【添削24本目 落語台本】
さて、今回は落語台本だそうです。
さっそくBEFOREを読んでもらいましょう。
創作落語【左手一揆】
右利きと左利きに分断された世界のお話です
左部下:左将軍!左将軍!
左将軍:どうした?何事だ!
左部下:右将軍率いる右利き軍が、こちらの領地に向かっているとの報告がありました!
左将軍:なんだと!右利き軍め!我々左利きを滅ぼす気か?
左部下:右利き軍と左利き軍の戦力差は、9:1です。こちらが圧倒的に不利です
左将軍:わかっておる!右利きが優先される世の中。わしらは、いつも肩身の狭い思いをしてきた。電車の改札機も右、自動販売機の投入口も右、パソコンのマウスも右、パチンコも右
左部下:たしかに右ばっかりです
左将軍:それだけじゃない。ディズニーランドも日本の右にあるし、お酒飲んだときにお世話になってる肝臓も右にあるし、自由の女神がトーチを持ってるのも右
左部下:そのへんは右も左も関係ないと思いますけどね。私達は生まれた瞬間から、少数民族扱い、マイノリティーで、ずっと追いやられてきました
左将軍:こちらが声をあげないことを良いことに、奴らは好き放題している。まだ平和だった若い頃、毎日朝から晩まで右利きのやつらに片っ端から質問したことがある。「左利きのことをどこまで考えてますか?」と、誰一人考えてなかった!
左部下:将軍、暇ですね
左将軍:もう我慢の限界だ。これ以上攻めてくるのであれば、こちらも戦うしかない!
左部下:戦いましょう!え?なんだって!大変です!右利き軍が、右手にある山から、右回りで、右斜め45度の角度で、全軍やや右に傾きながら、攻撃を開始したとの報告がありました!
左将軍:なにぃ!もう一回言うて、入ってこうへんかった
左部下:もう言えないです。噛まずに言えたのが奇跡です。戦うしかありません!数では不利ですが、我々には、特殊な能力が備わっています。それは、「発想力」です。普段から左手を使うことにより、右脳が発達しています。「発想力」さえあれば、右利き軍を倒せます!
左将軍:おお!良いことに気がついたな!ナイス「発想力」。「発想力」を使おう!よし、正面から全軍突撃だ!
左部下:発想力ゼロ!
右部下:右将軍!こちらの読み通りです。少し揺さぶりをかけたら、左のやつら反撃してきました
右将軍:フォッフォッフォッ。まだ若いのぉ。数では圧倒的にこちらが有利。今日こそやつらを滅ぼすぞ
右部下:しかし、右将軍。左利き軍のやつらには、「発想力」があります。注意せねばなりません!
右将軍:目を覚ませ!それはウソじゃ!まだ平和だった若い頃、毎日朝から晩まで片っ端から左利きに会って、「発想力」を持ってるかどうかをテストした。誰も持ってなかった
右部下:将軍、暇ですね
左将軍:左利きは天才だ!と書いてある本もあるが、そんなことはない。右も左も関係ない。みんな五十歩百歩じゃ
右部下:そうなんですか?でも、ピカソ、モーツアルト、レオナルド・ダ・ヴィンチ、ビル・ゲイツのような天才は、みんな左利きですよ
右将軍:左利きだから天才なんじゃない!その人が左利きがたまたま天才だっただけじゃ!恐れる必要はない。こちらも正面から全軍突撃じゃ!
左部下:よし、左利き用ハサミ、左利き用急須を持った部隊を前面に押し出せ。上空から、左利き用扇子部隊を投下し、相手を吹きとばせ!後方からは、左利き用グローブを装着した左投げ投手からボールを投げさせろ!
右部下:右将軍。やつら、いつのまにか、いろいろな左利きグッズを開発していたようです!
右将軍:落ち着け。こちらは、右利き用ボーリング玉15ポンド100発を右利きプロボウラーから投げさせろ!ストレートではなく、右カーブで投げて応戦しろ!最後にクイッと曲げるんだ
左部下:左将軍!やはり、数で押されつつあります。あ!正面から大量のボーリングの玉がこちらに転がってきました!このままでは全滅してしまいます。もうダメだー。あれ?直前に曲がっていきました。セーフ。あ!また次の玉が来ます!
左将軍:うーむ。こうなったら、奥の「手」を使うしかない
左部下:奥の手?それは、右、左、どっちが利き手ですか?
左将軍:ないよ!右とか左は。慣用句やから。この前な、ある謎の男がやってきて、この戦いに勝ちたかったら、今から言うことを実行しろと言ってきたんだ
左部下:怪しいですよ。そんなどこの馬の骨かも分からないやつの言うことはなんか聞いて大丈夫なんですか?
左将軍:仕方ないだろ!もう他に打つ「手」はないんだから
左部下:打つ手。その手は右、左、どっちが利き手ですか?
左将軍:なんでそこ気になんの?利き手とかないから。拡声器を貸してくれ!「あーあー、右利き軍に告ぐ。生まれつき左利きだったが、矯正されて右利きになった者たちよ、聞け!」
右部下:なんだなんだ?敵の将軍が何か言ってきているぞ!
左将軍:「君たちは被害者だ。左利きで生まれたにも関わらず、強引に矯正された。ずっと左利きのままだったら、右脳が発達し、天才的な発想力をもち、今頃豊かな人生を送っていたかもしれない」
右部下2:たしかに。僕は、今は右利き軍にいるが、生まれは左利きだった。パッとしない平凡な人生を送っている。もし左利きのままだったら、人生で成功していたかもしれない!
右部下:おい!何を言ってるんだ!惑わされるな
左将軍:「今からでも遅くない。左利きに戻れば、右も左も器用に使える、両利きになれる。右脳と左脳の両方が発達すれば、最強の戦士になれる!君たちを待っている!
右部下2:僕は左利き軍に行って人生をやり直したい!
右部下:おい!目を覚ませ!お前は今は完全な右利きやろ?!
右部下2:いや、実は、黙ってたけど、矯正されてないところは、左を使ってるねん
右部下:え?!書くのは?
右部下2:右
右部下:お箸は?
右部下2:右
右部下:歯ブラシは?
右部下2:右
右部下:じゃあ何が、左?
右部下2:えー、鼻をほじる。おしりを拭く
右部下:左汚いなぁ!左でこれから触ってこんといてな
右部下2:ごめん、左利き軍に寝返えるわ〜
俺も私も!と隠れ左利きが、右利き軍から左利き軍へと寝返りました
左部下:左将軍すごいです!寝返った人たちが、両利きとなって、2つの手ですから、我々の倍の力で戦ってくれています!
左将軍:よし、この勢いで右利き軍をやっつけろ!いけー
右部下:くそー。左利きと両利きが相手なんて聞いてないぜ。ここはいったん引け。撤退だ
今から見台の上で戦いを表現したいと思います(左手と右手を見台の上で自由に戦わせる)
左部下:いけいけ〜
右部下:まだ、こちらの数の方が多い。負けるな〜
左部下:くそー。やはり、まだ右利き軍のほうが数が多いか。このままでは負けてしまう。あ!こんなところに武器が。左利き用のマシンガン。よし、打て〜。ダダダダダダダダ
右部下:うわ〜。助けてくれー。逃げろ〜。あ!こんなところに右利き用のロケットランチャー!いけ〜。ヒュ〜〜〜ン、ボーーーン!
左部下:うわ〜。大丈夫か?しっかりしろ!
武器屋:(扇子で自分の顔を隠しながら)いいぞいいぞ、狙いどおりだ。もっと戦いが長引け。戦いが長引けば長引くほど激しくなり、こちらの作る武器が売れて金になる。左利きと右利きの力が拮抗すればするほどな。ハッハッハ、愚か者ども。もっと戦え!
右部下:おかしいぞ?こんな危ない武器がいつのまに。お互い甚大な被害が出ている。おい!そこの左利き、話をきけ!おかしいと思わないか?
左部下:何がだ?
右部下:今使っている武器だよ。いつの間にこんな危ない武器が
左部下:たしかにおかしい。普段は、左利き用定規や、左利き用ギターで平和に戦っていたのに。平和に戦うっておかしいけど。いつのまにこんな危ない武器を使っていたなんて
右部下:誰かが、この戦いを仕組んで、この武器で金儲けをしようとしているのではないか?
左部下:ということは武器会社か
左右共:あ!こいつが怪しい!ボーっと座布団に座って、こんな訳わからんこと言うてるなんて怪しすぎる。お前の仕業だろ!
武器屋:(扇子を顔から取って)ハッハッハ。バレたらしょうがない。愚か者どもよ。このまま何も知らずに戦っていれば良かったものを
左右共:こいつが悪の根源だ!よし、一緒にやっつけよう!
左部下:ます、左半身だ!(左手で左半身を攻撃)
右部下:右半身は任せろ!(右手で右半身を攻撃)
左右共:同時にいくぞ!(両手で顔を攻撃)
武器屋:うわぁ〜
メッセージ性のある話でしょう?今の時代にピッタリの
左部下:今まで悪かったな
右部下:こちらこそ悪かった。争いは何も生まない。少数の意見も大事にしないとダメだと分かった。右利き中心で世の中回ってるという考えが間違っていた。右中(みぎちゅう)を改めるわ
左部下:自己中みたいに言うてる。我々も、どちらが優れているとかでなく、お互いが共存できる道を模索していこうと思う
左右共:仲直りしよう。握手。あれ、うまくいかないな
左部下:おい!握手は同じ手同士じゃないと、うまくできないんやから左手を出せよ
右部下:いやいや、そっちが出せよ!
左部下:そっちが出せよ!
右部下:譲れって!
左部下:そっちが譲れよ!
左右共:うゎ〜(両手でケンカして、そのまま頭を下げたら終わり)
というわけで、元の台本を呼んでいただきました。
さて、この台本、普通にいいと思います。
珍しく褒めます。
最後のオチ、握手しようとしてるのに分かり合えない、みたいなところも、オチとして、秀逸です。
特に悪いところないと思いますね。
afterを書きにくいですね。よく出来てる台本なので。
まあ、印象として、もうちょい、何かあると、と思わなくもないですが、それが自分の中で漠然としてます。
それぐらい、いい台本なんですね。この方、実はリピーターで、なんどか添削させてもらってるんですが、今回が一番良いですね。
ダントツで。
この方の他の作品は辛口な文章で添削を載せてますが。
急成長?
あるいは、落語台本がこの方に、あってるのでしょうか。
うーん。困りましたね。
左利き軍が、数では負けてるけど、“発想”で勝負する、というくだりも、ただの左右の対称性だけではないので、台本全体に深みを与えています。
あ、一個だけ、これはないほうがいいという文言がありました。
「将軍、暇ですね」の文言です。
ちょっとの笑いの欲しさに、全体を台無しにしてます。この世界では、右利きか左利きか、ということが、とても重要なわけでしょ?
データを取るのは大切なことでしょうに。
まだしも、キャラクターとして、「右利きか左利きかで、そこまで差はないやん、なにこの世界?」とつっこめるような、隣の国から来たやつ(ツッコミ役になってもらうわけですね)を登場させて、そいつにつっこませてるとかなら、わかります。
家臣がその設定にツッコミ入れちゃダメです。
まだ最後のほうにどんでん返し的に突っ込んでるなら、わかるけど。
“まだ平和だった若い頃”という言葉があるから、よし、な気もしなくもないけど。
それも唐突な感じがしちゃいました。
あと、テストの仕方が、雑です。具体的に、どんなテストしたのか、何も書いてないし笑笑。
左利きのこと、考えてくれてますって聞いただけとか、発想力持ってるか、見てたけど、いなかった、とか。
いや、どんなテストしたんや笑笑。
基本的にはよくできた台本です。
お客さんに合わせて、自分の右手を“左利き軍”と、あべこべにやってるのも、なんだか不思議で面白いですね。
そこに触れないでやってるのも、また良いようにも思います。
触れたら触れたで、それも良し、ですかね。
良い台本ですねぇ。
細かいアレンジしか、することがなくなってきました。
まあ、あえて言えば、ちょこちょこ気になるところはあるんですけどね。
思想の左、右と、リンクさせることもできるのに、一切出てこないところ、とかね。
なぜ、平和だったのに、そうなったのか、は全く描かれてないし。(ただ、それはそれでアリです)
他の差別については描かれてない。(まあ、これも、絶対ダメってわけじゃない)
足と手で利きが逆の人とかもおるから、それも描けたら、とかね。
ただ、キリがないから“絞ってる”とも言えるので、このあたりは、明確に落ち度ってわけでもない。
“僕が落語家として、この台本を演じるとしたら”という視点で、ちょっと書いてみようと思います。
この方の元の台本が良いので、今回はAFTERというよりは、“プランB”、とか“微調整のもうひとつのパターン”ぐらいの感覚でお読みいただければ、と思います。
さて、ここからはAFTERのネタを観ていただきます。有料にはなりますが、記事を買うか、全体のマガジンを、買っていただければ、読めます。
もっともっと添削の内容を知りたい方には、【個別の記事を購入するよりも、全体のマガジンを、ご購入していただいた方が絶対にお得】です。
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