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わたしは、それから、本当にあの美容院のことを考えては、不思議な気持ちになった。

あそこには、人間がいるような気がしない。

大衆的な店なのかと思わせておいて、実はそんな次元の店ではない気がする。
鈴木さんも、白田さんも、大衆的な人間などという表現に足る人物ではない。

鈴木さんと白田さんが会話してるところを見たことがないのも、不気味であった。

年配で陽気な鈴木さん。
少し若く、陰気な白田さん。

共通点は、どちらもハリセンで客の頭を叩いてくるところである。

そして、美容院のお客さんがキレてるところを、わたしはまだ見たことがない。

鈴木さんも、白田さんも、どんな客にでも、平等にハリセンで頭を叩いている。そこも恐ろしいところだ。

昨日、わたしはその証拠を見たのだ。

あまりにも、恐ろしいシーンだった。

わたしが、いつものように、ハリセーヌに行った時である。

店に入った瞬間にバチーンというハリセンの音が聞こえた。客は、キョトンとしてたが、これもいつものことである。

わたしは、内心、可笑しくて仕方ないが、笑ってはいけないような気がして、ひたすら我慢していた。

明日は我が身なのである。

と、思った矢先に、店に、もう一人のお客さんが来た。とにかく、一目で気のきつそうな顔をしている女性だ。歳の頃は、50歳ぐらいか。

鈴木さんと同い年で、元美人だったのだろうなと、思わせる風格があり、気品のある服装をしている。なぜこんな安い美容院に来たのだろう。

わたしは、怖くなってきた。

とうとう、この美容院で、客がブチ切れるところが見れるのではないか!

そんなワクワクもあったが、わたしには恐怖のほうがはるかにまさった。

わたしは、心の中で祈った。せめて、わたしの担当が白田さんになりますように。

それは、白田さんにカットして欲しいからではない。

もし、わたしの担当が白田さんだとしたら、この貴婦人の担当は鈴木さんになる。鈴木さんのほうがまだマシだからだ。

ハリセンで叩かれたら、ブチ切れる可能性はある。しかし、まだ年配の鈴木さんが、陽気に話しかけてからの、バチーン、なので、キャラクターとしてはあり得る。

貴婦人が我慢する可能性が少しは上がる。

もし、わたしの担当が鈴木さんだとしたら、恐ろしいことになる。

そんな想像をしていたら、今日の担当者がわたしの後ろに現れた。

「今日は、どのような髪型にしまくりボンバーですか?」

ヤバイ。

ぶっきらぼうの白田さんが、1時間後には、あの貴婦人の頭をハリセンでどつくことが確定したのである。


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