
論点解析経済法(第2版)Q2 解答例
こんばんは。今日もお疲れ様です。
今日は、経済法の演習書である『論点解析経済法(第2版)』の解答例を書きたいと思います。これは、私が法科大学院在学中に起案し、教授に添削していただいたものです。
論点解析経済法には、解答例が付いていませんので、ぜひ参考にしていただければと思います!
第1 設問1
1 A、B、C及びD(以下、「Aら」という)が、下水道管更生工事の指名競争入札における落札予定者の話合いをした行為(以下、「本件談合」という)、及び、EとFが、本件談合に協力した行為について、入札談合として不当な取引制限(独占禁止法(以下、「法」という)2条6項)に該当し、法3条後段に違反しないか検討する。
2 「事業者」(法2条1項)とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいい、「他の事業者」(法2条6項)とは、実質的な競争関係を含む、相互に競争関係にある独立の事業者のことをいう。
本件において、A~Fは、建設業を営む「事業者」である。そして、B~Fは、Y市内において、下水道管更生工事について甲工法を施工できる建設業者であり、Y市における指名競争入札に参加する者であるから、形式的に競争関係にあるといえる。しかし、Aは、労働災害を起こしたことから、指名停止とされているため、Aは、B~Fと形式的競争関係にはない。もっとも、Aは、指名停止期間が終われば指名業者として再び入札に参加することができる。さらに、Aは、指名停止期間中において、25件行われたY市の下水道管更生工事の入札のうち、12件について下請けとなっている。また、Aは、本件談合において、談合を維持するために重要な役割を果たしている。そのため、Aは、B~Fと、実質的に競争関係にあるといえる。
したがって、Aは、「事業者」にあたり、B~Fの「他の事業者」と本件談合を行ったと認められる。
3 「共同して」とは、事業者間に意思の連絡があることをいう。そして、意思の連絡とは、複数事業者間で相互に同内容又は同種の対価の引上げを実施することを認識ないし予測し、これと歩調をそろえる意思があることを意味し、明示の合意をすることまでは必要ではなく、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容することで足りる。
(1)本件において、AとB~Dは、2月1日にAの会議室で開かれた会合において、4月1日以降入札が行われるY市発注に係る下水道管更生工事については、あらかじめr、s、t及びuの間で話合いにより4社のうち各入札で指名された者の中から受注予定者を決定すること、4社の間でその受注金額ができる限り均等になるようにすること、受注予定者の落札金額については、その者におおむね20%程度の粗利ができる水準とし、受注予定者とrの協議により受注予定者を含めた4社のうち各入札で指名された者の入札金額を決定し、rにおいて事前にその金額を当該入札参加者に連絡することを合意している。
したがって、AとB~Dとの間には、明示の意思連絡があり、「共同して」行ったものであると認められる。
(2)もっとも、AとE及びFとの間には、上記(1)のような明示の意思連絡はみとめられない。そのため、AとE及びFは、相互に他の事業者の対価の引上げ行為を認識して、暗黙のうちに認容したといえるかが問題となる。
ア この点について、①事前の連絡・交渉、②連絡・交渉の内容、③行動の一致が認められる場合には、独自の判断によって行われたことを示す特段の事情のない限り、意思の連絡があったと推認される。
イ 本件において、Aらは、E及びFが本件談合に協力するだろう予測しているが、これは一方的な予測である。また、E及びFの担当者は、Dの営業部長uから一方的に本件談合の情報を聞いただけであり、E及びF側の意思は、uに伝えられていない。さらに、uは、A~Cに対し、E及びFと接触したことを伝えていない上に、u自身がE及びFが本件談合に協力する意思があるか否かを確認していない。そのため、事前の連絡・交渉があったとはいえない(①)。
ウ したがって、AとE及びFとの間に意思連絡があったとはいえず、本件談合を「共同して」行ったとはいえない。
4 「相互にその事業活動を拘束」するとは、複数の事業者が、意思の連絡・合意により、本来自由であるべき事業活動が制約されていることをいう。このような相互拘束が認められるためには、拘束の共通性及び拘束の相互性が認められる必要があり、拘束の共通性については、目的が共通であれば、拘束内容が一致している必要まではなく、拘束の相互性については、合意を遵守し合う関係にあれば足りる。
本件において、AとB~Dとの間の拘束は、上記3(1)の通り、落札予定者をあらかじめ決定し、落札予定者の落札に協力するという目的において共通し、また、AとB~Dとの間には、合意を遵守し合う関係を認めることができる。そのため、拘束の共通性及び拘束の相互性が認められる。
したがって、AとB~Dは、「相互にその事業活動を拘束」していると認められる。
5 「一定の取引分野」とは、市場、すなわち、特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場のことをいう。本件談合のように、競争者間で、価格や数量などの競争上重要な事項について専ら競争を回避することを内容とする取り決めが行われた場合には、取り決めが対象とする取引及びこれにより影響を受ける範囲において競争が実質的に制限されることが通常であり、取り決めの対象範囲を市場とすれば足りる。
本件においては、Y市における下水道管更生工事の指名競争入札における取り決めがなされていることから、Y市発注の指名競争入札に関わる下水道管更生工事にかかる取引分野を「一定の取引分野」として画定することができる。
6 「競争を実質的に制限」するとは、当該取引に係る市場が有する競争機能を損なうことをいい、本件のような入札談合においては、取り決めによって、その当事者らがその意思で落札者及び落札価格をある程度自由に左右することができる状態をもたらすことをいう。
本件では、Y市において下水道管更生工事を行うにあたり、甲工法を施工することのできる建設業者は、6社あり、Aらは、そのうちの4社を占める。また、当該4社は、甲工法だけでなく、甲工法より約20%費用を節約することのできる乙工法を施工することができるため、当該4社が、落札金額を20%程度の粗利が確保できる水準に設定したとしても、甲工法と同等の費用がかかることから、乙工法を施工することのできないE及びFによる競争者圧力は小さい。さらに、本件談合により、実際にAらは、25件行われた入札のうち合計で24件を落札しているため、市場支配力を形成、維持しているといえる。そのため、Aらは、その意思で、落札者及び落札予定者をある程度自由に左右することができる状態をもたらしているといえる。
したがって、Aらは、本件談合により、「競争を実質的に制限」したと認められる。
7 「公共の利益に反」するとは、原則として、独占禁止法の保護法益である自由競争経済秩序の維持に反することを意味する。AないしDの行為は、上述の通り、競争を実質的に制限するものであって、自由競争経済秩序に反しており、例外的に公共の利益に反してはいないとする特段の事情も見受けられない。
したがって、「公共の利益に反」しているといえる。
8 以上より、Aらによる本件談合は、入札談合として不当な取引制限(法2条6項)に該当し、法3条後段に違反する。
第2 設問2
1 上記第1の通り、本件談合は、入札談合として不当な取引制限(法2条6項)に該当し、法3条に違反する行為である。しかし、3月15日に、公正取引委員会が立入検査を行ったことにより、4月1日からの入札について1件も受注することができなかった場合、Aらの行為は、同様に法3条後段に反し、違法となるか。どの時点で不当な取引制限が成立するのかが問題となる。
2 事業活動を相互に拘束する合意が実効性をもって成立したと認められる場合には、その時点において市場支配力が形成されたといえる。
そこで、そのような合意により公共の利益に反して競争が実質的に制限されたと認められる場合には、合意の時点で直ちに不当な取引制限が成立し、合意後に実際に談合における個別調整行為を行ったか否かは、不当な取引制限の成否に影響を及ぼさない。
3 本件において、Aらが事業活動を相互に拘束する合意は、2月1日にAの会議室で開かれた会合において成立している。
したがって、本件談合は、2月1日時点において、不当な取引制限として法3条後段に反し、違法となる。
4 よって、2月1日の時点で不当な取引制限が成立している以上、4月1日からの入札について1件も受注することができなかったとしても、Aらによる本件談合は、不当な取引制限(法2条6項)に該当し、法3条後段に反し、違法となる。
以上となります!やはり、いざ起案すると長いですね…ここまで読んでいただきありがとうございました。後日、また別の問題の解答例も投稿予定です。その時は、またよろしくお願いします!