気づいたら友人が割と地獄に落ちてた話

そう言えば去年だった。友人が一人消えたのは

2023年、あたしの友人が自殺した。
良いヤツだった。バカでどうしようもなくだらしのないヤツだったがとにかく良いヤツだった。あたしより友人いねぇ、コミュ障で不器用で、それでも真面目で嘘のつけない正直ものだった。

自殺の動機はとってもシンプル。貧乏でブラック企業勤めで病んで退職したは良いものの転職先も見つからず、やれることもやりたいことも見つからずに絶望したんだと、遺書に書いてあった。

汚い字で書いてあったその絶望は、真面目なアイツがどんな思いで死んだのかをよくよく理解させられたのをよく覚えている。ちょうど一年前のことだった。

つい先日もう一人落ちていった。とても馬鹿で、とてもやるせない理由で

つい先日のこと、中学からの付き合いだったヤツが警察のお世話になったのだと耳にした。
「何をしでかしたんだあのアホは?」
「つかあいつ25で結婚したよな? 子供もいなかったか?」
「随分イジったよな? なんでそんなことになってんだ?」
色々聞いたところ、以下のどーしよーもない顛末を聞いたのだ。

奥さんが元ホストでベンチャー企業(してるかどうかは定かじゃないけど)してた人と不倫。気づいたら離婚を持ち出され、経済的な理由で子供も持ってかれたと言う。それでも容赦なく養育費を請求される日々に苦しみ、経済的にも困窮したところ。手を出したのは闇バイト。結果出し子でお縄になったらしい。

救いようもない馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だと煽ったが、それでも最後の一線くらい踏み止まれなかったのかと憤った。奥さんが如何に酷くても、その不倫相手が如何に許せなくても、あいつはちゃんと人の親だったはずなんだ。なんで最後に踏み止まれなかったのか。どうして一発掌底を腹に見舞ってでも止めてやれなかったのか。悔やんでも悔やみきれない。

まぁしばらくすればまた会う機会もあるだろう。その時はまず腹に掌底喰らわせて、ちょっぴり吐いたその後で肩でも叩いてやろうと思う。これであたしが友人を辞めない選択をすれば、少しくらい、あいつがマシになると信じて。

世の中はとても不条理で、とにかく救えない。救えないのがこの世なんだけど……

ちなみにここまでの話を聞かせてくれた知己の友だが、こいつは中々友人の多い奴で、中学の同窓会にも顔を出す奇特な奴だ。なんでも教育関係の仕事についているからこそ、そこでコネを作りたいんだとか言ってた。なるほどずる賢いヤツだ。昔からそうだった。
そんなヤツだからこそ割と色々知っていて、あたしが距離を置いた同級生の顛末を色々聞いている。

あたしをいじめたクソヤロウがホストになって、客の女と駆け落ちしたとか。
あたしが嫌いだったグループの連中が関西でパーソナルジムを開いているとか。
あたしがすげぇと驚かされたクラスでも一番勉強できたヤツが海外で色々頑張ってるだとか。

でも、なんでか、不思議と、あたしが好きだった馬鹿野郎共は皆、皆なんかしら苦労しているらしい。
「割とお前はうまく立ち回ってる方だよ。俺の知る限り」
そんな風に言われた時、二重の意味でこう返してやった。

「そんな、嘘だろ?」

なんで、あたしが好きなヤツは、あたしが幸せになって欲しいヤツらはこうもキツいめにあってるんだかな? 疑問で疑問でしょうがない。
あんなにも真面目で、馬鹿で、どうしようもなく良いヤツらなのに

少しだけ、今の世の中を考える。

仕事柄、色んなニュースには広く浅く目を向けるようにしている。
その中でどうしても、日々痛感していることがある。

「強い奴は損をする。そんな社会になりつつないか?」

悉く最近「楽に」「手軽に」「隙間時間で」みたいな、とにかく苦労なく得が出来ることを売り文句にするものを多く見るようになった。

そりゃ何事も「楽」に「得」が出来ればそれがいい。そう言うマインドになるのは分かる。けれど、どちらかというとそれはハイリスクでリターンの見込みも極めて薄いみたいなもののはずだ。手を出すことじたいが宝くじを買うような、薄氷を履むが如し淡い夢物語。
けれどそれに何故か憧れを抱く人が増えている気がする。

多分だけど、苦労して何かを積み重ねながら強くなるみたいなのが割に合わないと思われてるんだと、白色黒蛇は考える。
「ブラック企業」「休日出勤が続いて仕事がキツイ」「残業しても給料が安い」
そんな、頑張って働くことの報酬がネガティブに捉えられるようなパブリックイメージが広がっているんだと、そんな風に見受けられる。

一部それは間違いじゃない。そんな会社もあるだろうけど、何もそれが全てじゃないし。そこでした苦労は確実に力になる。

これはあくまで、大学2年の時からアニメーション制作会社のインターン(と言う名のタダ働き)を2年近く続けて
「大学に働きに行く」
みたいな意味不明なフレーズを何の疑問もなく発していた白色黒蛇が持つ、レアな成功体験なのかもしれない。

でも、今白色黒蛇はそれらの経験は確実に自分の身になったと感じている。どんな不条理も、どんな無理難題も、どんな地獄のような苦境も目を逸らすことなく、思考を止めることなく立ち向かうことが出来る「強さ」を得たからだ。

もちろんそれと引き換えに、大学時代の青春も恋愛も遊び惚けて楽しむことも切り捨ててしまったが、代償に得たものはまぁまぁ割に合ってはいたはずだ。

あたしは強くなった。あたしが好きだった馬鹿共よりも遥かに強く、遥かに強靭になった。同じ大学に通いつつも遊び惚けてた連中よりも遥かに強いと自信と誇りをもってそう言える。

では、だ。

あたしが好きだった馬鹿共と、あたしが嫌いだった連中との差は一体何なんだろう? 同じように遊び惚けて、同じように楽しそうなツイートをしてた連中だ。一体どこでこんな差がついてんだろうか?

あたしが嫌いだった連中の話

あたしが嫌いだった連中の特徴、をこれだと言って挙げるといたずらに関係ないところを傷つけるだろうから出来る限り抽象的に言うけれど。

白色黒蛇はとにかく、他人の苦労に目を向けられない人が好きじゃない。

大学時代、押し付けられた学内放送(当時はニコ生)のミキサーをやっていた(アニメ制作会社インターンやってる奴に押し付けるかね普通)んだが、如何せんミキサーと、ついでに放送進行をワンマンで行っていた(この段階でどう考えてもおかしい)のだが。
ある日の放送終了後に後片付けを行う傍ら、ゲストで出演した産学連携で目立った成果を上げた連中が楽しそうにその場で誕生日パーティーを行うザマを見て、酷くやるせない気持ちになったのを忘れられない。
そりゃ、成した成果は大したものだろうが、それを広報するためにこっちはそれなりに準備をし、手間をかけてセッティングをし、あたし以外にもサムネイルやシーン合間の挿絵を用意してくれたデザイン科の人たちとやり取りを重ねて。放送終了後は色んな機材をわっせわっせと運んで余念なく頑張っていた……中で呑気に「ハッピーバースデー」だ。買ってきたケーキを顔面にぶつけてやろうかとも思った。

そんな連中だが就活で一流企業に就職したとかいう話を聞いて、大学時代の最後の1年、就活時期はとても複雑な思いをしたのを覚えている。まぁそれは自分も就活で苦労したからだっていうのもあるが……

同じくらい苦手だったのが、ホストクラブで働いていたらしい同期の連中。あいつらの言葉はたまーに思い出す。
「ちょっと甘い言葉をかければすぐ稼げるよ」
「ブ〇の相手はまぁ大変だけど、どうせすぐだし、上手くおだてりゃ良い金づるになる」
「まともに働くなんて馬鹿のすることだろ? それか顔が終わってるか」
この世に暴行罪がなければ多分一発は殴ってたと思うあいつらは今どうしているだろうか? 分からないけど、やはりどうしても好きになれない。
まぁホストとかキャバ嬢とか水商売系の方々はそれはそれで考えて自分を磨いている点もあるだろうから、職業でひとくくりにして否定する気はない。

あとはそう、ライターになってから一度だけ案件を受けた霞が関の政治家の爺さん。詳しくは守秘義務違反になるから言えないが、とにかく最悪な半年間だったのをよく覚えている。
日本の政治に絶望し、霞が関の政治家全員クビにしないと世はマシにならないと思わされたくらいには、失望した。

あたしが好きだった馬鹿共の話

反面、あたしが好きだった馬鹿共は、まぁ馬鹿だった。毎日毎日どうしようもないことで騒いでは。自分の好きなアニメだゲームについて好きなことを語ったり、かと思えば何様だと思うクレーム未満の不満点をぶちまけたり。
ちょっとした思い付きでゲームセンターの筐体を貸し切ってバカ騒ぎ、大学に他校の友人を招いてぎゃーぎゃー騒いだと思えばどこで買ったのか知らないが大量のピザを買って学食の机中に広げて「食いきれねぇ!」と喚いてた。
でも、あいつらは決してお互いの苦労や頑張る姿を笑わなかった。特に、あたしみたいなのに対して
「お前知り合った時よりもタフになったな」
「良い意味でバケモンになったよ、お前」
と褒めてんのかけなしてんのかわかんねー賛辞を贈ってくれたのが、嬉しくて「誰がバケモンだアホ共」と返したのを覚えている。

馬鹿共は馬鹿共だが、それでもバイトとかはクソ真面目にやっていたらしく、サボったとかは聞いたことがないし、意欲的に真面目にやっていたようには見える。何より、大変な時でも逃げる気にはなれないと言っていたところはとても強いなと思ったのだ。




で、そんな真面目な連中が、今苦労しまくっていると聞いて、中には酷く落ち込んで、道を踏み外す奴まで出てきてる。この現実は、正直嫌いだ。大嫌いだ。

真面目で、人の苦労を笑わず、苦労に対して決して目を背けない。そんな強さをもつ馬鹿共が報われない。

そんな世界は、ぶっ壊れてしまえと思うくらいには好きになれない。
どうすれば、あいつらは報われるんだろうか?

誰か、一緒に考えてくれねぇかなぁ?

そんなことを思う、ここ最近。あたしは今日も頑張って働くのだった。
お相手は白色黒蛇でした。


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