平安異空間神宮

古き友人の個展を見に、岡崎へ赴いた。

古き友人というほどではない、大学の友達である。
2年前一緒に制作して、けっこうすごいものを作った。
別にあの頃から特別仲がいいわけでもないのだが、なんとなく戦友みたいな空気があり、すれ違ったら「よっ」という関係である。いや、ただのよっ友ではない。私はリーダーだったし、彼は棟梁だったし、不器用ながら頑張って加工した木が全然はまらず「ゴミほぞやん」と言われたことは忘れまい。

そんな半年がかりでずっと取り組んだプロジェクトも終わり、いつの間にか2年の月日が経っていた。
専攻も違うので、すっかりその「棟梁」と会うことはなくなっていた。
棟梁は棟梁ではなく油絵の学生で、非常に賢く、大阪のダ・ヴィンチみたいな人だ。
蹴上が急すぎる階段を上がり、小さなギャラリーの中に棟梁の作品が並んでいた。
小難しいステートメントを読む。
はぁ、と思いながら作品に対峙すると、棟梁がやりたかったことが、体を通して少しずつ自分に浸透することが分かる。
すごいことだ。
こんな小難しいこと、言葉でもよく分からんのに、それを「作品」として伝えるんだぜ。分かりやすいデザインでもビジュアル表現を通して伝えるって難しいのに、どうやってんだ。
その作品をイメージすることは難しいと思う。彼は油絵専攻だが全く油絵を使っていない。それは絵であるようで絵ではなく、立体で、動いており、平面の人や牛であり、キャンパスを通して、またキャンパスを飛び出して、空間の中で彼が実験していることがよく分かった。



すげー
当時の戦友の一人でもあるHとギャラリーをでた。
「院試近いらしいな」
「余裕らしいで」
「そうなん」
「『俺の上に10人もおるわけない』て言ってたらしい」

せっかく岡崎まで来たので平安神宮の方へ行ってみることにする。
ドコドコという音楽とともに、「フッ!ハァッ!」みたいな掛け声が聞こえてくる。
なんとなく行きづらいなと思いながら通ると、派手な衣装とメイクをした大学生が、ちょうどそのパフォーマンスを終えて退散するところだった。閉会の挨拶をする男性がステージ後ろから現れるとともに、客はぞろぞろと立ち去っている。
「あの人の話もちゃんと聞いたれ」
「2列ー!」とか行って大学生が撤収している。
「2列やって青春やな」「最後に2列したんいつ?」
彼らは韓国の民族衣装っぽい形のテラテラした服を身にまとっていた。「なんやったんや」「よさこい?」「なんで看板ひとつないんや」

公園を抜けると、またむこうからドコドコと音楽が聞こえる。「フェスタ」という文字を見つけなにか食べるもんでもあるんじゃないかとはしゃぐ。
屋台の前に着くと、ちょうどみんな片付けをし始めるところだった。
高台のステージにおっさんが現れ、閉会の挨拶を始める。上の垂れ幕には「Yメンフェスタ」みたいなことが書いてあり、ORANGE RANGEの雰囲気のおっちゃんが、おっさんに野次をとばす。
「なんだこのイベント」「Yメン‥?」「なんの団体なんや」「なんなんやこれは」「もう終わるところやし」

何もすることがなかったので、そのままロームシアターの方へ進む。韓流アイドルのうちわを持った女の子がたくさんいて、床に座ったり写真を撮ったりしていた。
韓国アイドルに精通しているH。「どこのグループや?ちょっと見ていこう。」
明らかに場違いな二人が韓国アイドルファンの合間を縫って歩く。Hは時折彼女らのうちわに目をやるが、「んー知らない界隈か、なんのグループや」と首をかしげた。

ロームシアターを出てみやこめっせが見える道路に着く。

「ま、帰るか」
「こんな混沌とした平安神宮始めてや」
京都育ちのH。
「わからんダンスと分からんフェスタと分からんアイドル。なんか食べれるわけでもないし、全部わからんかったな。」
「なんも分からん。ここはどこなんや。」

Hは大学へ戻り、私は京都府立図書館へ行った。


そんな日。
アデュー

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