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【声劇】ある夫婦の一日

ある夫婦の一日

配役
古和井 龍雄(こわい たつお)
古和井 鏡華(こわい きょうか)

本編
龍雄(N)極道モンには休みがない…は嘘や。ちゃんとなんもせぇへん一日はある。しかし、その日はゆっくり出来ん日だった

鏡華「いつまで寝てるんだい!もう朝だよ!ほら、起きな!」

龍雄「おい、鏡華…今日は久しぶりに何も無い日なんだ…ゆっくり寝かせんかい」

鏡華「あんたの大食らいのせいで食材が無いんだよ!あんたの飯を作らなくて良いって言うなら起きなくても良いけどね」

龍雄「わかったわかった…それは俺が悪いのぉ…朝飯食うたら買い物行くか」

鏡華「材料無いのにどうやって朝ご飯作るって言うんだい」

龍雄「朝飯の分も無いんか、管理どないなっとんねんワレ」

鏡華「管理?してたさ!なのに昨日の夜、あんたが朝ご飯の為に取っておいた卵と常備菜食べたんやろう」

龍雄「あ…それはすまんかった!ほら、朝飯何かご馳走するから堪忍したって!」

鏡華「ふん、マクドかケンタやな」

龍雄(N)鏡華と知り合ったのは組の幹部連中が集まった時だった。

そこに出席していたじいさんの孫を紹介されたのが切っ掛けだ。

向こうは極道者の縁は断れないと知っていて紹介したらしいが…俺は一目惚れだった。

少し間を開けて

鏡華「若い衆が居る中マクドなんか食べれないから久しぶり過ぎて涙出そうやわ」

龍雄「なんや、そんなに食べたかったんならワシに教えてくれれば毎日でも買うて来たるのに」

鏡華「あんた、私を豚にしたいんか?」

龍雄「たとえやたとえ!遠慮なく言いってことや」

鏡華「どうだか…ほら、食べ終えたし買い物行くよ!」

少し間を開けて

鏡華「な、なんやて!キャベツひと玉99円!?」

龍雄「鏡華、和牛の厚切りステーキ肉があるで」

鏡華「却下……ナスも!きゅうりも99円…肥料に混ぜもんでもしてるんじゃないよね」

龍雄「鏡華、マグロの大トロの柵があるで!」

鏡華「却下や!」

龍雄「おう、なんでワシの言うものは却下なんや!」

鏡華「そんな高級食材なんかいらん」

龍雄「高級食材ってほどやないやろ…肉も魚も6500円くらいや」

鏡華「あんたなぁ…1食に6500円なんて掛けられるわけないやろが……あ、このブラジル産鶏もも肉買お」

龍雄「なんや、したら鏡華は毎月いくらで食材賄っとんねん?」

鏡華「2万8千円や」

龍雄「28万ちゃうくて?」

鏡華「そんな金、どこにあんねん?」

龍雄「……お、おう」

鏡華「さあ、次はドラックストア行くよ!」

龍雄「何買うねん?」

鏡華「トイレットペーパーと食器用洗剤」

龍雄「んなもんここで買えばえーやろが!」

鏡華「あんた舐めとんのか?ここで買うのと、ドラックストアで買うの、いくら差があると思ってんねん」

龍雄「お、おう…すまんかった」

少し間を開けて

龍雄「スーパー、ドラッグストア、100均、商店街の魚屋……なぁ!もうえーやろ!」

鏡華「これだけ回ったのには理由があんねん…くじ引きや」

龍雄「く、くじ引き…やと?そんな大勝負あったんかいな」

鏡華「あぁ、そうや…2回分……あんた気合い入れなアカンよ!」

龍雄「任したらんかい!狙うは1等の温泉旅行2泊3日やな!」

鏡華「はぁ?あんた寝言は寝てから言いや!2等のお米50キロに決まっとるやないか!」

龍雄「お、おう…すまんかった」

鏡華「私が鉄砲になる!トドメは任せたよ!」

龍雄「かましたらぁ!」

少し間を開けて

鏡華「たわし…」

龍雄「イカサマしとったんちゃうか!ワシが今から詰めて来たるわ!」

鏡華「やめな!くじ引きしてたのは商店街牛耳ってる、ろみ姐さんの旦那なんだ!抗争持ち込みたいんか!」

龍雄「牛耳ってる…商店街を……恐ろしい女や…」

鏡華「そんなんにチャカ向けてみい、うちらなんてあっという間に爪弾きにされるよ」

龍雄「よっしゃ、気分変えて今日の夕飯はワシがご馳走したる!」

鏡華「ほんとかい!?」

龍雄「あぁ!鏡華の好きなもん食わせたる!」

鏡華「じゃあ寿司だね」

龍雄「事務所行って金とってきたら行くか!」

鏡華「……あんた事務所の金使うつもり?」

龍雄「ワシの事務所の金やからな!」

鏡華「…はぁ、もうええわ帰って作るわ」

龍雄「え?寿司はええんか?」

少し間を開けて

鏡華「はぁ…散々飯食べて酒かっくらって寝てしまったのかい」

龍雄 いびきかいて

鏡華「気持ちよさそうにいびきかいて…くじ引きも、たわしだったし…まったく、なーにがお前への愛をこめて回す、や…チョコレートやないかい…」

鏡華(N)今日一日の出来事を思い出す。

困った犬のような顔、マクド食べて笑顔になった顔、スーパーで怒られてしゅんとしてる顔、普段は怖い顔しか見てないから表情の変化は楽しかった。

鏡華「まったく…困った人だよ……ん、美味し……あんたの愛、甘くて美味しいよ」

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