【美術展ニュース】河鍋暁斎やタイガー立石など、ポップな鉄道美術が満載の『鉄道と美術の150年』@東京ステーションギャラリー
今年は新橋・横浜間の鉄道開業から150年が経つということで、あちこちの鉄道関連施設で、記念イベントが開催されていますよね。東京駅にある東京ステーションギャラリーでも、企画展『鉄道と美術の150年』が、2023年1月9日(月・祝)まで開催されています。
同企画展は、1872年の鉄道開業以来、今日に至る鉄道史を、錦絵から近現代美術まで、鉄道をモチーフにした作品とともに振り返るものだとしています。展示作品は「日本全国約40カ所から集めた、『鉄道美術』の名作、話題作、問題作約150件」という、ものすごい数ですね。
■作者のぶっ飛んだ頭の中を垣間見たような宝箱的な絵画
そんな約150件のなかで、個人的に最も“本物が見たい!”と思っているのが、立石 大河亞(タイガー立石)さんの《香春岳対サント・ビクトワール山》です。
パンフレット(↑)で初めてその絵を見た時に、その情報量の多さに脳が処理しきれなくなる感覚を味わいました。どこから絵の世界に入って良いのか、視線はおろおろと左右上下を彷徨い、それから「58654号」と記された蒸気機関車「SL人吉」を見つけ、忍者がいてラクダが真ん中にドンッとあって、ひまわりが咲き、人形の首のようなものやサツマイモが弾け飛んでいて……もう、頭の中がワァ〜っとなる感覚でした。
少し調べると、作者の立石 大河亞さんは、炭鉱で知られる福岡県の筑豊、田川の街で育ちました。そう言われてみれば、タイトルは《香春岳対サント・ビクトワール山》。サント・ビクトワール山は、どこにあるのか分かりませんが、石灰石の採掘場で山肌が削られた香春岳が描かれていますね。
今作は立石 大河亞さんが、51歳の時に、郷里を思い出して描いた作品なんですね……っと、隠れキャラのようにトロッコ列車もあります。
田川市美術館蔵ということで、在るべき所に収まっているようで、うれしくなります。ただ、普段は九州の田川にあるということで、東京で観られる機会も多くはないでしょう……。ぜひ今回観ておきたいものです。
■暁斎ワールド全開の『極楽行きの汽車』
今回の『鉄道と美術の150年』では、河鍋暁斎《極楽行きの汽車 『地獄極楽めぐり図』より》も観たかったのですが、展示替えにより現在は観られません。(その代わりに会期末まで展示されるのが『極楽行きの汽車(下絵) 「地獄極楽めぐり図下絵」より』とのこと)
この画帖は、日本橋の商家勝田家の愛娘で十四才で夭折した田鶴の追善供養のために、河鍋暁斎が勝田家から依頼されて描いた作品。田鶴の臨終から地獄をめぐり極楽往生するまでの一連の姿が、河鍋暁斎らしい、観ていて楽しくなるような構図やタッチで描かれています。
画帖は、一周忌に勝田家に納められたのですが、第三十七図の《極楽行きの汽車 》だけは、一周忌とは別に二年後の1872年に加えられた図です。「列車にて極楽へ向かうというまさしく文明開化の時期らしい往生図であるが、来迎する菩薩に田鶴を見いだし、没後の田鶴の人としての成長と仏へと昇華していく姿」が描かれていると、『河鍋暁斎筆「地獄極楽めぐり図」再考』で曽田めぐみさんは記しています。
1872年といえば、ちょうど新橋〜横浜間の鉄道が開業した年ということです。勝田家に追加で依頼されて描いたのか、もともと鉄道開業後に描いて追加する予定だったのか分かりませんし、実際に河鍋暁斎が走る汽車を見て描いたのかも分かりませんが、鉄道開業のニュースを聞いて「これだ!」という構図が河鍋暁斎自身に降臨したのかもしれませんね。(絵の中の線路を見ると、現在、遺跡調査中の品川ゲートウェイ駅の前あたりを走っているんじゃないかとも思われます)。
同展では、ほかにもChim↑Pom筆の《LEVEL7 feat.『明日の神話』》(岡本太郎記念館蔵)が展示されているそうです。東急渋谷駅にある『明日の神話』の下に、ゲリラ的に掛けられて話題となった作品でしょうか。野次馬的に見てみたい気もします。
■開催概要
会期:2022年10月8日(土)〜2023年1月9日(月・祝)
会場:東京ステーションギャラリー
休館日:月曜日、10月11日、12月29日~1月1日
※ただし、10月10日、1月2日は開館
観覧料:一般 1,400円、高校・大学生 1,200円、中学生以下 無料
Webサイト:http://www.ejrcf.or.jp/gallery