プチ虐待のススメ

27【さかなDVD】

さて、ルービックの次に組んだコンビが、さかなDVDである。

ジャングルジム、ルービック、ときて、さかなDVD。

なんじゃそりゃという名前だが、順を追って話そう。

相方の花岡との出会いは、明確には、いつだったのか覚えていないが、覚えている限りでは、キタイ花んというイベントである。

可愛らしい奴だった。人懐っこく、なんでもつっこんでくれ、楽しそうに笑う。

【ルービック】の章で花岡がケチだと散々書いたが、花岡のケチレベルは常識的によくいるレベルである。

自分をコーディネートするということは、芸人にとって、いや表現者にとって、必要なことである。最初のイメージだが、花岡は、とにかく人懐っこかった。

バイト先でいたら、休憩時間に喋って楽しいやろな、って奴を想像してほしい。

それが花岡である。普通の気のいいよく笑う兄ちゃんを想像してもらえたらいい。

そして、その想像のまま、そいつの服を一旦、全部脱がせてもらって、オノヨーコが着るような服を着せれば花岡である。

芸歴で言うと、僕のほうが一つ先輩になる。

さて、僕とその花岡は、いきなり組んだわけでは当然なかった。

お互いが、別のコンビを組んでいた。

こっちが前述した、ルービック、向こうがあばれざるというコンビだった。ルービックは僕がネタを書いていて僕がボケていた。

あばれざるは、花岡がネタを書いていて、花岡がツッコミをやっていた。

お笑いをあまり知らない方はえっと思うかもしれないが、ボケ担当の人がネタを書くなどという決まりは特にないので、ツッコミがネタを書くというのは、たまにあるパターンである。

あばれざるがネタをやってるのを数回観てたが、特に面白いとは思わなかった。なんなら、一番嫌いなタイプのネタのやり方をしてるなあ、って感じだった。

向こうはどうだったかを全然知らないが、こっちが一個先輩なので、「いやいや、ルービックさんはおもろいですよぉ」ぐらいのことを言ってたような気もする。

腹の中は、分からないけど。

そんな感じで、別におもろいと思ってなかったが、感じていたのは、強烈な“華”である。

なんせ、名前が、花岡翔である。

このホストみたいな名前が、芸名ではなく、親からもらった本名なのだからすごい。

城咲仁
花岡翔
城咲仁
花岡翔
城咲仁
花岡翔

交互に並べてみたが、まったく当たり負けしていない。

名前から華があり自己肯定感も強い。

僕はネチネチしてるし、自己肯定感が低く、基本的に卑屈である。

真逆の人間という感じだった。

さて、面白いとは思ってなかった花岡と、なぜ組むことになったのか、である。

恋愛と同じようなところがあって、お互いが離婚したからである。

あ、離婚ではなく、解散ですね。ルービック、あばれざるは共に解散し、僕はひとりで、オールバックお兄さんという間抜けな芸名で髪型をオールバックにして、オールバック漫談をしていた。

花岡は、一人で、何をしてたのか、よく記憶にない。

その当時、僕はピンでやるつもりがなく、やはりコンビでやろうと思っていたので、オールバックお兄さんは、つなぎに過ぎなかった。

当たり前みたいにオールバックお兄さんって言うてるけど、それ、なんやねんとお思いの読者のみなさん、安心してほしい。

もう出てこないから。

さて、一人になった者同士で、僕から花岡を軽く誘った。

「一回だけ遊びで組もうや」

これは、よくある誘い方で、お互いに保険をかけたいのである。いきなり「俺と組もう」と言ってしまったら、やってみて合わなかった時に、やめにくい。

僕は、その当時の戦略としては、花岡と組む気はサラサラなかった。

相方候補が何人かいて、同期でツッコミがうまいとある芸人もそのひとりだった。

読者のみなさんが今では誰もが知ってるであろう芸人である。僕とそいつはお互いの実力を認めあっており、こいつが本命だった。

なぜなら、この同期の芸人も、自分のコンビの解散直後だったからだ。

だから、花岡を誘った時も、本命はこいつじゃないけど、色々やって、勉強しよう、ぐらいだった。

なぜ、本命にすぐに声をかけなかったのか、みなさん分かりますか?

恋愛や結婚と同じと思ってほしい。離婚した後、すぐに再婚してたら、どう思うか。

あ、こいつ、前々からツバつけてやがったんだ、と思われる。

僕の場合、そういう事実は全くなかったんだが、前から熱弁している通り、潔癖である。そんな風に思われたくないから、誘うの、もうちょい後にしよう、なんて思っていたら、向こうがコンビを組んじゃったのだ。

彼は、そのコンビでそのまま、数年後、売れていった。

僕がそいつと組んでいてもダメだったとは思うが。

とりあえず、花岡と一度だけのつもりで立った舞台でなぜか優勝してしまい、優勝特典として与えられた次の舞台への出演権みたいなもののおかげで、一度のつもりが、二度になってしまい、そこから、僕らのコンビは、いつの間にが正式に組むことになった。

あ、そうだった。

コンビ名の由来。

なんか、名前がないとあかんな、ってなった時に、花岡が僕に聞いた。

「中西さんは、何が好き?」

「えー、なんやそれ。うーん。あ、そう言えば、最近AVがVHSからDVDにどんどんなっていってるから、とうとうDVDのデッキを買ったわ。だから、AVばっかり観てる」

「ふーん、そうなんや」

「お前は?」

「僕は、魚が好きやから、水槽で熱帯魚飼ってる。
よし、じゃあ、さかなDVDで出ましょか」

みたいな形で向こうが決めた。


いいなと思ったら応援しよう!