3人劇『想い』
このシナリオは男性:2女性:1です。
この劇をする際は男性歌い手の方とやるか、男性歌い手をご用意するのを推奨致します。
想い
望月 慶子
望月 鷹
父
父「こら、お前ら!仲良くしろ」
慶子(N)父によく言われた言葉…私達は何かにつけてよく言い合いをしていた。
父「男だから全部我慢しろ、とは言わんけど…なるべくなら慶子を思ってやれよ」
鷹(N)親父の言葉があったから俺達は家族でいられてる…あの時以外は……
慶子「鷹!洗濯物脱ぎっぱなしにしないで!」
鷹「ごめんって!次からは気をつけるよ」
慶子「そんなこと言って、ちゃんとした試しが1度もないんだけど?」
鷹「次からはちゃんとするから!ね!」
慶子(N)そんなやり取りが日常だった
少し間を開けて
鷹「姉貴、今度ライブするから見に来てよ!」
慶子「またライブやるの?あんたの歌を聞きに来る人なんて居るの?」
鷹「うーわ、そういう事言うし…その割には毎回来てくれてるじゃん」
慶子「う、うるさいなぁ!誰も来なかったら寂しいだろうから、私だけでも居た方が良いでしょ!」
鷹「ははは、ありがとうね!姉貴のおかげで客ゼロは免れてますよー」
慶子「感謝してるなら、ほら洗い物くらいやりなさいよ」
鷹「ありゃま、やぶ蛇だったか…」
慶子(N)鷹はいい加減でズボラでだらしない1面はあったけど、歌にかける気持ちだけは本物だと、私も父も理解していた。
それは母が関係していた…
鷹(N)母は歌が大好きだった…洗濯していても、掃除をしていても、料理をしていても何かしらの歌を歌っていた。
そんな母を見ていた俺達も必然的に歌を好きになっていた。
母が歌い、俺達が歌い、その光景を父が見て笑っていてくれてた。
慶子(N)でも、その母も3年前に病気で死んでしまった。
その日から父も、私も笑わなくなった…そんな時だった…鷹が家事をする時は必ず歌うようになった。
彼なりの励ましと自分を奮い立たせる意味もあるのだと思った。
少し間を開けて
鷹「今日も来てくれてありがとうな、姉貴!」
慶子「はいはい、今日も客ゼロじゃなくて良かったね」
鷹「お陰様でね」
慶子「今日、お父さんも見てたのよ?
……ほら、あそこ、隅にいる」
鷹「え……あ、ほんとじゃん!
……親父、見るならもっとステージ前に来ないとダメじゃん!」
父「バカやろ、こんなじじぃが前で聞いてたら目立つだろ…いいんだよ、俺は後ろで……それより、最後の曲…」
鷹「あぁ…母さんが好きだった歌…ライブでは必ず最後にあの歌を歌うんだよ」
父「そうか……どうだ、久しぶりにみんなで飯でも食べて帰るか?」
慶子「え?珍しいじゃん、いつもは外食なんてしなくて良い!とか言ってるのに」
鷹「姉貴、それ言ったら外食出来なくなるから…じゃあメンバーに話して来るから車よろしく!」
父「わかった、10分くらいで車付けるから出てこいよ?」
慶子(N)その言葉が父の最後の言葉だった。
車を取りに行く最中、歩きスマホで前を見ていなかった人とぶつかり、弾みで車道に飛ばされた所に車で跳ねられた。
鷹(N)何分待っても来ない父、繋がらない電話…探しに回った時に見たのは救急車に担架で運ばれる父の姿だった。
病院に搬送されたが、打ちどころが悪かったらしく、父は…そのまま目覚める事はなかった。
慶子「…はい……はい、いえありがとうございます…父も喜ぶと思います……はい、失礼します」
鷹(N)葬儀を終え、俺達は心に穴が空いたように、互いに会話もしなくなっていた。
俺は段々と家に帰らないで外で過ごす時間が多くなっていった
慶子(N)鷹がほとんど家に帰らなくなって1ヶ月が経とうとしていた。
四十九日…鷹にその事をLINEしても返事は無かった。
Xでバンドのアカウントを見てもライブのポスト、日常的なポストも書かれてはなかった。
返事のない事に不安と恐れを抱きながら過ごしていると、四十九日の2日前、鷹はようやく帰ってきた…げっそりと憔悴した姿で…
慶子「おかえり…随分とげっそりしてるじゃない……大丈夫なの?ご飯食べてなの?そんなんで歌なんか歌えるの?」
鷹「歌は……やめた」
慶子「え?」
鷹「だから、歌は…やめた」
鷹「もう歌えねぇよ…励ます親父もいなくなっちまった…歌う意味がもう無いから」
慶子「なによそれ…ふざけないでよ……」
鷹「え?」
慶子「励ます人が居ないって…じゃあ私は?」
鷹「……」
慶子「あんたの歌で、お父さんは笑えたのよ!私も!……なのに励ます人がいないなんて言わないでよ!」
鷹「俺のせいなんだ!
俺が外食の誘いに乗って親父に車を取りに行かせたから…あの時、みんなで行けば……だから親父が死んだのは俺のせいなんだよ!」
慶子「ざけんなよ!それを言い出したら私もそうだろ!最後までライブハウスにいるように言えば死ななかったかもしれない!」
鷹「それでも車を取りいかせたのは俺なんだよ……俺が親父を殺したんだ…」
慶子「……歌えよ…ライブの時最後に歌っていた曲」
鷹「歌えねぇって」
慶子「歌え!あの曲はお母さんもお父さんも大好きだった曲なんだよ!私も大好きな曲なんだよ!」
鷹「こんな気持ちで、どうやって歌えってんだよ!」
慶子「悲しいなら悲しい、寂しいなら寂しい、謝りたいなら謝ってる感情で歌えよ!お父さんが死んだのは俺のせい?私だって、ずっとそう思ってたんだよ!それでも生きていかなきゃならない…前に進まなきゃならない…励ます人なら鷹の目の前にいるだろ!」
鷹「……ごめん…姉貴、ごめん……姉貴もずっと自分を……」
慶子「ほら、こんな喧嘩してると、お父さんに言われちゃうよ…」
父「こら!お前ら、喧嘩しないで仲良くしろ!」
鷹「…そうだね……でも、今は歌えない」
慶子「まだ分からないの?」
鷹「そうじゃない……ちゃんと歌いたいんだ……四十九日の時に…ちゃんと……送り出したいから」
慶子「……」
鷹「だから、今は歌わない……歌えないじゃなくて、歌わない」
慶子「……はぁ、わかった…良かった、あんたが歌に対しての気持ちを忘れてなくて」
鷹「忘れるわけねぇよ…励まさなきゃならい人もいるしな」
慶子「うん…ありがとう」
鷹(N)四十九日、お坊さんの読経が終わった後、俺は両親が……いや、家族みんなが好きだった歌を歌った。
姉貴に対する励まし、母さんに対する感謝…そして、親父に対してのさよならを込めて…
慶子「母さん、父さん…聞こえてるよね?私達は前を向いて進んでいくから、安心してね」
ここで、歌い手さんがこのシナリオに合う曲をフルで歌って劇終了