プチ虐待のススメ

28【クロスバー直撃の前野】

クロスバー直撃というコンビがいる。僕ごときよりは、はるかに有名で何度も関西圏ではテレビに出ている。

【潔癖】の回で言ったことと反してコンビ名、個人名を出しているのには理由がある。

問題は、ボケの前野である。

僕はこいつに、マックス4万円以上の金を貸していた。こいつは、後輩でもなんでもない、純度100%の同期なのに、である。

俺だって金はない。

しかし、前野は、当時借金まみれの生活をしていた。

情に弱い僕は「いつでもいいよ」とお金を貸していた。

マックス4万円は貸した借金が今もまだ返ってこない。

返ってこなさすぎて、もはや【思い出】みたいになっている。

早く金返せ、前野。子供を誘拐してでも返してもらうからな(笑)。

というわけで名前を出してオッケーな唯一の例外である。

マックス4万円の借金も、ほぼ、こちら側の努力で減らしたのだ。

「前野、なんでもええから全巻揃ったマンガ持ってきてくれたら、五千円減らしたるわ。読んだら返すから」

だの

「前野、こないだ先輩からお前がもらった服、俺にもくれたから、5000円減らしたるわ」

だの

「前野、今日はなんだか前野がいつもより優しかったから5000円減らしたるわ」

だの、最後にいたっては、どんな理由やねん、という理由で減らした。

それでも、現在14000円が返ってきていないのだ。

前野と久しぶりに会った時が、お世話になっている社長の結婚式のパーティだった。

そのパーティの参加費も誰かに借りていた前野を見て、子供を誘拐するしか、返してもらう方法がないことを知った。

前野は面白い。

それを持ってして全てを許すぐらいのやつだった。常に全力でお笑いをやっている人じゃなかったら、本気で僕も怒っていただろう。

勝新太郎さんの借金を許した中村玉緒さんの気持ちであるどこがやねんかねかえせ。

僕は貸すのはいいのである。

怒るポイントがある。

一度前野に「中西、金借りてる状態で済まんけど、410円貸してくれ」と言われたことがある。

410円ではなく、1000円貸してくれなら、理由も聞かずにすんなり貸していただろうが、410円と言われて、何も聞かない奴はいないだろう。

「なんや、そのとびっきり具体的な金額は!」

聞けば、タバコを吸いたいとのこと。

殺すぞ(笑)。

「お前は、タバコを我慢してでも色んな人にお金を返さなあかん身分やろが!何が410円貸してくれやねん、ふざけんな!」

なぜ、ちょうど借りようと思ったのか、不思議な奴である。


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