2人声劇『貴方は私のアイドル』
注意事項
こちらのシナリオをやる際は歌い手さんをご用意して頂くか、演者様が歌うのを推奨しています。
歌わない場合の指示も書いてありますが、歌入りの方が、より没入し易いかと思います。
貴女は私のアイドル
配役
AYU
望月雫
AYU「今日はAYUの為にありがとうー!みんな楽しんでるー?」
AYU(N)私がアイドルとして活躍して1年…最初はレッスンが厳しくて辞めようとも思った。
でも私には頑張らなきゃならない理由があった。
妹の雫は小さい頃からアイドルが好きだった。
舞台で踊りながら歌い、笑顔を振りまき、みんなに夢を与える…
その妹は3年前に病気で死んでしまった。
あの子の最後の言葉は今でも耳から離れない。
『私の代わりにアイドルになってみんなを幸せにして』
雫「今日のAYUちゃんのLIVE、良かったなぁ…可愛いなぁ…」
雫(N)高校の頃私はいじめを受けていた。
地味な姿で勉強もそれなりに出来たこと、引っ込み思案で誰とも友達を作れなかった事、母は幼い頃に離婚して父の手で育てられてる事、それが理由だったのではないかと今では思う。
もっと自分を変えたい、周りに溶け込めるような人間になりたい、そんな事を思っていた時にアイドルのAYUに出会った。
彼女の歌声、笑顔、ダンスに私は魅了された。
私も変わりたい…そう思っても、でも私なんか、でも私がやっても、その言葉で諦める……いつしかAYUちゃんを遠くから眺めるだけになっていた。
………昨日までは…
AYU「お疲れ様でしたー!明日もよろしくお願いしまーす!
……はぁ、今日も疲れた…LIVEは楽しいんだけど、その後のお偉いさんへの対応、セクハラまがいの事をするプロデューサーの吉田…ほんと疲れがどっと出る…あ、喫煙所…この姿ならバレないしタバコ吸おう」
雫「AYUちゃんは毎日厳しいレッスンとかしてるのかなぁ…歌とかダンスとか…大変な思いしてるのかな…それなのに私は…はぁ……タバコ吸おう」
雫(N)喫煙所に入ると1人の女性が入っていた…私は軽く会釈をしてタバコに火をつけた
AYU(N)タバコを吸っていたら1人の女性が入ってきた…その人を見た瞬間に私は目を疑った……タバコがポトリと床に落ちる。
目の前の女性が私の妹、雫に瓜二つだから。
AYU「し…ずく?雫!」
雫「え?……あの、何処かでお会いしましたか?」
雫(N)私に話しかけた瞬間に女性の帽子がズレて顔が見える…そこに居たのはAYUちゃんだった
AYU(N)その声を聞いた時、声が違うとわかりハッとなる。
AYU「あ、あのごめんなさい!私の妹にそっくりだったので……ほんと、ごめんなさ……あの?」
雫「AYUちゃん……嘘、私の目の前に…え?」
AYU(N)私はハッとなり帽子を被り直す。
目の前の女性は私を見たまま立ち尽くしていた。
AYU「あ、あの!私がここに居たのは誰にも…」
雫「…はっ!言わないですよ!大丈夫です。
でも…雫って?」
AYU「……」
雫「あ、言いたくないなら無理に話さなくて良いですよ!失礼な質問してごめんなさい」
AYU「……私の妹なの…3年前に死んじゃったんだけど…」
雫「それは、失礼しました」
AYU「ううん、大丈夫…名前、ほんとに雫、なの?」
雫「はい、望月雫と言います」
AYU「そっか…じゃあ、もっちゃんだ笑」
雫「も、もっちゃ……」
AYU「ねえ、もう少し話さない?近くに良い店、あるんだー」
雫(N)AYUちゃんは手でおちょこを作り飲む仕草をする。
そして半ば強引に私を居酒屋に連れていった。
お酒の入ったAYUちゃんは普段の愚痴を私に話してくれた。
AYU「ほんと、歌レッスンのタカヤって奴がさぁ……プロデューサーの吉田が毎回セクハラしてきて……」
雫(N)AYUちゃんの話を聞いて、私も次第に愚痴を言うようになっていった。
雫「ほんと!男ってなんでいやらしい目でしか見ないんだろうね!」
AYU「ねぇ!あたし達をタダで触れると思うなよって感じだよね笑」
AYU(N)私の周りにいる友達は、アイドルとして売れだすと疎遠になった…自分勝手にアイドルとは釣り合わない、身分が違うと思い込んで…でも雫は私をアイドルと分かっても普通の友達のように接してくれた。他愛もない話をして笑い合い、一緒に愚痴を共有し、一緒にタバコを吸って……それが嬉しかった。
雫(N)私は勘違いをしていた。
AYUちゃんは色々と大変だけど、華やかな世界に居て、私なんか到底釣り合わない女性なんだと…でも喫煙所で会って、一緒にお酒を飲んで、愚痴や笑い話をしてると、アイドルでも普通の女性なんだって…何故か、すごくほっとした。
AYU「ねぇ、もっちゃん!LINE交換しない?あと、電話番号も!」
雫「え、えぇ!?いいの?」
AYU「もちろんだよ!そんなにしょっちゅうは会えないけど、また飲みに行ったり、2人で話そうよ!」
雫「うん!」
AYU(N)雫とLINE交換してからは、時々お茶したり、通話したり、お酒飲んだりする仲になっていった。
彼女と話すのは楽しかった。
笑い話、愚痴、相談…色々な話をした。
その中で私は1つ、気になる事があった。
AYU「ねぇ、もっちゃん?」
雫「なーに?」
AYU「もっちゃんはどうして直ぐに私なんか、とか、きっと私じゃ…とか言うの?」
雫「っ!それは……」
AYU「あ、ごめん…別に責めてるわけじゃないの。ただ、私を見て変わりたいって思ってくれてるのに、言葉がチグハグだったから、気になって…」
雫「私ね、高校の頃いじめられてたの…変わりたいとは思うの…変われたら良いなって……でも、その頃の事がフラッシュバックして…後ろ向きになっちゃうの」
AYU「そうなんだ…いじめられてたのは辛いね……」
雫(N)後ろ向きな私を指摘してきた…嫌われた…そう思った。
雫「ごめんね」
AYU「全然だよ、なんで謝るの笑
ねえ、もっちゃんは明後日暇?」
雫「え…明後日?うん、予定は何も無いけど…」
AYU「じゃあ、後で住所とサイト送るから、そこに来てよ」
雫「どこ?」
AYU「それは、来た時の、お・た・の・し・み」
雫(N)通話が終わって少ししてからAYUちゃんから送られたサイトを見た。
ダンススタジオだった。
何故AYUちゃんは私をダンススタジオなんかに?
AYU(N)彼女が来るか分からない…変わりたいと、今でも思っているかも分からない…でも私と一緒になら変われるんじゃないか?その思いでダンススタジオに呼んだ。
雫「あ、ここだ…ダンススタジオ『バリアツィオーネ』どういう意味だろ?AYUちゃんにLINEしなきゃ……ダンススタジオに着いたよ…」
【少し間を開けて】
AYU「もっちゃん、来てくれてありがとう!」
雫「ううん、でもダンススタジオって…私、踊れないよ?」
AYU「いいのいいの!着替えとか持ってきた?」
雫「うん、一応トレーニングウェアとかスニーカーとか持って来たよ」
AYU「OK!じゃあ、行こ!」
【少し間を開けて】
AYU「よし、じゃあやろっか!」
雫「やろっかって…何を?」
AYU「もちろん、ダンスだよ!」
雫「いやいや、私がダンスなん…」
AYU「(被せるように)はいはい、今日はその言葉禁止!」
雫「え?」
AYU「私なんか、私がやってもって言葉は使っちゃダメ!いい?」
雫「……うん」
AYU「じゃあ先ずは体解さないとね!その後はみっちりダンス教えるからね!」
雫「私なん……お手柔らかにお願いします」
AYU「お、言いとどまったね!さ、やろっか」
AYU(N)少しだけでも雫を変えたい…その思いだけで私は教えた。
基礎姿勢、基礎のステップ…そして笑顔
雫は飲み込みが早く、2時間もしたら基礎は大体出来るようになっていた。
雫(N)私がダンスなんて…そう思っていた。
最初は足がもつれたりリズムに乗れなかったりと散々だった…でもAYUちゃんが根気強く教えてくれたおかげで、段々と踊れるようになっていった。
次第に笑顔が出る…2時間後にはAYUちゃんと踊れる喜びで楽しかった。
AYU「はぁはぁ…ふぅー、もっちゃん凄いじゃん!基礎だけじゃなくて難しいステップも踊れるじゃん!」
雫「はぁはぁはぁ……AYUちゃんの教え方が良かったからだよ……踊ったことの無い私に一生懸命教えてくれて…ごめんね…でも…」
AYU「でも?」
雫「楽しい!AYUちゃんと一緒に踊れてすっごく楽しい!」
AYU「良かった!さあ、もう少し踊ろ!」
AYU(N)数時間踊るうちに雫の顔が変わっていった…最初は私にできるかな、そんなステップ私には無理だよって言いたげな顔だった。
でも踊っていくうちに、難しいステップでも、やってみる、出来ないと悔しい、そう呟くようになっていた。
出来た時の笑顔、一緒に踊ってる時の笑顔には、後ろ向きな雫は、もういなかった。
雫「はぁはぁ……もう無理…!体力ゼロだよー!」
AYU「ずっと踊りっぱなしだったもんねー!私もいい汗かいたよ!1人で練習するより、もっちゃんとやってる方が楽しかった!」
雫「私も楽しかったー!あんなに笑いながら体動かしたのいつぶりだろ」
AYU「ここのダンススタジオでもっちゃんも『バリアツィオーネ』したね笑」
雫「え?」
AYU「バリアツィオーネはイタリア語で『変化』って意味なの。これからも私と一緒に変わって行こう?」
雫「バリアツィオーネ…変化……AYUちゃん、ありがとう…本当にありがとう」
【少し間を開けて】
AYU「ふぅー、練習した後のタバコ美味しいー」
雫「あはは、確かに…ふぅー……」
AYU「一服したし、カロリーもいい感じに消費し・た・か・らぁ…」
雫「ん?」
AYU「飲み行こ!」
雫「行こう!喉乾いたー!」
AYU「ビール、チューハイ、日本酒が私達を待ってる~!」
雫(N)思い返せば、その日からだった…私が徐々に変わっていったのは。
私はAYUちゃんのダンス練習に度々付き合うようになった。
【少し間を開けて】
AYU「もっちゃん、最近明るくなったよねー」
雫「え、そう?」
AYU「うん、言葉も、顔も、来てる洋服も全部ね」
雫「全然意識してなかった…きっとAYUちゃんのおかげだね」
AYU「ううん、もっちゃんが変わりたいと思い続けてくれたからだよ…ありがとう、雫」
雫「もう…そのタイミングでの名前呼びは卑怯だよー…こちらこそありがとう、AYUちゃん」
AYU「歩美」
雫「え?」
AYU「私の名前、歩美だよ」
雫「…歩美」
AYU「なーに?」
雫「ありがとう、歩美」
AYU「うん」
雫(N)次第に私達は友達以上の関係になっていった…
AYU「もっちゃん、今日もダンスやろうよ!」
雫(N)色々な事を共有するうちに…
AYU「ねぇ、ストレス発散に歌いたーい!」
雫(N)互いの気持ちが近づいていく…
AYU「ねぇ、今度うちで宅飲みしない?」
雫「え?いいの?」
AYU「もちろん!料理とか面倒だからUVER頼んで飲も!」
雫(N)あの宅飲みの時だった…はっきりと気持ちを確認できたのは
AYU「いらっしゃーい!」
雫「こんばんは、これ…差し入れ、生ハムとチーズの盛り合わせ」
AYU「うわぁ!ありがとう!今日の為に色々お酒買い込んだんだ~」
雫「あ、少し出すよ!」
AYU「いいよ~、私が誘ったんだし笑
それより飲も!もっちゃんの生ハムとチーズ食べながら」
雫「ありがとう、歩美…」
AYU「うん……さ、乾杯しよ」
少し間を開けて
お互い少し酔った口調で
雫「私ね、感謝してるんだ…ここまで変われたのは歩美のおかげだって…あの時ダンススタジオに誘われてなかったら、ずっと後ろ向きだったと思う」
AYU「私はきっかけを作っただけだよ…変われたのはもっちゃんが努力したから。
私も感謝してるんだよ?」
雫「え?私に?」
AYU「うん、ダンスもストレス発散も愚痴も色々付き合ってくれ…私が今も頑張れてるのはもっちゃんの……ううん、雫のおかげ…本当にありがとう」
雫「私はずっと一緒に歩美と変わっていきたい…今のこの関係性からも……もっと」
AYU「雫……私も…一緒に歩いていきたい…大切で大好きな人だから」
雫「うん…私も、大切で大好き…」
雫(N)その日のそれからは食べて飲んで笑った…一緒にシャワーも浴びた、一緒のベッドで一夜を共にした
【少し間を開けて】
AYU「おはよう…雫」
雫「おはよう…歩美」
AYU「ねぇ、再来週の土曜日空いてる?」
雫「空いてる…と、言うより空けてる」
AYU「え?」
雫「AYUちゃんのLIVEあるから」
AYU「あはは…さすがファンだね」
雫「古参ですから笑」
AYU「自分で古参とか言わないの笑
じゃあ…LIVE待ってるね」
雫「うん」
【少し間を開けて】
AYU「みんな、今日も来てくれてありがとう!
一生懸命歌うからみんな楽しんでねー!
それじゃあ1曲目、行っくよー!」
雫(N)AYUちゃんのLIVEはいつも最高だと思っていた……でも今日のLIVEはいつもと違い、もっと楽しく感じた。
私が変わったから?
そんな事を思いながら最後の曲になった。
AYU「みんなありがとう!次の曲で最後だよー!
えーって言わないでー、私も寂しいのー!
最後の曲はね、私を支えてくれてる、私のアイドルに捧げる歌なの!その人は優しくて、最初は引っ込み思案だったけど今は明るくて、本当に私を支えてくれてる人なの!
あ、でもみんな安心して!男の人じゃないからね笑
AYUはこれからもその人と一緒に楽しく行けると思ってるの。
今から歌う曲はその人に捧げる歌…聞いてください。
「『このシナリオに合う歌い手さんの歌いたい歌の曲名』」(歌えない場合は曲のタイトルのみで)
歌い手さん歌う(歌わない場合は次のセリフに行く)
雫(N)涙が止まらなかった…支えられてるのは私なのに…変われたのはAYUちゃんのおかげなのに…あの喫煙所から全てが始まった。
沢山の思い出が蘇る…嬉し涙共に…
AYU「最後まで聞いてくれてありがとう!
今日も楽しかったよ!
次のLIVEもみんな来てねー!」
少し間を開けて
AYU「雫、今日のLIVEが今の私の気持ちだよ…」
雫「うん、ありがとう…歩美」
AYU「これからもずっと一緒にいようね…」
AYU(N)私には、まだまだ引っ込み思案な部分はあるけど、支えてくれる、私だけのアイドルがいる。
その人となら何があってもアイドルのAYUとして頑張れる。
ありがとう、ずっとずっと一緒だよ雫。