舞台 文豪ストレイドッグス DEAD APPLE 公演の記憶
幾多の困難に原作さながら立ち向かい、無観客配信で大千秋楽を迎えた
【舞台 文豪ストレイドッグス DEAD APPLE】の記録レポートです。
春から眠っておりました記事…💦 そこはさておき。
幅広い層へ大きな反響を及ぼしている文豪ストレイドッグス。
舞台の方もすっかりシリーズ化し、着々と公演回数を重ねてきました。
中でもDEAD APPLEは劇場版アニメの舞台化ということで、期待に胸を膨らませて待っていたというファンも多かったと思います。
『舞台 文豪ストレイドッグス DEAD APPLE』の公演は2021年4月中旬から5月のゴールデンウィークまでの開催でした。
2021年というと既にコロナ禍であり、社会や人々の生活も既に大きく変化している状況。
そんなコロナ社会となってしまった中でも、いざ開幕は順調に公演できていると思いきや、次第に感染者増の状勢になってしまい、極めつけには政府より『無観客要請』が発出されその他の多くの舞台と共に、数公演を中止せざるを得なくなってしまいました。
それでも千秋楽をライブ配信したわけですが、これまで演劇界。いえ、誰もが経験したことの無いような前代未聞の大混乱の中、文ステカンパニーが行ったSNSプロモーションなどの創意工夫、観客・ファンへの最大限の心配りが素晴らしかっただけに、拍手ひとつも無い無観客での大千秋楽となってしまったという事が、あれ程までに心苦しい舞台もありませんでした。
なので、あの時に送りたかった感謝の拍手の替わりと、文ステを愛する気持ちと、後世のエンタメ界の為にも少しでも記録を残しておこうと思い、記します。
わたしと文ステの歴史
前置きがてら文ステについて少し語らせてください。
私はそもそも文ステには思い入れがあり、芥川役の祥平君がミュージカル薄桜鬼で松田凌くんから斎藤一役を受け継いだ時からその成長を見届けてきました。その祥平君が頑張っている舞台という事で見に行ったのが私の最初の文ステとの出会いです。
文豪ストレイドッグス、通称文ストのアニメをちょっと見ていたというのも入りやすかったし、演出がお芝居好きの心をがっちり掴む“人間で表現できることは可能な限り人間で表現する!”という演出で、すぐにその世界に魅了されてしまいました。
しかしそうやって文ステ作品を数々見ていて思い入れがある故に、私は文ステの新作を今後もう見ることが無いだろうな。と思っていた時期がありました。
見に行けない。行きたくない。そう考えていた理由は前・森鴎外役の窪寺さんのことでした。
過去作からずっとこの舞台を見ている方は、文ステカンパニーがカンパニー自体を愛する気持ちが強い事を知っていると思います。
だからこそ余計、一人だけぽっかり穴が開いたみたいに空白になってしまうのが辛いというか私自身のトラウマもあり、もう見ることが出来ないだろうな…と自分の中で思っていました。
(何のことなんやという方、ピンと来ない方はこの話題は完全スルーして下さいね💦)
ドックスチームの“人自身が生み出すちから”にとても感銘を受けており、それに似かよったものを感じた『舞台刀剣乱舞 維伝』で、既にミュージカル方に知名度の高いキャストが居たにも関わらず和泉守兼定という大役をやってのけていた田淵君が太宰役で出る。というのを知って、少し考えが変わってきました。
太宰役に関しては多和田君が好評でしたし、賛否が出るだろうなというのはわかっていました。
文ステ愛が強い文ステカンパニーで、誰一人キャスト変更が無かったとして、窪寺さんの森さんだけが変わっていたら…。本当に私は受け入れられなかったと思いますし、今でもバクステは辛くて見返すことが出来ないままです。
見ること。忘れない事が一番だろうなとも思いますし、他の2.5舞台や、伝統的な演目、TVドラマなどもそうですが、別の色々な役者さんが演じる事というのは作品が長く続けば必然。頭ではそんなこと分かってはいるのですが、私のようにトラウマがあったり、単純に受け入れられない。ということもあるかとは思います。
それに、文ステカンパニーがこれまで築き上げてきたものを止めてしまい、もう見届けなくても本当にいいのだろうか…。とも思いました。
考えた結果、やはり何より文ステのこれからも見届けたい。これは文ステの新しい一歩なのかもしれない。だったらまず見るべきではないか。と思い、現地へ行く決心が出来ました。
前置きが長いですが、(もう絶対に見に行けない…)という気持ちを変え、貴重なDEAD APPLE現地観劇が出来た理由である田淵君には感謝しかないです。
そしてそんな色んな背景・過程を経て数々の想いを持ってのちに文ステを観劇している程度には、思い入れがあるのでした。
混乱の中、足掻く文ステ
DEAD APPLE舞台公演中の期間ですが、長期スケジュールでもないけれど本当にいろんなことがありました。
冒頭にも記しましたが、幕開けは大阪公演。ちょうど関西で新型コロナウィルス感染者が爆発的に増え始めていた頃でした。
短期開催で逃げ切るようなかたちで無事幕を下ろしたのもつかの間。
東京公演が開始してすぐ、東京都や政府は前年開催延期していたオリンピックを今年こそは開催したいと言うように感染者の増加を訴え、エンタメ業界には『開催自粛』『開催する場合は無観客、又は配信での開催とするように』と発令しました。
ちょうどゴールデンウィークなどもあり、人の移動を制限するという狙いもあったと思います。
極めつけには前置きも無く緊急事態宣言を出し、百貨店などへは有無を言わさず補償も無しに休業要請を出しました。
エンタメ系に対する『無観客でやればいいだろう。配信すればいいじゃないか』という要求は、史実でないにしてもマリーアントワネットの逸話か?と突っ込みたくなる無茶苦茶な要請だったのにもかかわらず、殆どの舞台やエンタメ業界は何の抵抗もせず、何の申し出も訴えずに次々に休演や公演中止を決定しました。
舞台公演するには【公演する場所・ホール、劇場など】【スポンサー】【原作サイド】【公演運営・制作】【キャスト】など、様々な要素が全てGOとならなければ公演することが出来ない。というのは、パンデミックな世の中になって幾度も痛感していることでしたが、他の公演達がそのいずれかがGOにならずに休演・公演中止となる中、DEAD APPLEカンパニーと関係各所は対応が格別に素晴らしかったです。
感染症が落ち着いたとしても、今後また別のトラブルが起きないとも限りません。そういう時の為にも書き留めておけば、なにか後世の役に立つことや生かせる事もあるのかもと思い、ぽつぽつと書いていきます。
実際どのような対応をしたのかというと、
まず、前置きも無く無観客要請を出されても既に公演側はチケット販売を完了しており、休演や公演中止するなら払い戻しとなってしまいます。
そこを文ステでは、『休演するにも周知期間が必要だ』として極力公演開催できる日を引き延ばしてくれ、それによってギリギリ現地観劇が叶った人も多かったと思います。私もそれによって観劇出来たので本当に感謝しかなかったです。
この周知期間の件は、先鋒で前例となってくださった東宝演劇さん、劇団四季さんの知恵とお力が大きく、このやり方が通る他の公演も、これにならっていました。
文ステ独自の施策としては、最終的に中止となった公演もあった為、来れなくなってしまった方にも劇場に来たようなウキウキ感が味わえる『毎日フリート動画』をSNSで動画アップして下さり、文スト世界の彼らがひとことを言ってくれたり、その生き生きした姿を見る事が出来ました。
観劇を楽しみにしていたけれど中止で来れなくなった方は、趣向をこらし不安な人々を癒そうという動画の数々を見て、感激のあまり泣いた方も多かったのではと思います。
また、千秋楽公演を配信に切り替えることをすぐに決めて下さり、(もうこの先見ることが出来ないんだ…)とお通夜ムードになっていたファン達を大いに喜ばせてくれました。
配信に切り替えるといっても、配信する為にどこかで上演を行わなければならないのですが、公演する場所、つまり劇場そのものの方針や各自治体の意向によっては無観客でも上演することができないというのが当時の現実でした。
政府がイベント等の自粛を要請している中での開催で感染症爆発が起きる事を、自治体は避けようとしたからです。
そういった様々な外側の事情もあり、配信に切り替えることも叶わず、スケジュールの都合的にも千秋楽を迎えられずにそのまま公演が終了・中止してしまった舞台やイベントが殆どでした。
DEAD APPLE公演は東京公演の後半を休演し、からくも千秋楽だけ無観客配信に切り替えられましたが、その実現には休演期間中も舞台装置やセット、小道具などをずっと置かせておいてくれた日本青年館に多大なる感謝をしないといけないと私は思います。
ほとんどのホールが自治体の方針と、この社会情勢では公演させられないと公演を断るなか、“舞台という文化を守ろう”とする青年館さんの意志を強く感じ、私は本気で今後青年館さんに足を向けて寝れないなとまで思いました。
当時の状況はそれほど緊迫しており、無理に開催すれば『反社会的である』とみなされかねないほどでした。
世間もそうですが、我々もかなりパニックと不安が大きかった時期でした。
そんな時、不安な毎日を少しでも楽しく送れるようにと文ステカンパニーが毎日更新してくれた動画がどんなに救いになったでしょうか。
離れていても無観客でも、文豪たちの世界やエンタメの力で勇気と元気を取り戻せるよ!と言われているようでした。
千秋楽配信では配信特典として、文豪達やカンパニーが青年館で“あなた”を迎え入れてくれるという疑似エスコート動画を作って下さり、これこそが文ステ究極の観客愛であり、演劇愛だなと痛感しました。
ファンにとっては普通に鼻血ものですし、正直他のどんな作品より手厚い愛をもらったと感じました!
このようなこともあり、私はそれまで文ストや文ステを追ってきて本当に良かったなというのと、田淵君をきっかけにしてDEAD APPLE公演をリアルタイムに追えて応援出来たこと。全てが本当に本当に良かったと心から思いますし、あの時間を共に過ごせた自分が誇らしいとまで思えた程でした。
カンパニーの彼らにとっても、あの困難な時を超えれた事は誇りになっていると思いますし、人生忘れられない思い出となったのではと思います。そして舞台界隈としてもあの行動に大きな意義があったと私は思います。
様々な幸運が重なって公演期間が可能な限りひき伸ばせたり、千秋楽は配信に切り替えることが出来たというのもありますが、まず文ストは数々の【文豪】たちの物語なわけです。
彼ら文豪が書くのは文学で、文学というのは多くは怒りや強い否定、世間の言っていることは正しいのか?というような疑念から生まれたエネルギーによって生み出されていることが多いと思うのです。
詳しくはDEAD APPLE本編を見てみてほしいと思うのですが、終盤で中也が強い怒りをエネルギーにして力を解放する場面があります。
「命燃やす覚悟も無くて、よく国を守れるなんて言えるな?」
あのシーンはまさに皆の集える場所、文豪たちの世界、つまりは文ステで言えば劇場。そんな場所を守る為にフルパワーを解放し、煮え切らない世の中へと私たちの代わりに燃え盛る怒りをぶつけ、命を賭してでも戦ってくれたように見え、何度も涙が溢れてしまうシーンでした。
さいごに
コロナウィルスの絶望感が一番酷かった2020年GW頃。
東京の各駅にも本当に人が数人しか居ないという世紀末感があった中、この状況では絶対に配信公演であっても見れないだろうな。と真っ先に思ったのが文ステでした。
理由はアクションが多いのと、三社鼎立の時は人物がかなり多かったので…。
人数が多い分だけ作品の厚みが出るわけですが、コロナ禍ご時世的には限られたメンバーの方が安全。しかし文ステが今まで築き上げてきたカンパニーを大事にする心、愛を知っていると、EDの決めシーンで文豪達が少ないのはちょっぴり悲しかったです。
ですがそれでもDEAD APPLE公演では、ラストで探偵社メンバーの声を入れるなどの工夫があり、過去作からも見ていてコロナ禍に心を痛めていた人は(離れていても愛は少しも変わらないな)と感じたのではないでしょうか。
また、EDのそれぞれの文豪のパフォーマンスは過去作品から継承している事が多いので、初めて文ステを見た!という方は是非過去作も見てチェックしてみてほしいです。
細かい所も文ステの文ステ愛なんだなあという気付きが随所にあります。
そんな様々な事がありましたが、DEAD APPLE公演はとにかく素晴らしい大千秋楽でしたし、文ステカンパニーは私たちに最高の愛をプレゼントしてくれていました。
どうにかして次は有観客で、今回とこれまでの多くの深い感謝を伝える為に拍手とスタオベを届けたい!と強く思っていました。
DEAD APPLE公演が無観客でのカーテンコールを終えると映像が流れ、『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』の公演決定が知らされ、こんなに幸せなことがあっていいのだろうかと飛び上がりたい程嬉しかったのを覚えています。
その『文豪ストレイドッグス 太宰、中也、十五歳』は2021年10月現在順調に、もちろん有観客で公演を重ね、ついに大千秋楽にあと一歩となっております。
キャスト変更になったことを許せない人もいるかも知れません。
でも一番怖かった森鴎外役に植ちゃんのデビュー時から縁があるという根本さんが来て、心から植ちゃんも安心しているような空気があり、それによって安心することが出来ました。
既に観劇された方には言うまでもないですが、でらさんの森さんとシンクロするように描かれているシーンがあります。そこは場面的にも“想いを受け継ぐ”というような場面で、もしシンクロに気付いたらより深く感動に心が震えることでしょう。
そしておそらく、太宰くんの進む未来に繋がる布石も所々にあります。
どうか5月には叶わなかった満員のお客様で、前回のDEAD APPLE公演では彼らが見ることができなかった景色。観客の皆さんの笑顔。そしてこれまでと今回の公演への感謝。純粋な演劇への愛。全てを籠め、鳴りやまない拍手でこの熱い気持ちを伝えてあげたいなと切に思います。
文豪たちの物語のように、誰かから誰かへと語り継がれ続いていく作品が、また新たな一頁をつくる瞬間に是非お立合いください。
劇場で、あの文豪たちの集うヨコハマで。
私も皆さんと一緒に最後まで見届けます。