「ファー」
大学1年で段ボールで椅子をつくる課題がある
非常勤の先生となった大学の先輩はかつて作ったものがまだ完成していないらしく、「段ボール界のアントニオ・ガウディ」と紹介されていた。
KとMと久しぶりに飲みに行った。てかごはん食べに行った。
帰り、コンビニに寄る。
Kが「ありがとうございます」と商品を受け取ると、店員さんに「ファー」と返されたらしい。
いやまじで「ファー」やったらしい。
コンビニのバイトなんてそんなんでいいんよ。
最近ようやく、プロダクトデザインに興味を持った。
深澤直人の本にいたく感銘を受けた。
四年間、図書館にあるデザイン本を色々読んでいる。思えば昔はデザインシンキングとかおもしろいアイデアの生み出し方とか、そういうのばっかり読んでた。奇抜な、新しいことをして評価してもらいたかった。
でももう長い歴史の中で、日々人類はデザインをしているわけだから、こんな大学生の若造が新しくてすごい発想なんて築くのは、無理だ。不可能といって過言でない。
ただ、私だけにしかわからないような、細部までの美を追求することが、結果的に良いプロダクトを社会に生み出すことになるのだと思う。
授業をサボって、会社説明会をとんで、京大の文化祭へ行った。
マッチョが海パン1枚で体に的をぶら下げ、震えている。
なんの形の拷問なんだと思っていると、「マチョ当て」というマッチョに水風船を当ててお菓子をもらうゲームだった。
400円でやった。マッチョの心臓部分に水風船をべちゃっと当ててしまい、気まずかった。
普段ちっちぇえ大学で暮らしているので、京大の空気が私を疲弊させた。若者ってこんなにいたんだ。そりゃ出会いもあるよ。
呼び込みがけっこうしつこくて、めっちゃしつこいキャッチに捕まり面倒に思っていたら、なぜかそのまま彼は私とKに200円を握らせアイスを奢ってくれた。無料のキャッチて、どういうビジネスやねん。
「僕はただお二人に幸せな気持ちになってほしいだけなんです。お二人がなにかする必要なんてないんです。ね、政治もそうでしょ?」
ひょろい彼の笑顔は屈託がなかったが、歯は黄色かった。
小学校の時から憧れてた先輩に、6年ぶりくらいに会った。
ステージの照明に照らされる先輩は、綺麗だった。
ギターに全てを乗せていた。
先輩は、やっと自分を思いっきり表現する手段を、ここに見つけたんだなと思うと、本当に嬉しかった。
絵じゃなかったんだ。
先輩はアーティストで、天才だった。
なんかしらんけどめっちゃ難しいコンサル一社受けて、その一社に通ったらしい。
来年から社会人らしい。
先輩は絵描いてギター弾いて曲つくって学問に励んで、研究者にでもなればいいんだ。アーティストなんだから。
いつの間にか性格までまともになっちゃったんか。
よかったね。
コンサルだかなんだか知らんが、絶対に、先輩を潰さないでくれ。
私がそんなこと心配するほどもないくらい、いつの間にか先輩は、強くなったんだね。
別に元からそんなしらんけど。
先輩の優しげな瞳を見て、私はかつての美術室を思い出した。