虎ノ門を舞台に都市を遊びつくす:街中でのエンタメ体験が育む都市への愛着とはTOKYO NODE OPEN LAB 2024「ANNUAL TALK 」|TOKYO NODE LAB EVENT REPORT
2023年に誕生した「TOKYO NODE」、その8階に位置する「TOKYO NODE LAB」は2024年10月に開設1周年を迎えた。LABという言葉が示す通り、この1年で数々の都市体験の研究・実験・共創が行われている。
では、新しい都市体験とは何か?「TOKYO NODE LAB」とは何か?その問いの解として「TOKYO NODE OPEN LAB 2024」というイベントが、10月4日~10月14日にかけて開催された。
「人と社会のコミュニケーションにココロを通わせ、未来へつなげる原動力をつくる。」をパーパスに掲げ、体験やコミュニケーションをデザインするHAKUTENも、このTOKYO NODE LABに参画している。イベント会期中には、HAKUTENからもいくつか体験型展示を出展。
「TORANOMON SABOTAGE」はその一つだ。
また、9日に実施されたトークセッション「虎ノ門を舞台に都市を遊びつくす:街中でのエンタメ体験が育む都市への愛着とは」には、HAKUTENメンバーである小野寺氏も登壇。松竹株式会社 京井氏、森ビル株式会社 小花氏と3名での対談を行った。
この記事では、トークセッションのサマリーを通して、HAKUTENの取り組み「TORANOMON SABOTAGE」について紹介する。
1.トラノモンで「サボる」を見つける
高いビルが所狭しとひしめき合いビジネスマンが多く入り乱れる街虎ノ門。そんなビジネスの街、虎ノ門の街をよく観察すると、路上やカフェで息抜きをする光景がよく見られる。実は無機質な街並みの中に、味わいのある純喫茶や桜が咲く公園や神社など、息を抜ける場所があるのだ。TORANOMON SABOTAGEとは、虎ノ門で「サボタージュ=サボる、息をぬくこと」にフォーカスし、観察した様々な人、場所を伝えるコンテンツだ。
HAKUTENメンバーが虎ノ門の街でフィールドワークを行い、街で働いてる人や住人だけが知っている、ガイドブックにも載っていないような都市の隙間(サボりやすい空間)をまとめている。この取り組みは2022年から続いており、フィールドワークした結果は模型として形にされている。
「実は虎ノ門はサボりやすい街なんです」と小野寺氏は語る。
このような背景から、虎ノ門は「サボり」に適した街なのだとか。
しかし、近年では都市から「気持ちよくサボれる場所」が減ってきている。都市計画に基づいた開発が進められると、街から「遊び」の部分がなくなり、すべてが目的や機能を持ったものでつくられてしまう。それをかいくぐるように都市の隙間でサボれるような場所を、体験を通じて提供できないか考えていた、と小野寺氏は語る。
また、サボるという言葉はネガティブに捉えられやすいが、生産性を高めるためのブレイクタイムは必要だ。
ポジティブに捉え直されたサボりが、TORANOMON SABOTAGEには落とし込まれている。
2.缶コーヒー1本分の旅をつくる
これらを踏まえて、今回は「ポジティブにサボる」ための自販機を展示。体験コンセプトは"缶コーヒー1本分の旅を作る"というもの。
缶コーヒーは「サボる=一服」の象徴、自販機は虎ノ門の街を象徴するものとして制作されたプロトタイプだ。
自販機の中の缶コーヒー1本1本のラベルには、フィールドワークを通して集めたサボり場所やリラックスできる場所など、様々なサボり方の提案がパッケージングされている。
「サボる」と書かれたオリジナルのコインを入れてボタンを押すと、各カテゴリーのサボり方を提案した缶が出てくる。パッケージに記載されたQR コードを読み込むと、TOKYO NODEからサボり場所までのルートがGoogleマップで表示されるようになっている。
虎ノ門の街で働いてる方々やお店の人たちのボリュームデータをLAB内のVOLUMETRIC VIDEO STUDIOで取ってマーカーに照らすと出てくるコンテンツも実装されている。
自販機の脇には、来場者自身がとっておきのサボり場所やシークレットプレイスを書き、共有できる体験エリアも設けられていた。
3.フィールドワークから見えたもの
TORANOMON SABOTAGEの取り組みは、HAKUTENのExperiential Design Labというチームから始まった。Experiential Design Labは、既存の価値を問い直し、新たな視点で再編集することにより、新しい体験をデザインするクリエイティブコレクティブだ。2021年には、資生堂との共創プロジェクトとして銀座の街のフィールドワークを行い、ウィンドウディスプレイを制作している。
こうしたフィールドワークプロジェクトは、事例から得られた様々な視点を組み合わせながら、その街に適した体験として設計できることが望ましい。今回のTORANOMON SABOTAGEは、虎ノ門の地に最適化した表現として展開されたプロジェクトだった。
フィールドワーク中には、地べたに座ってコーヒーを飲む職人さんの姿や、人が座るために設計されたわけではない段差に腰をかけて休憩している人々を観察することができたという。「本来のデザインされた目的を超えて応用する。こうして人々が【都市を使いこなす】ことが、都市を活性化させるのではないか」と小野寺氏は考察している。
またこうした取り組みを通して、生活者が受動的に鑑賞するだけの体験ではなく、能動的に介入して都市を遊び尽くす体験を実現しつつある、と手応えを感じたそう。
最終的にはTORANOMON SABOTAGEをパブリックスペースに設置し、ソーシャリー・エンゲージド・アート(体験者との対話やコミュニティへの参加を通して、社会的価値観の変革をうながす芸術的な実践)のような活動にしたいとのことだ。
「フィールドワークを重ねて、自分の手・足・耳・目で確かめた情報だからこそ自信を持って発信することができる。そして自分達作り手側のモチベーションにつながることを、今回の取り組みを通して実感できた」と小野寺氏は語った。
4.都市の愛着につなげていくには
都市に愛着がわくきっかけとしては、2種類が挙げられる。一つは、店舗や施設で食事をした経験など【個人が体験した街の記憶】だ。自分しか知らない場所や空間を、自分が過ごしやすいようにアレンジして使い倒す能動的な体験が街の愛着につながるという。
もう一つは、花見や祭りなど【公共空間で共有した街の記憶】だ。みんなで同じものを見た経験が、街の記憶として蓄積されていく。より愛着に結びつきやすいのは後者ではないかと小花氏は語る。
それを受けて、京井氏は「街に住んでいない人にも街への愛着を持ってもらうことを、これまでの事例を通じて達成できたのではないか」と話した。
そもそも京井氏の属する松竹 イノベーション推進部では、イマーシブシアターなどの新しいスタイルの演劇体験の模索を行っている。2023年12月に実施したZIPANGUという公演も、その取り組みの一つだ。この公演では、京都の先斗町を舞台に、ステージ上のみならず、劇場に向かうまでの道もショーの一部。ガイドブックに載っていない場所のツアーや街歩きも物語の一部に取り入れることで、没入感と非日常空間を作り上げる手法を取り入れたとのことだ。
体験者と街との接点に、こうしてストーリーを組み込むことも街への愛着の鍵だと京井氏は語った。
他にも脱出ゲームなど、日常空間からいつの間にか非日常に巻き込まれるタイプのエンタメをつくる上では、その街に適した表現の感覚を掴むことが、企画の、そして街への愛着づくりのきっかけになるという。
街の空間が日常空間であるならば、祭りやショーなどのイベントは非日常空間となる。「でも、こうして自販機1つ設置するだけでも非日常空間を生み出すことができるのは面白い」と京井氏は述べた。
森ビルのようなディベロッパーにとって、街を遊び尽くせる仕掛けを用いて多くの人に街への愛着を持ってもらうことは重要な仕事のひとつだ。
「エンタメをつくる松竹や、空間をつくるHAKUTENのような企業と、今後もぜひタッグを組んでいきたい」と小花氏が思いを語り、セッションを締め括った。