく意思の連絡があったと認められる。
(3)これに対し、X4は、昨年9月10日の会合以降、Tの市況についての会合に参加しておらず、同月15日頃までに今後も会合に参加するつもりはないことを他の会合参加者に対して通知している。そのため、X4は、標準加工料金表を参考にしたTの販売価格の設定について知らないため、X4とX1~X3及びX5との間で、明示の合意に基づく意思の連絡があったとは認められず、黙示の意思の連絡も認められない。
また、X6は、昨年9月10日の会合に参加し、標準加工料金表を参考にTの販売価格を設定するという合意がX1~X3の間で行われたことは知っているものの、X6は、本件合意が行われた昨年10月10日の会合には参加しておらず、会合について連絡しようとするX2からの電話連絡にも応じていない。そして、X6は、昨年12月10日頃、X1らが策定した標準加工料金表をX5の営業担当者と姻戚関係にある者から偶然入手しているが、X1~X3及びX5は、X6が標準加工料金表を入手したことを知らなかった。そのため、X6とX1~X3及びX5との間で、明示の合意に基づく意思の連絡があったとは認められず、黙示の意思の連絡も認められない。
(4)したがって、X1~X3及びX5は、「共同して」本件合意をしたと認められる。
4 「相互にその事業活動を拘束」するとは、複数の事業者が、意思の連絡・合意により、本来自由であるべき事業活動が制約されていることをいう。
本件においては、本件合意により、X1~X3及びX5は、標準加工料金表を参考にしてTの販売価格を設定していることから、本件合意により、本来自由であるべきTの販売価格設定が事実上拘束されているといえる。
したがって、X1~X3及びX5は、「相互にその事業活動を拘束」しているといえ、昨年10月10日の会合の翌日、X1~X3及びX5は、本件合意に基づいてTの販売価格を設定しているため、共同して「遂行」していると認められる。
5 「一定の取引分野」とは、市場、すなわち、特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性という観点も考慮される。
(1)Tには多くの規格があり、規格の異なるTはサイズが異なるため、この間で需要の代替性はないとも考えられる。しかし、X1~X3及びX5は、製造設備の設定に若干の変更を施すことにより規格の異なるTのいずれも容易に製造することができる。そのため、異なる規格のTの間で供給の代替性があるといえる。そして、Tに代わる商品は存在しない。
したがって、商品の範囲は、T製品である。
(2)また、Tは日本外では製造販売されておらず、Tは軽量で運送が容易であり、価格に比して輸送費用はわずかである。そのため、地理的範囲は日本国内であるといえる。
(3)よって、本件において問題となる「一定の取引分野」は、日本国内におけるTの製造販売分野であると画定できる。
6 「競争を実質的に制限」するとは、特定の事業者又は事業者集団が、その意思で、ある程度自由に、価格、品質、数量その他各般の条件を左右することによって、市場を支配することができる状態をもたらすことができるという意味での市場支配力を形成、維持又は強化することをいう。
本件において、本件合意を行ったX1~X3及びX5は、日本におけるTの市場において、合計で70%のシェアを有する。本件合意に参加していないX4及びX6は、当該市場において合計で30%のシェアを有するにとどまることから、本件合意の参加者と競争者との間には格差が存在する。また、X6は、標準加工料金表を入手した後、一部の営業担当者は、これを参考にしてTの販売価格を設定しているため、他の競争者による圧力は小さい。さらに、Tの製造には特殊なノウハウが必要であり、Tは日本外では製造されていないことから、新規参入圧力や輸入圧力も小さい。
したがって、X1~X3及びX5は、市場支配力を形成しているといえ、「競争を実質的に制限」したと認められる。
7 「公共の利益に反」するとは、独占禁止法の保護法益である自由競争経済秩序の維持に反することをいう。
本件においては、上記6の通り、本件合意により、日本国内におけるTの製造販売分野における競争を実質的に制限しており、自由競争経済秩序に反しているといえる。また、例外的に公共の利益に反していないとするような特段の事情も認められない。
したがって、本件合意は、「公共の利益に反」するものであると認められる。
8 以上より、X1~X3及びX5による本件合意は、不当な取引制限(2条6項)に該当し、3条後段に反し、違法となる。
第2 設問2
今年1月10日に、公正取引委員会は、X1らに対する立入検査を実施し、同日以降、標準加工料金表がX1~X3、X5及びX6において参照されることはなくなっている。もっとも、これだけでは、X1~X3及びX5が上記第1の違法行為を行わなくなったとは必ずしもいえないため、再び当該違法行為が行われないように排除措置命令をする必要がある。
そこで、公正取引委員会は、X1~X3及びX5に対し、排除措置命令を命じることができる(7条1項)。また、X1~X3及びX5は、上記の通り、不当な取引制限(2条6項)に該当する行為を行っていることから、公正取引委員会は、X1~X3及びX5に対し、課徴金納付命令をしなければならない(7条の2第1項)。
以上
以上になります!司法試験の選択科目としての経済法は、覚えることは比較的少ないものの、あてはめが難しいですよね…。ですが、慣れれば大丈夫ですので、解答例を参考にしつつ、あてはめの練習をしてみてください!
では、今回はここまでです。長い文章ですが、読んでいただきありがとうございました。