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論点解析経済法(第2版)Q24 解答例

こんばんは。今日の夜ご飯は何を作ろうかなと考えていたところ、ふと、noteを投稿することを思い出しました(笑)。さて、今回は、『論点解析経済法(第2版)』の解答例の最後です。今回は、Q24です。Q24は、不公正な取引方法に関する問題だけでなく、独禁法上の措置まで問われていますね。令和6年の司法試験では、課徴金の具体的な数額まで問われていたので、今後、独禁法上の採りうる手段を検討させる問題も出題されるかもしれませんね。その点でも、Q24は解く価値があると思います。

それでは、以下、解答例です。

第1 設問1

1 A社が、取引基本契約を締結している卸売業者15社に対し、仕切価格に8%を加えた価格で需要者に販売してもらいたい旨の希望を表明した行為について、再販売価格拘束(独占禁止法2条9項4号イ)に該当し、同法19条に反しないか検討する。

2 A社は、化学製品の製造業者であるから、「事業者」(19条、2条1項)である。

3 A社は、15社の卸売業者と取引基本契約を締結し、α製品を継続的に販売していることから、卸売業者15社は、「自己の供給する商品を購入する相手方」であるといえる。

4 「拘束」があるといえるためには、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に経済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる。
 本件において、A社は、上記のように希望価格を卸売業者15社に対して表明しているが、これに応じていない卸売業者5社に対しては、様子をみているだけであり、経済上なんらかの不利益を与えるなどして、希望価格を遵守させていない。また、卸売業者10社に対しても、希望価格を遵守させるための措置はなんらとられておらず、当該10社は、自ら希望価格に応じているにすぎない。
 したがって、A社は、「拘束」する条件を付けているとはいえない。

5 よって、A社の上記行為は、再販売価格拘束に該当せず、独占禁止法19条に反しない。

第2 設問2

1 A社が、取引基本契約を締結している卸売業者15社に対し、仕切価格に8%を加えた価格で需要者に販売してもらいたい旨の希望を表明し、希望価格よりも低い価格でα製品の販売を行う5社に対し、再三にわたり希望価格で需要者に販売するよう強く求めた上で、取引基本契約を解除して、α製品の供給を停止した行為(以下、「本件行為」という)について、再販売価格拘束(独占禁止法2条9項4号イ)に該当し、同法19条に反しないかが検討する。

(1)A社は、α製品を製造する「事業者」(独占禁止法2条1項)であり、上記第1の2の通り、卸売業者15社は、「自己の供給する商品を購入する相手方」である。

(2)上記第1の3の通り、「拘束」があるといえるためには、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に経済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されていれば足りる。
 本件において、A社は、要請に従うことを再三強く求めた上で、これに従わない卸売業者5社に対して、α製品の供給を停止している。A社は、α製品について50%のシェアを有しており、競合他社の生産数量はシェア15%程度のA社と比べると低いものにとどまっている。また、輸入の占める割合は10%程度であり、当面、輸入が大幅に増える見込みはない。このような状況下で、A社からα製品の供給を停止された場合、前記5社にとって経済上の不利益を受けることは明らかである。さらに、A社の要請に従ってる10社の卸売業者に対しても、前記5社に対する供給停止により、自らもA社の要請する希望価格で販売しなければ前記5社と同様の経済上の不利益を受けることが予想されることから、10社の卸売業者に対しても実効性が確保されているといえる。
 したがって、A社は、卸売業者15社に対して、希望価格で販売するよう「拘束」したと認められる。

(3)「正当な理由がないのに」とは、公正競争阻害性を意味し、本件のような再販売価格拘束行為においては、自由競争減殺効果のうち、価格維持効果が問題となる。ここでいう、自由競争減殺とは、競争を回避または排除することにより競争の実質的制限に至らない程度の制限効果を生じさせることである。また、価格維持効果が生じる場合とは、非価格制限行為により、当該行為の相手方とその競争者間の競争が妨げられ、当該行為の相手方がその意思で価格をある程度自由に左右し、当該商品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。そして、価格維持効果の認定にあたり、市場を画定する必要があることから、本件において問題となる市場を画定する。
ア 市場とは、特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性も考慮される。
イ 本件において、α製品の用途は限定されており、また、他の製品での代替は困難であるとされているため、商品の範囲としては、α製品の製造販売分野であると画定できる。
 地理的範囲に関しては、国内製造にかかるα製品は、製造業者各社から20社の卸売業者を通じて需要者に販売されており、地理的範囲を国内から広めたり狭めたりする事情も見受けられないことから、国内であると画定できる。
 したがって、本件で問題となる市場は、日本国内におけるα製品の製造販売分野であると画定できる。
ウ そして、当該市場において、A社が15社の卸売業者の再販売価格を拘束することにより、卸売業者から需要者に供給されるA社製のα製品の価格競争が妨げられ、α製品の価格を維持し又は引き上げることができるような状態をもたらすおそれが生じているといえる。
エ よって、A社の本件行為により、価格維持効果が生じていると認められる。

(4)もっとも、A社が、近い将来、α製品の供給がやや過剰気味となるとの予測を得たこと等から、適正な価格で販売されることが製品の安定的な供給につながるとの観点から本件行為を行ったことは、「正当な理由」(独占禁止法2条9項4号柱書)があるといえ、公正競争阻害性が認められないのではないかが問題となる。
ア 「正当な理由」とは、専ら公正な競争秩序維持の見地からみた概念であって、問題となる行為が、正当な社会公共目的にために行われ、目的達成のために合理的であり、実施手段が相当な場合には、「正当な理由」があると認められる。もっとも、当該合理性は、単なる事業上の合理性ないし必要性では足りない。
イ 本件において、A社の営業方針の背景となったのは自己の商品の安定供給という考慮に過ぎず、事業上の合理性を超えるものとはいえない。また、仮に、商品の安定供給が市場における競争の促進等、独占禁止法上正当な目的であるといえるとしても、希望価格の遵守の徹底がどのように安定供給という目的を達成するのかが明らかではなく、実施手段としての相当性が認められない。
ウ したがって、「正当な理由」があるとはいえず、A社の上記行為に、公正競争阻害性が認められる。

(5)以上より、A社の本件行為は、再販売価格拘束(独占禁止法2条9項4号イ)に該当し、同法19条に反し、違法となる。

2 また、Aの本件行為は、単独の取引拒絶(一般指定2項)に該当し、独占禁止法19条に反し、違法とならないか検討する。

(1)A社は、希望価格を遵守しなかった5社に対し、取引基本契約6条3項に基づき契約を解除してα製品の供給をやめる旨通告し、実際に、当該5社に対してα製品の供給を停止したことから、「取引を拒絶し」たと認められる。

(2)「不当に」とは、公正競争阻害性を意味し、本件のような単独の取引拒絶においては、自由競争減殺効果のうち、市場閉鎖効果が問題となる。もっとも、単独の取引拒絶の公正競争阻害性については、事業者の取引先選択の自由に配慮して、原則として合法である。しかし、①独占禁止法上違法な行為の実行を確保するための手段として取引を拒絶する場合、または、②競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合に、例外的に、公正競争阻害性が認められ、違法となる。
 本件において問題となる市場は、上記1(3)の通り、日本国内におけるα製品の製造販売分野であるところ、A社は、当該市場において、取引拒絶行為を、独占禁止法上違法な再販売価格拘束の実効性を確保するための手段として用いているといえる(①)。
したがって、A社の本件行為について、例外的に公正競争阻害性が認められる。

(3)よって、A社の本件行為は、単独の取引拒絶(一般指定2項)に該当し、独占禁止法19条に反し、違法となる。

第3 設問3

1 まず、X社は、請求の趣旨を「取引基本契約に基づき、X社の注文にかかるα製品の引渡しを受けるべき契約上の地位にあることを確認する」とする確認訴訟を提起することが考えられる。
(1)A社は、取引基本契約6条3号に基づいてX社との取引基本契約を解除している(以下、「本件解除」という)。しかし、A社による本件解除は、A社による本件行為は、再販売価格の維持を目的とするものであるから、X社は「信頼関係を著しく損なう行為を行った」とはいえず、取引基本契約6条3号の解除事由にあたらない。
(2)したがって、本件解除は、公序良俗(民法90条)または信義則(同法1条2項)に反し、解除権の濫用(同法1条3項)ともいえるものであるから、本件解除は無効であるといえる。
(3)X社としては、請求原因事実として、上記(1)の事実に加えて、A社とX社と間で取引基本契約が締結されていることを主張することとなる。

2 また、X社は、請求の趣旨を「A社による一般指定2項前段該当行為を差し止める」とする差止訴訟(独占禁止法24条)を提起することが考えられる。
(1)上記第2の2の通り、A社は、単独の取引拒絶(一般指定2項)を行い、A社の当該行為により、X社は、α製品の供給を受けることができなくなっているため、「利益を侵害され」ているといえ、X社に「著しい損害」が生ずるおそれがあると認められる。
(2)したがって、X社は、上記(1)の事実を請求原因事実として主張し、上記差止訴訟を提起することができる。

3 さらに、X社は、請求の趣旨を「A社は、X社に対し、取引が継続していれば得たであろう逸失利益に相当する額を支払え」とする不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(民法709条)を提起することが考えられる。
 この場合、X社は、請求原因事実として、A社が故意又は過失により行った独占禁止法19条違反行為により、X社の法律上保護される利益が侵害されたこと、損害の発生及びその額、A社の故意又は過失行為と損害との因果関係を主張する必要がある。

4 公正取引委員会が、A社に対し、独占禁止法19条違反として排除措置命令が確定した場合(同法26条)には、X社は、A社に対し、損害賠償請求(同法25条1項)をすることができ、この場合の請求の趣旨及び請求原因事実は、上記3の場合と同様である。

以上

以上になります。この解答例で注意をしていただきたいのは、第2の1(3)ウの部分です。この解答例では、価格維持効果が生じることをさらっと書いてしまっています。本来は、市場シェアなどにも触れながら、丁寧に論じるべきでしょう。

それでは、今回はここまでです。次回以降は、経済法答案マニュアルと令和6年司法試験の再現答案を投稿予定です。両者とも有料にする予定です。経済法答案マニュアルの価格は未定ですが、再現答案は、評価に応じて価格を変えようと思っています。

『論点解析経済法(第2版)』の解答例はこれで全てです。要望があれば他の問題の解答例を作成することも考えていますが、スケジュールとの関係で、解答例を作成することはできないかもしれません…。が、ここまで本当にありがとうございました。

引き続きよろしくお願いいたします!


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