プチ虐待のススメ
25 【ルービック】
NSC卒業後、ジャングルジムの次に組んだコンビ名が、ルービックだった。
ルービックキューブからとった。僕の中で、何か遊び心を感じさせる名前にしたかったのだ。
【ジャングルジム】からは、イタさを脱却してるが、まだまだイタいことに変わりはない。
相方のしょうたは、なんか、シレッとした感じでかっこつける奴だった。なんか、アイロニーがあるというか、何というか。僕よりは、はるかに見た目がシュッとしててイケメンではあったと思う。
この、ルービックなのだが、お互いがプライドが高くて、なかなかうまくいかなかったのかなと、思う。
なんか、僕の中で覚えてる印象的なエピソード。
二人で歩いてて、会場に向かう時、僕の靴ひもがほどけた。それをかがんで、紐を結ぶ。
しょうたはズンズン歩く。
普通待つやろ。気づいてないのか?
と、思ったが、僕はプライドが高く、「俺のほうがネタ書いてるのにあいつの態度はなんだ」なんて思ってるから、「ちょっと待ってや」なんて言えない。
向こうは向こうでさすがに気づいてるはずだが、振り返ったら負けと思ってるのか、振り返りもしない。
なんか、それがシャクに触るので、僕は僕で、靴ひもを結んだだけじゃないさ。寄るつもりだったお店があるのさ、と言わんばかりに、追いかけずに、別の道を歩き、食う予定もなかったうどん屋に入った。
うどんをすすりながら思った。
このコンビは長くないやろな(笑)、と。
そして、こんな意地の張り合いをして、ここまでお互いがプライドが高いほど、舞台でウケているわけでもなかったのだ。
ただ、一部のお客さんや一部の芸人には、面白いと言われたり、ま、その程度だった。
さざ波程度の評価だった。
一部の芸人、の中には情けないことに自分たち二人も入っていた。
ただ、この相方は実は優しいやつで、僕と同じで、いや、僕以上に不器用なやつだったのだ。
優しさをプレゼンするのが下手。
後でも言うが、僕は、この後、さかなDVDというコンビを組むことになるのだが、その時の相方の花岡としょうたは、そういう意味では、いや、割とあらゆる点で対照的だった。
花岡は、自分の優しさとかを全部、人に見せるようにコーディネートする。完全にそういうタイプ。ナルシストで髪の毛ばっかり触ってる奴だった。
鏡が意思を持っていたらきっと、「またお前か、もうええわ!」とつっこんでいただろう。
しょうたは、不器用である。
しょうたの不器用な優しさに、気づいたことが何回かあったので、その話をしよう。
ある日、後輩をメシに数人連れていくことになった。
僕はカッコつけである。後輩に金を出させたことはほとんどない。【潔癖】の回でも言ったが、一万円までなら出す、という気概でずっといた。
すると、しょうたが「俺も行こかな」と着いてきた。
そして、普通に、メシ食いながら馬鹿話をワイワイしてから、しょうたと僕の二人の支払いで後輩たちにメシをおごり、店を出た。
しょうたと二人になったので、何の気なしに聞いた。
「お前、なんか、今日はなんか予定あるって言うてなかったっけ」
「あ、別に今日じゃなくてもええ予定やし。あの人数をお前一人じゃきついやろ」
抱かれてもいいと思った(笑)。
これ、僕がたまたま聞いたから答えたけど、聞かなければ、きっと何にも言ってない。
そういう奴なのだ。
花岡はというと、完全に真逆。
後輩におごらないとあかんような流れだと、ほぼ確実に嘘をついて帰る。
実家から妹が来てて、とか、それらしいことを言うのだが、いくらなんでも都合よく毎回そんなわけないやろ、偶然とは言わさんぞってぐらい、スルリと帰る。
僕も全部の回がウソとは思わないが、まあ、金に汚ねえ奴だと思った。
花岡の良さに関してはまた後述するが、こういうところは、ほんとに図々しかった。
僕が「いや、そんな毎回、実家から誰か来るわけないやろ」みたいな空気を出すと、心から驚いたような顔をする。
こっちが、心が汚いような気になってしまうような純粋さ100パーセントの顔をしている。
僕は基本的に、びっくりした顔が嫌いである。
大切なことなので、二回言う。
僕は、びっくりした顔が嫌いである。
なので、以来、どうせウソやろなと思っても追求しないようにした。
花岡としょうたは、性格がそういうところでは、全然違う。
しょうたのことを好きな女から、一度メールが来たことがある。
「しょうたさんは、わたしのことをどう思ってるんでしょうか」
知るかえ!そんなこと。
ただ、僕は優しいので、しょうたの優しさはわかりにくいのだと説明しておいた。
しょうたっちゅうのはな、女の子がご飯作ってくれても、うまいとか言わんねん。聞いたら「美味しいで」とか返すけど、その温度も低いねん。むしろ黙っておかわりするタイプやねん。デートしてても、別に楽しそうにせえへんかったりきっとするやろう。
でも、「また会える?」って聞いたら「おう、いつにする?」みたいな奴やねん。
みたいな感じで返した。
「わぁ、ほんまにそんな感じやわあ、中西さん、ありがとう。すごい気が楽になりましたぁ」みたいなメールが返ってきた。
結構その子、可愛かったのに、俺は何してんねんと虚しくなった。その後どうなったかは知らない。
花岡も全くおごらないわけではない。おごる金額が少なくて済みそうな時はちゃんといたりする。
「24期以上の先輩は6000円、25期は5000円
26期は3000円、27期は2000円、28期は1000円、それより下の後輩は、お金いらないです」みたいな払い方の時がよくある。
大人数の場合、先輩も全額は払えないから、このシステムはよくある。
僕は25期ので5000円、花岡は26期扱いなので3000円。
こういう時、僕なんかは後輩に「ごちそうさまでした」と言われたら「いやいや、金を出させて申し訳ない」と返事をする。全額払ってあげるのが基本だと思っているから。
同じように花岡に後輩が「ごちそうさまでした」と声をかけていた。
その時の花岡の返事はこんな感じ。
「ウェーイ!」
ウェーイ!?
ウェーイってなんだ。
お前そんなに出してないやないか!
参考までに、後輩に「ごちそうさまでした」と言われた時に、“どう返事をしていいか”と“金額”の関係性についてここでまとめておこう。
50万円以上 「お前の未来の嫁を一回抱かせろ〜!」
10万円以上50万円以下 「ウェーイ!」
5万円以上10万円以下 「かまへんかまへん」
一万円以上5万円以下 「おごってないから。この金額では、おごってないから。恥ずかしいからやめて!ホラ、人が見ているから!!おごったみたいに思われるから」
一万円以下 「はて?なんのことですかな?どこかでお会いしましたかな?」
これを参考にして、読者のみなさんは、たいしておごってもいないのに、ウェーイなんて言わないようにするべきである。
さて、しょうたと花岡。
この二つの異なる性格。
僕の相方としては、どちらが良かったのか。
圧倒的に花岡である。
優しさもコーディネートし、服装もコーディネートし、魅せ方というのがわかっていた。
事実、さかなDVDというコンビは、結果、売れはしなかったが、舞台レベルでは爆笑をとるようになるのである。