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論点解析経済法(第2版)Q22 解答例

 こんにちは。合格発表から3週間が経過して、司法修習の手続も一段落し、やっと落ち着いてきたところです。たくさんの方からお祝いしてもらえて、本当に嬉しい限りです。来年以降、司法試験を受験される方は、たくさんの方にお祝いしてもらえますので、引き続き頑張りましょう!
 本日は、『論点解析経済法(第2版)』Q22の解答例です。不公正な取引方法は、行為類型が多いので、いろいろな行為類型ごとにあてはめのコツを掴むことができるようにしましょう。

 それでは、以下、解答例です。

1 A社が、方針①に従い修理用部品の供給を拒絶することにより、甲とB社間の取引を妨害したことは、取引妨害(一般指定14項)に該当し、独占禁止法19条に反し、違法とならないか検討する。

(1)A社とB社を含む独立系保守業者とはいずれも、A社製業務用空調機器の保守・点検業務を営む事業者であり、競争関係にある。そして、A社は、B社を含む独立系保守業者が修理用部品の取替え作業を行うにあたって修理用部品の供給が3ヶ月後になるなどと回答し、実質的に供給を拒絶している。A社は、保守・点検業務について甲らの顧客に対して自己と取引をするよう誘引し、B社を含む独立系保守業者から実際に顧客を奪ったのであるから、「その取引」を「妨害」したといえる。

(2)「不当に」とは、公正競争阻害性を意味し、本件のような取引妨害においては、自由競争減殺効果のうち、市場閉鎖効果が問題となる。ここでいう、自由競争減殺とは、競争を回避または排除することにより競争の実質的制限に至らない程度の制限効果を生じさせることである。また、市場閉鎖効果が生じる場合とは、非価格制限行為により、新規参入者や既存の競争者にとって、代替的な取引先を容易に確保することができなくなるといった、新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう。そして、市場閉鎖効果の認定にあたり、市場を画定する必要がある。
ア 市場とは、特定の商品・役務の取引をめぐり供給者間・需要者間で競争が行われる場であり、商品・役務の範囲、地理的範囲等に関して、基本的には、①需要者にとっての代替性という観点から判断される。また、必要に応じて、②供給者にとっての代替性も考慮される。
イ 本件において、A社製業務用空調機器の修理用部品は、A社のみが製造・販売しており、修理用部品は専らA社製業務用空調機器用に設計・製造された専用品であって、修理用の部品の汎用品は存在せず、A社が製造・販売する修理用部品に代わる部品を他社が製造・販売することは不可能な状況にあることから、A社の修理用部品の代替性はない。しかし、A社製業務用空調機器をいまだ購入しておらず、A社製業務用空調機器と他社製業務用空調機器の間で選択できる者にとっては、保守・点検業務についてもA社製業務用空調機器向け保守・点検業務とそれ以外のメーカー製業務用空調機器向け保守・点検業務の間に代替性があるといえる。そして、A社が業務用空調機器市場において占めるシェアが30%であることを考慮すると、A社が自己の業務用空調機器の保守・点検業務について料金を上げれば、機器利用のランニングコストが高くなり、A社製業務用空調機器、ひいては、A社製機器向け保守・点検業務に対する需要が縮小し、他の業務用空調機器メーカーに顧客を奪われる可能性がある。そのため、他のメーカー製業務空調機器向け保守・点検業務は、A社製業務用空調機器向け保守・点検業務に対して、競争圧力として働いているといえる。したがって、役務の範囲としては、業務用空調機器向け保守・点検役務と画定できる。
 また、地理的範囲については、特に日本国内から広めたり狭めたりする事情は見受けられないことから、日本国内であると画定できる。
 よって、本件で問題となる市場は、日本国内における業務用空調機器向け保守・点検役務市場であると画定できる。
ウ 本件において、A社は、A社が販売した業務用空調機器すべてについて修理用部品を即時供給できる生産能力・搬送体制を用意していたにもかかわらず、競争者との契約を解除させて自己と契約させるために、合理的な理由なく修理用部品の供給を3ヶ月遅延させている。これにより、A社以外の独立系保守事業者がメンテナンス契約を解約される事態がしばしば起こっており、その結果、独立系保守業者のシェアの低下・撤退などが生じている。
 そのため、A社の上記行為は、低額な料金で保守業務を提供する競争者を排除することにより市場閉鎖効果を生じさせ、自由競争を減殺させるものであるといえる。
エ よって、公正競争阻害性が認められ、「不当に」行ったものであると認められる。

(3)以上より、A社の上記行為は、取引妨害(一般指定14項)に該当し、独占禁止法19条に反し、違法となる。

2 A社が、方針②に従い修理用部品に取替え作業を抱き合わせるとともに、事実上、修理用部品と保守・点検業務を抱き合わせて販売したことは、抱き合わせ販売(一般指定10項)に該当し、独占金法19条に反し、違法とならないか検討する。

(1)「他の商品」といえるためには、主たる商品と従たる商品が別個の商品でなければならない。そして、「他の商品」の判断については、組み合わされた商品がそれぞれ独立性を有し、独立して取引の対象とされているか否かという観点から判断される。
 本件において、修理用部品と保守・点検業務は、現に別々に取引の対象とされてきており、それぞれについて独立の需要が存在している。
 したがって、A社製業務用空調機器の修理用部品と、保守・点検業務は、別個の商品であり、保守・点検業務は、「他の商品」であるといえる。

(2)「購入させ」たといえるか否かは、ある商品の供給を受けるに際し客観的にみて少なからぬ顧客が他の商品の購入を余儀なくされるか否かによって判断する。
 本件において、A社は、A社とメンテナンス契約を締結している顧客に対しては2日以内に修理用部品の供給と修理を可能としつつ、そうでない顧客に対しては修理用部品の準備がないなどとして、修理用部品の供給を3ヶ月後以降に行うとの方針を採用している。業務用空調機器が故障し早急な修理が必要となる中で、修理用部品の製造販売を行う唯一の事業者であるA社がこのような方針を採用すれば、少なからぬ顧客が修理用部品の購入と合わせて、A社との間でメンテナンス契約を締結し、保守・点検業務をA社から購入することを余儀なくされるといえる。
 したがって、A社は、「他の商品」である保守・点検業務を「購入させ」ていると認められる。

(3)「不当に」とは、公正競争阻害性を意味し、本件のような抱き合わせ販売においては、自由競争減殺効果のうち、市場閉鎖効果が問題となる。そして、市場閉鎖効果の認定にあたり、市場を画定する必要があるところ、抱き合わせ販売においては、複数の商品・役務を組み合わせることにより、新たな価値を加えて取引の相手方に商品を提供することは、技術革新・販売促進の手法の一つであるから、原則として適法である。そのため、①主たる商品市場における有力な事業者が行為を行うことにより、②従たる商品市場において市場閉鎖効果が生じる場合には、例外的に、公正競争阻害性が認められる。
 本件において、主たる商品である業務用空調機器の売り上げにおいてA社の売り上げが占める割合は30%であるから、A社は、主たる商品市場における有力な事業者である(①)。また、本件で問題となる従たる商品市場は、上記1(2)イの通り、日本国内における業務用空調機器向け保守・点検役務市場である。当該市場におけるシェアは明らかではないが、日本国内における業務用空調機器の市場においてA社製機器が30%のシェアを占めていることからすると、A社は当該市場において、約15%のシェアを有すると考えられる。その後、A社は、A社製業務用空調機器に関する保守・点検業務におけるシェアを50%から70%に上昇させており、さらに、A社の上記行為により、業務用空調機器向け保守・点検業務を低額な料金で行う独立系保守業者の事業活動は困難となり、シェアの低下や撤退が相次いでいる。また、顧客が望むような質の高いサービスを提供するなどの競争促進的な理由や、安全性の確保といった社会公共的な目的も認められない。そのため、A社の上記行為は、従たる商品市場において、市場閉鎖効果が生じると認められる(②)。
 したがって、A社の上記行為に、公正競争阻害性が認められる。

(4)よって、A社の上記行為は、抱き合わせ販売(一般指定10項)に該当し、独占禁止法19条に反し、違法となる。

以上

 以上になります。抱き合わせ販売は過去に司法試験で何回か出題されているので、今後も出題されることがあると思います。市場も複雑になりますし、ぜひ、この問題にチャレンジして、抱き合わせ販売の処理を学んでください。

 それでは、今回はここまでです。実は、『論点解析経済法』の解答例は、次で最後の予定です。その後は、経済法答案マニュアルを投稿しようと準備中です(有料予定)。また、司法試験直後に作成した再現答案も成績とともに投稿することも考えています。
 最後まで読んでいただきありがとうございました。


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