東十条ミュージックショップダンのおもひで
東十条商店街に『ミュージックショップダン』というレコード屋さんがあります。ぼくにとって上京後のはじめてのバイト先でした。
『ダン』はミュージックショップと銘打っていますが、演歌を売り出す手法が秀逸でした。タクシーの運転手さんにシングルカセットを売りこむことでファンを増やしたり、新人歌手は店頭で営業(まあライブみたいなもんです)をするとヒットするというジンクスが生まれたり…“アド街ック天国”をはじめとする街番組でよく取り上げられるので、ご存知の方もいらっしゃるのではないかと。
ご夫婦で経営されていて、旦那様が社長で奥様が店長という位置づけです。右も左もわからない田舎者のわたしに本当によくしていただきました。あのときのミズスマシのような眼をした少年はいろいろありながらも当初の目標であったコピーライターとして生計を立てております。もう齢50を過ぎました。元気でやってます。ありがとうございました。
そしてこれは東十条銀座界隈では有名な話なんですが、ある日、ちょっとかわいい感じのおばあちゃんがやってきて「かぐや姫のパラダイス銀座というレコードをくれ」と。なんでも孫に頼まれたんだそうです。店番は広島出身の先輩とぼく。
「ハヤカワくん、かぐや姫、ちょっと棚見てきて。あんまりないような気がするけど…」と先輩に言われたぼくはフォークのコーナーでかぐや姫を探します。「22才の別れ」というシングルが1枚あるだけでした。
先輩はレコード会社から出ている品番表をたぐりながら「パラダイス銀座、パラダイス銀座…」と目で追います。「ないのう、パラダイス銀座。おばあちゃん、いつ出たレコードかわかる?」広島訛りで聞くも、おばあちゃんは困った顔で首を横にふります。
「おばあちゃん、いまちょっとお店には在庫がないみたいだから取り寄せになるんだけど」とぼくがいうと、とても残念そう。きっとかわいがっているお孫さんの頼みだから聞いてあげたいんだろうな、と思いました。ぼくもおばあちゃんに育てられたのでなんだか胸がキュンとします。
ぼくは先輩に「なんとか今日中に手に入らないですかね」と掛け合うと先輩は「ほうじゃのう……」と空を見上げると「わかったけぇ、たいぎいが赤羽とか王子のレコードショップに在庫あるか聞こうじゃない」と仁義なき戦いのセリフのような口調で賛同してくれました。
それから約一時間。先輩とぼくは店番しつつかたっぱしから電話します。その結果、かき集められたいろいろな事実とぼくたちなりに構築した仮説を付き合わせてわかったことがこれです。
かぐや姫のパラダイス銀座…誤
光GENJIのパラダイス銀河…正
東京って広いな、っておもいました。しゃかりきコロンブス!
BGMはCarole King の『It's Too Late』でした。
(おしまい)