『男樹』を支える脇役たち
わたしは割と人あたりがいいタイプで、結構どんな人とも打ち解けることができます。
しかし、お付き合いが一定量を超えて(この一定量という単語、ここ数年でビジネスの現場でものすごく耳にしますが、どこ発祥なんですかね)より踏み込んだ関係になろうという時、ある一つの絶対条件があります。
それが「本宮ひろ志について語れるか」です。
「あーね、本宮ひろしね、あれでしょ、聖闘士星矢の」
「いたね本宮ひろし、クイズダービーで三択の王者だっけ」
「本宮ひろし?転んだ勢いでシャツに蛙がくっついたんだっけ?あれさあ、シャツって言うかトレーナーじゃね?今風に言うと」
このような返答をする者をわたしはТоварищとは呼びたくありません。
それほどわたしにとって本宮ひろ志は神のごたる存在なのでごわす。
本宮ひろ志といえば「男一匹ガキ大将」や「俺の空」そして高橋克実主演でドラマ化もされた「サラリーマン金太郎」が代表作として挙げられます。一箇所ギャグ入れてます。
しかしわたしは、本宮ひろ志の真骨頂は『男樹』にこそある、と強く主張する者であります。
そんな『男樹』とはどういった作品か。ご説明差し上げますWikipedia先生が。強く主張する割にWikiかよとツッこんでください。
と、いうわけで男の中の男を描かせたら右に出るものはいない本宮ひろ志大先生の手による一大スペクタクルヤクザロマン、それが『男樹』です。
現在確認できる『男樹』シリーズは『男樹』『新・男樹』『男樹四代目』『男樹〜村田京一〈四代目〉』の4作品。よほどのマニアでなければ『男樹』と『新・男樹』を押さえておけばよいのではないかと思います。
ということで今回はそれぞれの『男樹』を彩る華麗なる脇役についてご紹介差し上げ奉る。
人生をより効率的に、生産性高く駆け抜けていきたいっ!というコスパタイパ至上主義の方はここから先は読まないことをおすすめします。
柳 完治(男樹)
シリーズの原点ともいえる『男樹』からはご存知、巨漢の柳完治をベストバイプレイヤーとしてご紹介します。ぜんぜん関係ないけど柳完治って巨人の選手にいそうな名前だと思いませんか?
柳はとにかくデカい。莫迦がつくほどデカい。奥さんちょっとこれをみてくださいよ。
なんか縮尺がおかしいとかデフォルメが…という世界を超えた感じがしませんか?手前が主人公の村田京介なんですが、村田だって決して小さいほうではありません。にもかかわらず柳の腰のあたりまでしかありません。
仮に村田が175cmだとしたら柳は軽く3mはありそう。まさかの巨人症?同じもん食ってる人種とは思えませんよね。
そんな柳ですが、時折こんなチャーミングな表情を見せてくれます。
柳は物語の後半で壮絶なラストを迎えます。組同士の抗争の果てに入院するのですがその病院で射殺…という「ウェェ」な最期です。
このときは村田京介が全物語中唯一涙を流します。
しかしわたしは連載時、柳が殺られたコマを見ながら、こう思いました。
(やっぱデカいヤツのブリーフってデカいんだな。って言うかなんでパジャマのズボン履いてなかったのかな。まさか…)
三島鉄雄(新・男樹)
つづいて村田京介の息子、村田京太郎の少年期から青年期を描く『新・男樹』から、三島の鉄ちゃんを紹介させてください。
見てください、これが三島です。
あれ?さっきこの人いた…なんて思ってませんか?ノンノン、ノンノンシェフ。さっきのはヤ・ナ・ギ。これはミ・シ・マ。確かにどっちもデカいし、似たようなポジションですが、明らかに違います。
三島も京太郎に心酔し、一生を共にしようとするのですが、悲しいかな京太郎の成長というか進化というか経済ヤクザ化についていけず、良かれと思って画策した京さんのもう一人の側近である大友暗殺計画があっさり本人にバレ、身内に寝首をかかれるという壮絶な最期を迎えます。『男樹四代目』での話です。
大友の差し金に銃撃された足で京太郎のもとを訪れた小坂ちゅ三島。ガキの頃の楽しかった思い出に浸りながら絶命します。
「三島が勘違いして妙な動きをしているから手遅れにならないように悟しておけ」と大友に命令したのは京太郎です。つまり間接的ではありますが、三島が死んだのは京太郎に責がある、といえるでしょう。
このときの京太郎の描写は、これ。
なんでしょうか、泣いているのでしょうか、怒っているのでしょうか、両方?本宮先生にお会いしたらぜひ聞いてみたいところです。
ところで本編とはまったく関係ありませんが『新・男樹』のラストシーンであれ?これって三島、じゃないよね…もしかして本宮先生、うっかり三島とモブキャラを描き間違えた?と勘ぐりたくなるコマがあります。
それがこれ。
このシーンは京太郎が長年のお務めを終えて出所するのを出迎える、という大団円寸前の一コマです。その数コマあとに…
そんなことも含めて愛くるしいのが三島鉄男なのでありました。
高梨 燎(男樹四代目)
さて『男樹四代目』からは京太郎の舎弟でヤクザに射殺された高梨正次の従兄弟、といういささか複雑な設定の高梨燎を取り上げます。ここにきてようやく巨漢ではありません。
彼は村田京介の孫(つまり京太郎の娘)の京子に惚れて、ストーカーの如く花のまわりを舞うミツバチのように京子周辺に出没します。
あげく京子を守るためにヤクザになる、と決意し、大友に盃をもらいますが、最後の最後に京太郎から「京子を守るなら足を洗って生きろ」とクンロクをかまされます。
そしてまっとうな道を歩みはじめる…
はずなのですが恐ろしいことに数年後の世界を描いた『男樹~村田京一<四代目>』でしっかりヤクザ者になってた、というくら寿司もびっくりなびっくらポンな展開に。
京太郎も草葉の陰で泣いていることでしょう。
カイゼル(男樹~村田京一<四代目>)
あれ?さっき四代目じゃなかったっけ?また四代目?どういうこと?という往年のファンの疑問など鼻毛の先ほども気にしない本宮先生。シリーズ最終章からは、鷹のカイゼルを紹介しましょう。
ん?
鷹?
ギェエエエエエーッというセリフはドラえもんの『オシシ仮面』でしか見たことなかった、と思って調べてみたら『オシシ仮面』が火あぶりにされた際は「グエーッ!」でした。
東京の空を縦横無尽に飛び回る鷹、カイゼル。
そもそも北陸の田舎の極道物語だったはずの『男樹』が回を重ね、章を新たにするうちにどんどん荒唐無稽なストーリー展開に。
この『京一〈四代目〉』では政治+経済+世界紛争+自然災害+治安悪化+ヤクザという、普通どれか一つで漫画が成立するテーマをこれでもかと盛り込んでいます。
このへんのやぶれかぶれぶりは本宮先生の真骨頂であり、お家芸ともいえますね。
だから脇役が鷹でも決しておかしくないのです。
いかがでしたでしょうか。『男樹』における名バイプレイヤー図鑑。いやお前それは違うだろう、というご意見もあると思いますがどうかご寛恕くださいませ。
『男樹』の頃は繊細なタッチで描かれていた女性キャラ(本宮先生の奥様が描かれたそうです)が『四代目』を経て『京一』編に至る頃にはラフな描線に変容していく様や、最終回で爆死する主人公、ここでは紹介しきれなかった脇役陣など、見どころ読みどころ満載の『男樹』シリーズ。
秋の夜長の暇つぶしにはピッタリです。ぜひコミックシーモアとかeBookとかめちゃコミとかでダウンロードして、めくるめく本宮ひろ志の世界にどっぷり浸かっちゃってください。そしてわたしと乾杯しましょう!
現場からは以上です。