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論点解析経済法(第2版)Q11 解答例
こんばんは。今日で週の半分ですね。残りの半分も頑張りましょう!
さて、本日は、『論点解析経済法(第2版)』のQ11の解答例です。本問は、個人的に来年の司法試験に出題されるんじゃないかなと思っている「事業者団体」の問題ですので、解いてみる価値はあると思います。ぜひ解答してみてください!
それでは、以下、解答例です。
1 甲が、④甲の会員は適格保守事業者との認定を受けていない保守事業者に対してはβを供給しないこと、⑤甲の会員が非会員たる適格保守事業者にβを販売する際には、適格保守事業者として認証を受けていない保守事業者にβを再販売しないことを義務付け、これを遵守させること、を取り決めたこと(以下、「本件取決め」という)は、間接の取引拒絶(独占禁止法(以下、法名省略)2条9項1号ロ)に該当し、8条5号に反し、違法とならないか検討する。
(1)「事業者団体」(2条2項)とは、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的とする二以上の事業者の結合体又はその連合体をいう。
本件において、甲は、工場等で用いられる大型装置αの製造業者および保守事業者を会員とし、これらの相互扶助を目的とする協会であるから、事業者としての共通の利益を増進することを主たる目的としているといえる。また、甲の会員は、2社以上存在すると考えられるため、②以上の事業者の結合体である。
したがって、甲は、「事業者団体」であると認められる。
(2)事業者団体としての行為が認められるためには、事業者団体としての意思決定が必要であるところ、事業者団体としての意思決定は、正式な意思決定機関による決定である場合に限らず、その決定が構成員に実質的に団体としての決定として遵守すべきものとして認識されていれば足りる。
本件において、本件取決めは、甲の会員に対して、実質的に団体としての決定として遵守すべきものとして認識されているといえる。
したがって、事業者団体としての意思決定がなされているといえ、事業者団体としての行為であると認められる。
(3)それでは、本件取決めが、「不公正な取引方法」である間接の取引拒絶(2条9項1号ロ)に該当するかが問題となる。
ア 甲は、αの製造業者および保守事業者を会員とするところ、会員は、それぞれ「競争者」(2条9項1号柱書)である。
イ 「共同して」とは、意思の連絡があることをいう。意思の連絡とは、複数事業者間で同内容の取引拒絶行為をすることを相互に認識ないし予測し、これを認容してこれと歩調をそろえる意思があることを意味し、明示的な合意だけではなく、他の事業者の取引拒絶行為を認識ないし予測して黙示的に暗黙のうちにこれを認容してこれと歩調をそろえる意思があれば足りる。
本件において、甲は、事業者団体の決定として本件取決めをしていることから、明示的な合意に基づく意思連絡があったといえる。
したがって、「共同して」本件取決めを行ったと認められる。
ウ 本件取決めは、甲が、会員である「他の事業者」に、適格保守事業者との認証を受けていない保守事業者という「ある事業者」に対するβの「供給を拒絶させ」るものである。
エ 「正当な理由がないのに」とは、公正競争阻害性を意味し、本件のような間接の取引拒絶の場合には、自由競争減殺効果のうち、市場閉鎖効果が問題となる。ここでいう市場閉鎖効果とは、競争を回避又は排除することにより競争の実質的制限に至らない程度の制限効果を生じさせることをいう。また、市場閉鎖効果が生じる場合とは、非価格制限行為により、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。そして、市場閉鎖効果の認定に当たり、市場を画定する必要があることから、本件において問題となる市場を画定する。
(ア)市場とは、特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性という観点も考慮される。
本件において、装置αは、平均して30~40年の耐用年数を有するが、この間、そのシステムの一部を構成するβを定期的に交換・調整する必要がある。そのため、装置αのユーザーにとって、保守業務を行うことが必要不可欠であり、装置αの保守業務と他の装置向けの保守業務の間には需要の代替性がない。そのため、役務の範囲としては、装置αの保守業務であるといえる。また、装置αは、専ら日本において製造・利用されていることから、地理的範囲としては、日本国内であると画定できる。
したがって、本件で問題となる市場は、日本国内における装置αの保守業務市場であると画定する。
(イ)上記市場において、装置αの保守業務を行うためには、βが必要不可欠である。そして、甲は、装置α及びβの技術内容にかかる試験を実施し、非会員たる保守事業者に勤務する者については、適格保守管理責任者試験の合格者を最大でも全体の1割程度とすることを取り決め、これを実施している。そのため、非会員たる保守事業者に勤務する者で試験に合格する者の数は少なく、認証制度が開始されて3年の間に、非会員であって適格保守管理責任者の数を十分に揃えるという要件を充たして適格保守事業者との認証を受けた事業者は1社だけであった。そして、認証を受けることができなかった保守事業者らは、βの入手が不可能となり、装置αの保守事業から撤退している。そのため、上記市場において、市場閉鎖効果が生じているといえる。
(ウ)もっとも、本件取決めは、装置αの適正な保守業務を通じて安全性を確保するという目的で行われたものであることから、「正当な理由」があるとして、公正競争阻害性が否定されないかが問題となる。
「正当な理由」があるか否かは、目的の正当性及び手段の相当性により判断されるところ、安全性を確保するという目的は正当なものであるといえる。しかし、甲が実施した上記試験においては、装置αの高度化に伴い必要となる保守技術の知識水準を確認する内容が出題されるとは限らず、βの交換・調整にかかわらない実地技能試験を課されることがあり、安全性を確保するという目的との関係で、手段としての相当性を有するとはいえない。
そのため、「正当な理由」があるとはいえず、公正競争阻害性は否定されない。
(エ)したがって、本件取決めには、公正競争阻害性が認められる。
オ よって、本件取決めは、「不公正な取引方法」である間接の取引拒絶に該当する。
(4)以上より、本件取決めは、間接の取引拒絶に該当し、8条5号に反し、違法である。
2 甲が、本件取決めをしたことは、8条4号に反し、違法とならないか検討する。
(1)本件取決めは、「構成事業者」である甲の会員に対して、βの販売を「制限」するものである。
(2)「不当に」とは、構成事業者間での競争の停止が競争の実質的制限までには至らないが、競争阻害的な効果を有する場合、すなわち、公正競争阻害性を意味する。
本件において、本件取決めは、上記1(3)エの通り、公正競争阻害性を有するため、「不当に」なされるものであると認められる。
(3)したがって、本件取決めは、8条4号に反し、違法である。
3 甲が、本件取決めをしたことは、8条3号に反し、違法とならないか検討する。
(1)「一定の事業分野」とは、主に供給者側又は需要者側のいずれか一方の事業活動の範囲のことを意味するところ、本件で問題となる事業活動は、上記1の通り、装置αの保守業務である。そのため、本件における「一定の事業分野」は、装置αの保守業務である。
(2)そして、本件において、非会員であって適格保守事業者との認証受けなかった保守事業者らは、装置αの保守事業から撤退しているため、「現在」の「事業者の数を制限」しているといえる。
(3)また、上記1の(3)の通り、本件取決めについては公正競争阻害性が認められ、正当な理由も認められない。
(4)よって、本件取決めは、8条3号に反し、違法である。
以上
以上になります。ちなみに、教授からは、3の部分について、「8条3号も反競争効果が公正競争阻害性の自由競争減殺が認められれば足りることは言及しておいた方が良い」とのコメントをいただいています。この問題を起案される際には、この教授からのコメントも参考にして頂ければと思います。
それでは、今回はここまでです。最後まで読んでいただきありがとうございました。