柔道着と空手着の違い
ウサギ王国では、我々人間の世界と同じように、学校があり、職場があり、とにかく、楽しんだり、苦しんだりしながら生きているウサギたちがいる。
これから話すお話は、その、ウサギ王国での話。
「これ、お前、空手着やないか!」
全ては体育教師の、ウサギ谷ウサ男のこの一言から始まった。
簡単にあらすじを言うと。
とある高校、ウサギ学園での出来事。
ウサギ学園では、柔道の授業があり、学校指定の柔道着を買わないといけないのだが、もともとプライベートで習っていた空手で使っていた生徒がいたのだ。
その生徒は、バレないだろうと、柔道着を買わずに、自分の空手着をこっそり着ていたのだ。
空手着と柔道着は、素人目には似たようなもので、何にも変わらない。
しかし、掴んだり投げたりする柔道着と空手着では、根本的に縫い方が異なる。
ただ、やはり見た目は区別がつきにくい。
そこで、三年間の柔道の授業の間、先生に一度もバレることもなく、卒業間近となった。
柔道の授業も残すところ、あと5回となった。
この時のセリフが前述のものである。
「これ、お前、空手着やないか!」
そして、このあと、「ちゃんと、柔道着を買ってこい!」と続くのである。
そして、時が少し経過し、今は夜のウサギ学園の屋上である。
「ウサハラ君、バカなことはやめなさい!」
「そうだ!みんな心配しているぞ!」
「ウサハラくん、もう空手着のままでいいと思うわ!!ウサハラくんは絶対に間違えていない!」
ウサハラ君は、フェンスに昇り、片足をグラウンド側に出しながら、飛び降りる姿勢を見せたまま、叫びました。
「それまで、全然気づかなかったくせに、残り5回しかない柔道の授業のために、『わざわざ柔道着を買え』とか、意味わからないので、生きる希望がなくなりました!」
「そうだ!そうだ!」
みんなは、とにかくウサハラ君を救わないといけません。
ウサギ谷先生を責める雰囲気になっていました。
ウサハラ君は、続けて叫びました。
「残り5回の授業の時にみんなの前で怒られただけではないです!
次の柔道の授業でも、柔道着ではなく空手着を着ていったら、ウサギ谷先生は、僕に近づいてきて、『あと4回やから、空手着で、粘ってるうちに買わなくて済むと思ってるやろ!あかんぞ!柔道着買えよ!』と僕に言いました!!」
それはひどい。
そいつはひどい。
残り4回なのに。
残り5回の時でもひどかったのに。
残り4回なのに。
ウサギ高校は、みんな、ウサハラくんの命を救いたいので、必死にざわめきます。
校長先生のウサミチ先生が拡声器で声をかけました。
「ウサハラ君は、空手着で、柔道の授業を三年間やってたんだね!空手着は柔道着のように、引っ張ったり掴んだりしてもいいように、特別に頑丈には作られていない!それなのに、三年間も着ているということは、ウサハラ君は、物を大切にするという素晴らしい性格をしている!我がウサギ学園の誇りだ!!」
ウサハラ君は、校長に向かって叫びました。
「ウサギ谷先生は、三年間、気づいてなかったくせに、『すぐわかったぞ!これ、空手着やないか!』みたいな顔をしてました!」
それはひどい。
それはひどい。
ウサギたちは、口々に言いました。
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