飯で集まるヤツら

20時ごろ


あまりコミュ障なタイプではないと思うし、すぐ人と仲良くなれる方だと思っていたが、そうでもないなと最近気付いた。
私は休学留年したため、現在は一つ下の学年に混ざらせてもらっている。専攻の人数が6人しかいなくて全員女子。みんなよく話し面白く、そしてめっちゃ優しく、自立している。
とても仲良くてノンストレスである。本当にありがたい。
ただ、心を開いているかというと、意外にもそうでもない。そんな自分に我ながら戸惑っている。

私はみんなで初めて行ったプロジェクトが終わり、疲れ果てていたのだが、隣の部屋の奥に見知った顔を見つけて、吸い寄せられるようにそちらへフラりと向かった。

2人は値札を数えていた。
私はその会話を聞きながら、目を閉じた。
違う専攻の先輩たちがやってきて、また向こうで会議していた。
目を開くと、2人は大量の値札シールを指につけて遊んでいた。
Mは鱗のように手のひらにシールを重ねていき、Hは螺旋の形になるように、お花のように指にシールをまとわせていく。
「ファッションショーや」
昨日のファッションショーに触発されて戯言を言う。シールがなくなると、「映えてる映えてる!」と己らの手を写真にパシャパシャ撮り、満足すると、「これ取るのめんどくせえな」と言いながら剝がしていく。
「サイゼ食べて帰ろう」
「遠いねん電車のらなあかんやん。JR沿線じゃないとうちはいかん」
「コメダ?」
「米食べたいねん」
「一杯飲みたい気もする」
「王将は?」
「王将かーんーー王将の気分?」
「違いそうやな」
「うちチャリやねんけど」
「エキナカは全部高いしな、どこも行くとこないわ」
「あれは?前行った駅前の居酒屋、騒がしいけど」
「Hとうち声通らんからM一人でしゃべるかんじになるで」
「私いま風邪ひいてるから声でんねん、うつしたらごめんな」
「声でとるでとる、最悪や」
「昨日のうどん1辛頼んでお腹壊したらしい」
「昨日の夜お腹痛くてほんまに最悪やってんから、トイレで日本の孤独死について考えてたわ」
「1辛て、1辛翌日まで持ち越すなよ」
「でも一杯飲みたいねんなーー」
「やめとけ明日絶対後悔するで」
「やっぱ王将やって、チャーハン食べよや」
「うちは飲まへんで」
「うちも帰らなあかんし一杯だけやな、ウーロン茶頼み」
「うちウーロン茶にお金払いたないねん」
「バーガーキング行く?」
「米食べたいって。まあポテトはいいけど、バーガーキングってポテト太い?」
「太めやった気する、モスみたいなかんじではないけど」
「ありやな」
「バーガーキング行くか」
「「「うし」」」

バーガーキングで意思が統一され、颯爽と部屋をあとにした。
外に出る。風が冷たくて、寒い。私とMが暖をとるためHを挟み、Hが「近い近い」と嫌がる。
Mは「お腹痛すぎてこの体制でしかおれへん」と前傾姿勢でちょぼちょぼと歩いた。
「ほんまに痛いやつやん」
「まだ1辛ひきずってんの?」
「うちが今日4辛一本あげたやつや」
「絶対それ」
立ち上がると思ってたよりお腹が痛かったらしい。あんだけ話し合ったのに、結局バーキンもやめてみんな大人しく解散することにした。


昨日はイベントが途中で中止され、3人でやけくそうどんパーティーを決行した。
電車が運転を見合わせると、Hはのんきに駅を降りてすき屋でがっつり腹ごしらえをしていた。
数年前にしていたモロッコ料理を食べる約束を時たま思い出しては、「モロッコ行かな」と言う。「薄情者おでんと日本酒はよ食べに行こう」「金ねえー」「2件目でモロッコ料理いくか」「うち2件目から参加するわ」「いやおでんのあとモロッコはハードル高い高い、絶対そんなおいしないやろ」「クスクス食べよやクスクス」「クスクスって何か知っとん」「知らん、なんか穀物やろ」「絶対そんなおいしないって」「期待値がどんどん上がってるんよ」「はよ行こはよ」
Hは私がポーランド土産であげたピエロギの靴下を今日も履いていた。
「履いてるやん」「これを履くとどうやっても足元がダサくなるねん」



食への探求心が高いお前らが、おれは好きだぜ
何年経ってもあったけえ鍋つついて笑い合いてえな
そういえば2年前の前日は、あそこの王将で、3人で天津飯食ったな
西日が差し込んで、君たちとメニュー表が金色に、キラキラ輝いてたのをうちは覚えてるよ。窓の外の葉っぱは、薄く色づいていた。

3人見た目も全然違うくて、凸凹トリオみたいな面子だけど、無性にしっくりくる。あの安心感と楽しさ以上の空間や関係性を、これから私は築けるのか、ちょっと不安になる。いや、唯一無二だから、無理だな。また違ったやつらと、こいつらのことをたまに思い出しながら、違った楽しみを増やしていくんだろうな。

まだまだいっぱいごはん、食べに行こうな。





あいつらにとって、最後の学祭が幕を閉じた。

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