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TOKYO NODE LAB イベントレポート|オランダの音楽フェスDGTLから見える未来像

「家で寝て過ごすよりサステナブル」を合言葉にしたオランダの音楽フェスDGTL。ここでは環境負荷と廃棄を限りなく抑えた運営で、サーキュラーエコノミーの実現を目指す取り組みを中心にサステナビリティの実装が進められている。

日本でも、持続可能なイベントの実装が求められる今、サステナビリティ先進国オランダに学びに、2024年3月にHAKUTENメンバーが視察を行った。そして、HAKUTENが参画する、業種や領域を超えたクリエイターやイノベーティブな企業が集結し、新たな都市体験やコンテンツを創出する共同プロジェクト「TOKYO NODE LAB」にて、2024年6月4日にオランダ・アムステルダムの視察に関するトークセッションを実施。また、当日は来場者を交えてネットワーキングを行い、会場は盛り上がりを見せた。

日本でも持続可能なイベントを実現していくために、そして、虎ノ門・TOKYO NODEを発信拠点として、新たなビジネスの出会いが生まれる場を増やすためには?DGTL視察レポートを踏まえて、今回のイベントの様子を振り返る。



1.はじめに:TOKYO NODE LABについて

今回のイベントが開催されたTOKYO NODE LABは、森ビル株式会社が運営する虎ノ門ヒルズ ステーションタワーの情報発信拠点。「新しい都市体験を創出する」ことをビジョンに掲げており、森ビル・HAKUTENを含め、業種や領域を超えたクリエイターや16社のイノベーティブな企業が集結し、さまざまな共同プロジェクトを推進している。

「運営会社としてただユニークな場所を作るだけでなく、その場を活かして自ら新しいものを生み出していきたい」と森ビル・茂谷氏は語る。

左から、森ビル 茂谷氏、HAKUTEN 木島氏

TOKYO NODE LABに参画するHAKUTENは、「人と社会のコミュニケーションにココロを通わせ、未来へつなげる原動力をつくる。」をパーパスに掲げ、体験やコミュニケーションをデザインしている。そして近年特に力を入れているのが「環境負荷低減型イベントの実現に向けた取り組み」だ。

「HAKUTENがTOKYO NODE LABでやりたいこと」

元々イベントとは、3日ほどの会期を終えると造作物を全て解体して廃棄してしまうという、サステナビリティとは対局的な事業だった。長年イベント領域に携わってきた企業だからこそ、持続可能なイベントプロモーションのあり方について追求し、クライアントワークに還元している。

多様なビジネスパーソンが集まるTOKYO NODE LABを発信拠点・ネットワーキングハブとして活用し、「イベントのサステナビリティ」の社会実装を推進することが狙いであると木島氏は語る。

今回は、ネットワーキングハブの活動第1弾として、HAKUTENのサステナビリティ担当者がオランダ・アムステルダムで得た学びを共有する場となった。


2.オランダの音楽フェス「DGTL」視察レポート

HAKUTENメンバーが視察に向かったオランダは、サーキュラーエコノミー先進国と言われている。特にDGTLの開催地であるアムステルダムは、2030年までにCO2排出量55%削減という高い目標を掲げている都市だ。DGTLも2013年の初開催以降、市民・行政、あらゆるステークホルダーの連携によって毎年様々な施策にチャレンジし、アップデートを続けている。

ここからは、本年のDGTLの取り組みの中でも、特筆すべきポイントについて資源、エネルギー、モビリティ、衛生、フード、イノベーションのキーワードに沿って紹介していく。

■資源
DGTLの根幹にあるのは「世の中に『ごみ』は存在しない」という考え方だ。会場内にはゴミ箱が設置されておらず、代わりにリサイクルステーションが点在している。「要らなくなったもの」が発生した人は、「要らなくなったもの」が発生した人は、全てこのリサイクルステーションまで持っていき、常駐するスタッフが、野菜や果物など食べ物の残りや、ペットボトルと缶、グラスなど12種類に分別する。持ち込んだ人ではなく、スタッフに分別を任せるのは、それぞれに異物が混じらないよう、それがいちばん信頼できる方法だからだ。

会場内に点在するリサイクルステーション

DGTLの根幹にあるのは「世の中に『ごみ』は存在しない」という考え方だ。会場内にはゴミ箱が設置されておらず、代わりにリサイクルステーションが点在している。「要らなくなったもの」が発生した人は、「要らなくなったもの」が発生した人は、全てこのリサイクルステーションまで持っていき、常駐するスタッフが、野菜や果物など食べ物の残りや、ペットボトルと缶、グラスなど12種類に分別する。持ち込んだ人ではなく、スタッフに分別を任せるのは、それぞれに異物が混じらないよう、それがいちばん信頼できる方法だからだ。

リソースハブのテント

各所のリサイクルステーションで分別された不要物は、スタッフによってリソースハブへと運ばれていき、資源として集約される。外観は小さなテントだが、ステージのすぐそばにあり、「ここは何をする所だろう」と来場者の興味を引く。テントの中では多くのスタッフが細かく分別を行うが、仕事をしているというよりは、音楽に乗ってノリノリで作業をしている雰囲気が伝わってくる。「やらされている感が一切ない」のが印象的だったという。

■エネルギー

ウォーターメロン社の水素発電機

DGTLの会場の電力は全て再生可能エネルギーによって賄われている。基本、施設内に設置された太陽光パネルで発電しているが、2024年は新たにウォーターメロン社による水素発電機を取り入れた。これが3基あれば全体の電力を賄えるが、実証段階であることから1基とし、この1基でフードコートの電力が全てカバーされていた。前年のフェスでは、別の場所で再エネを充電した蓄電池を会場に持ってくる方式が取られたが、持ってくるのに環境負荷がかかることから、現地で発電する方法に切り替えたという。

■モビリティ
WEBのイベントページでは、飛行機のアクセスによるCO²排出量のカリキュレーターを公開しており、参加者にその使用を促しているのも大きな取り組みのひとつだ。追加コストを支払うことで、持続可能な航空燃料の購入や、マングローブ林の再生プロジェクトへの参加も可能になっている。

航空機による移動に伴うCO2排出量を来場者が簡単に計測できるカリキュレーターをHPで公開
参照:https://dgtl.nl/sustainability/

搬入出の観点でも、会場設営業者や飲料メーカーが、EVトラックやバイオディーゼル等の環境負荷低減型車輛を活用していたという。

■衛生
ユニークな取り組みとして、「Pee to Tree」というシステムも挙げられた。これは、排泄物(小便)をろ過しながら、養分を木の成長につなげるというものだ。他にも、ろ過した排泄物を飲料水に変え、その水でお茶を作るという実証実験も行われていた。

「Pee to Tree」

小便を飲料水として飲めるレベルにまでろ過することは技術としては確立しているものの、法的に規制がかかっていることから、技術開発を行うスタートアップ企業にとっては、フェスの場でお披露目することで、来場者に広く知ってもらい、PRを通じて資金調達につなげる狙いもあるようだ。

■フード
フードコートで提供されているものは全てビーガンだ。2013年のDGTLスタート時には牛肉の提供もあったようだが、飼養や調達の面で環境負荷が大きかったため、提供するフードは全てビーガンに変更していったとのこと。

左:マッシュルームのバオ、右:ビーガンハンバーガー
どちらも非常に美味しい

■サステナブル × イノベーション
DGTLは音楽フェスであるものの、会場ではさまざまなスタートアップによるイノベーションをテーマにしたセミナーなども実施されている。

スタートアップの誘致やセミナーの開催はINNOFEST社がリード

DGTLには各国から視察目的で訪れるビジネスパーソンも多いため、彼らとスタートアップ企業との出会いの場としても活用されている。また、こうしたスタートアップを積極的に巻き込んでいくことで、イベント全体としてのユニークさも毎年アップデートされていくのでは、と鈴木氏は語る。


3.良質な体験が、人々の行動変容を呼び起こす

ここまでの視察内容を通して、HAKUTENメンバーが得た学びは以下の通りだ。

HAKUTEN 福田氏
  • イベントは社会実装のための実証実験の場
    ひとつは、新たな技術やシステムの社会実装にあたって、イベントが実証実験の場として有効だということだ。DGTLは音楽フェスではあるが、主催者だけでなくスタートアップなどのステークホルダーが参画し、先に紹介したような様々な取り組みがなされている。DGTLの場を活かして、彼らの新たなチャレンジ、課題の発見と解決が繰り返されている。

  • サステナビリティの前に良質な体験がある
    DGTL主催者が「サステナビリティで人を集めることはできない」と明言していたことが印象的であったと、鈴木氏は語る。鈴木氏の所属するHAKUTENサーキュラーデザインルームは、クライアントのプロモーション支援を通して持続可能なイベントづくりを実践している。その活動の中でも、「サステナビリティがサービスやプロダクトの購買理由にはならない」と感じるのだという。
    DGTLに訪れる5万人もの来場者は、純粋に音楽体験を楽しむことを目的としている。良質な音楽体験とサステナビリティをセットで伝えることによって、行動変容は起こし得る。良質な体験という前提がないままに、サステナビリティへの協力や学びを呼び掛ければ、それは押し付けになってしまう危険性もある。そうではなく、いかに人々の行動変容を呼び起こしていくような、体験価値を生み出していくかが重要だ。

  • ステークホルダーとの連携
    そもそもDGTL自体がアムステルダム市などから3つの助成金を受けて成り立っており、リソースハブなどのスタッフは全て活動に共感して参加しているボランティアだ。ボランティアには資源循環などについて学ぶ学生も多い。サステナビリティの実装のための費用をイベントの収益から捻出するのは難しく、行政やスタートアップ、学生らさまざまなステークホルダーとしっかりと連携し、彼らと有機的につながっていくことがイベントの屋台骨を支えている。


4.日本ならではのサステナブルイベントに求められること

DGTLは、アムステルダムの地域に根差した音楽イベントだ。では日本ではどのようなイベントの可能性があるのか。今回の視察を通して、「サステナブルイベントの仕組みづくりや施策・効果の可視化といった取り組みについては、再現性・継続性を持たせるために今すぐにでも取り入れるべきだと感じた」と鈴木氏は語る。

HAKUTEN 鈴木氏

しかし一方で、技術やアウトプットをそのまま取り入れるのはあまり現実的とは言えない。例えばアムステルダムの水上住宅街「Schoonschip」は、現地に川が多く船上生活の文化が根付いており、かつ気候変動による海面上昇という課題に直面しているオランダだからこそ受け入れられた技術だ。日本でも、独自の文化との親和性や、地域課題・背景を捉えたうえで、伝統技術やイノベーションと掛け合わせていくことが重要だという。

またイベントに限らず、サーキュラーエコノミーの起業家が集まるインキュベーション施設BlueCityなど、オランダの街中のあちこちで実証実験が行われており、「Learning by doing(やりながら学ぶ)」のスタンスを体現している。あらゆる社会課題に対して、あらゆる可能性を掛け合わせ、行政と市民とで解決策を探っていく文化が根付いているのだという。
「東京・虎ノ門においても、TOKYO NODEを拠点として多様な技術や強みを持った企業が集まり、コラボレーションによって新たな都市体験や価値を生み出していきたい。その重要性をオランダで実感した」と福田氏は語った。


5.日本に持続可能なイベントを普及させる「原動力」とは

オランダ・DGTLから学び、日本でも持続可能なイベントを普及させる原動力とは何か。

HAKUTEN 鈴木氏は、企業の垣根を超えた共創、そして既存のシステムを抜本的に変えることがカギになると話した。HAKUTEN社外のプレイヤーとのコラボレーションを通して、これまでになかった取り組みやアウトプットが生まれる機会に立ち会ってきたという。オランダではこうした共創とアップデートが自然に行われる土壌ができていると語った。

イベントの実施には、主催者・来場者のほか、会場運営会社や施工会社など、様々な分野のステークホルダーが関わることになる。森ビルの茂谷氏は、「今後街の中に大きなイベントを起こしていくうえで、今回来場された方々と共に取り組んでいきたい。そしてTOKYO NODE LABというチームが、その原動力になり得る」と思いを語った。

トークセッション後のネットワーキング。会場は盛り上がりを見せた。

TOKYO NODEとは
「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」最上部に位置するTOKYO NODE。イベントホール、ギャラリー、レストラン、ルーフトップガーデンなどが複合する、約10,000 ㎡の新たな情報発信拠点です。NODE=結節点という名のとおり、ビジネス、アート、テクノロジー、エンターテイメントなどあらゆる領域を超えて、新たなものを生み出していく舞台となります。施設内には、ミシュラン星付きシェフによるレストランや、イノべーティブなプレイヤーが集まり共同研究を行うTOKYO NODE LABを併設。クリエイティビティを刺激し、虎ノ門から世界に発信していきます。

TOKYO NODE LABとは
TOKYO NODE の 8 階には、参画企業やクリエイターのための共創拠点「TOKYO NODE LAB」を開設。XRライブ配信が可能なボリュメトリックビデオスタジオ「TOKYO NODE VOLUMETRIC VIDEO STUDIO」、TOKYO NODE のエントランスに構える開放的なカフェ&バー「TOKYO NODE CAFE」が併設されています。業種や領域を超えた一流の才能や、イノベーティブな企業が集結。虎ノ門ヒルズエリアを通じて、コラボレーションによって新たな都市体験 やコンテンツを創出・発信します。