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家に鈴木さんが来た日、元カレとの電話のあと、電話がつながった洋子に話を聞いてもらい、わたしは冷静さを取り戻した。

とにかく、冷静にせねば。

常識で考えてみたら、わたしの命を狙っているわけではない。

それに、元カレの言うことも一理ある。

鈴木さんにせよ、白田さんにせよ、カットが終わった後は、必ず「ハイ、終わりーっ!」と言いながら客の頭をハリセンで叩きたいだけなのだ。

それ以外は普通なのだ。

いや、ややおかしなところはあるけれど、普通の範囲内である。

職場なんかは、逆に人がいっぱいなのだから、安心なのだと自分に言い聞かせた。

できるだけ普通の行動をしよう。わたしは、次の日も普通に出社した。

運の悪いことは続くもので、いつもなら怒られもしない程度の少しの遅刻を部長に見つかり、いやごとを言われた。

「すいません。ちょっと定期入れを失くしてしまって、探してるうちに電車を一本逃してしまったんです」

「言い訳をするな!社会人失格やな!」

何か遅刻した理由はあるのか?と聞くから答えたのに。社会人は理不尽だ。その後もお説教は続いた。

「俺なら、定期入れをなくしても、遅れるのがイヤやから、その日は切符を買って会社にいくよ!!わずかちょっとぐらいの金やん?それで信頼を失うんやで?」

わたしは、とにかく謝って、おとなしくその日は仕事をした。

午後、残業をしていたところ、突然、となりのデスクのイケメン山田さんが話しかけてきた。

「今日は、えらい怒られてたな(笑)。遅刻ぐらいで」

「もう〜、なんでそんな嬉しそうなんですか(笑)、山田さん!」

「いやいや、ごめんごめん。もう残業ええで、そのへんで。派遣やから、残業したらあかんしな。これ以上。時間決まってるから、一応」

「そうなんですか」

「うん。よし、ピザとろう!定期なくしてお金ないやろ。おごるよ?」

山田さんは、わたしより五年ほど先輩で仕事もできるし、優しいし、みんなから好かれてる存在だった。山田さんがおごってくれるなら、まかないで散々食べて、もうしばらく食べたくないと思った牛丼でもいい!

そんなことを思っていたら、ピザが来た。

「あ、これで払って来て。橋本さん、悪いね!」

お金を持って、ピザを取りにいく。

「えーと、モダンチーズのMサイズとポテトお二つ、コーラお二つで2900円になりますね」
「はい、どうもー」

わたしは、支払いを済ませ、ピザの匂いに鼻腔をくすぐられながら、両手でピザを受け取った。

ピザの店員さんが、帽子をとって、わたしの顔を真っ直ぐに見た。

わたしは悲鳴をあげて、その場で倒れ込んだ!!

そのピザ屋の店員は!!白田さんだったのだ!!


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