禍話リライト:偽飛び降り

とある方からの話である。

俺の親戚にAっていうクズみたいな奴がいて女の子に対してゴキブリを見せたりしてキャーとか泣かせたりして喜ぶみたいな奴がいたんです。その時に親が叱っていれば終わる話なんですけど、若干、親も育児放棄というか良く言えば放任主義みたいなところがあって。結局、そのまま育ってしまって…。 

当たり前なんですけど人とコミュニケーションが取れないまま大学生になっちゃって、頭は良いけど友達も彼女もいないような感じで。

少し孤立した感じになってたんですけど、でも3、4年生になるとゼミで人数の関係上で女性と組むことあるじゃないですか。そしたら一緒に作業してた女性のこと好きになっちゃって。

親戚だから話を聞いていたけれど、どう考えても女性はAに対して気はない、それは大学の作業だから冷たくするのも良くないと思って、面白くない冗談にも笑ってあげてるだけだよ…って言ったけれど、Aは全然聞かずにその女性を呼び出して告白したんですよ。そしたら、当然ごめんなさい。そもそもAからの呼び出しが怖かったので女性は友達を連れてきていて…。その友達がズバズバと物を言う子で「アンタもわかりなさいよ…その好意は同級生としての好意だよ…。それぐらいアンタ、頭良いんだし大学生なんだから」って言われてAはムッ…となりましてね。ちょっとおかしい方向に発想がいったんです。

後日、Aは告白した女性に電話で「死ぬ」と仄めかして、また付き合う付き合わないみたいな話をしたみたいなんです。そこでまた女性の友達が来て「アンタいい加減にしないと教授に言うし、アンタの親にも言うよ」となった話を聞いて「お前、それだめだよ」と言ったけど、本人はあいつら復讐してやる…みたいな態度で「バカかお前!人生、棒に振るぞ」って忠告はしたけど元々、親から怒られたりしてないからですかね、全然、聞いてくれなくて。

そしたら前回は「死ぬ」とただ仄めかした感じだったけど今回は「飛び降りるぞ」って女性に電話したみたいで。さすがに女性も前回のことがあるから「飛び降りないでしょ。私、信じないから」って電話切ったそうなんです。更にムッ…として、復讐してやる…って話を親戚の俺に話してくるんですよ。俺は「そりゃそうだし、止めろよお前。法律詳しくないけど罪になるぞ」って言ったがAは知らん顔で、その時に俺、「大体、お前が飛び降りるって言ったってリアリティも何もないしな」って余計なこと言っちゃったんです。

そしたらAは近所にある寂れた公団住宅の1棟に目星をつけて…。というのも、その何棟もあるうちの1棟がよく人が飛び降りるんですよ。昔の公団住宅だからハシゴを使えば屋上にも行けちゃうんです。そこに実際に行って、その女性に電話したんです。「今、◯◯公団住宅にいる」って。女性は「どうせ嘘なんでしょ」みたいな対応だったみたいなんですけど「いや、本当だ。手もサビだらけで…」って本当にその場にいるからリアリティがあって。女性が「えぇ、ちょっとなに…」ってパニックになってるとAは「今から飛び降りるから。お前のせいだ。さよなら!」って屋上から携帯電話だけ落としたんです。携帯電話とはいえども衝撃音はするじゃないですか。それで、Aはまぁ、携帯電話はダメにしたけど、また親に買ってもらえばいいや〜。相手にトラウマを植え付けれたし…って携帯電話の目立った残骸だけ拾って家に帰ったんですよ。さすがに女性も電話で本当に飛び降りたんじゃないか…って友達やゼミのメンバーにも伝えて騒ぎになっちゃって。とりあえず警察に電話する前にゼミの先輩とか自分たちで、その公団住宅を確認しに行ったんです。そしたら携帯電話の目立つ残骸はなかったけど細かな残骸が落ちてて「もしかして携帯電話だけ落としたんじゃない?」って話になって。飛び降りてなくて良かった…だけど何なんだAのやつ、1回ボコボコにしないとダメなんじゃないか?って話をしてたら1人の電話が鳴って、ゼミのOBからの電話で、その日は偶然なんですけどゼミでOBも含めて集まる日でAが飛び降りたかもしれないって連絡が入ったから、公団住宅に行ったメンバーはその集まりを抜けてきてたんですよ。

OBに「Aは飛び降りてなくて携帯電話だけ落としてたんです」って伝えてたら、OBの様子がどこか変で。本当に◯◯公団住宅の◯棟に行って、そういうことしたわけ、Aは?って聞いてきて。「えぇ、そうですよ。バカですよね、授業に来たらバレるのに」って言ったら、携帯電話はどっちに落ちてた?って聞いてくるんですよ。だから「どっちっていうか中庭みたいな方に落ちてましたよ。人いたら危なかったですよね」って伝えたらOBがうわぁ…中庭に落ちたって言ってるよって他のOBに伝えてて、他のOBも、えー…みたいな反応で…。
「どうしたんですか?」と尋ねるとOBがもしかしたら因果因縁かもしれないけども5年以上前にゼミが人気で入れない人が出て、入れなかった人がしつこく言ってきたことがあって。その、しつこく言ってきた人が◯◯公団住宅の◯棟から当てつけというか飛び降りて亡くなってるって言うんです。しかも自分たちが今、携帯電話の残骸を拾ってる中庭に落ちて。新聞にもはっきりとは載らなくてニュースにもならなかったのに、Aは何も知らないでそこを選んだんだったらちょっと嫌というか何か良くないよな…って話をされて電話は切れたんですけど、そう言われてもAは携帯電話を壊してるので伝える術はないし、一応、固定電話にもかけたけど繋がらなくて…。まぁ、でも翌週来るだろうから、そこで説教しようかってことで話はまとまったんです。

月曜日の授業にAが来なくて、狂言自殺みたいなことしてるのでさすがに休むのかもなって思ってたら丸々1週間来なかったんですよ。Aがよく行く店にも顔を出してなくて、さすがにゼミにも来なかったので数人で様子を見に行くことにしたんです。家まで行ったらオートロックのマンションでAが開けてくれないと入れないので参ったな…と思いつつ、ダメ元でピンポンを押すとブツッという音がして、おそらく家の中の誰かが出た音がしたんです。Aだろうと思い、何も知らないフリをして「先輩の◯◯だ。お前、1週間ぐらいゼミに来てないけど、どうした?携帯も繋がらないしさ。話でもしようよ」と呼びかけるが一切、応答がない。そのうちに時間がきたのかインターホンが切れてしまい、もう1回ピンポンを押すが応答はなくて…。インターホンの前で参ったな…どうしようか…と話しているとエレベーターがAの住んでるフロアから降りてくるのが見えたんで、もしかしてAじゃないか?と待っていると他の住人らしき大学生ぐらいの女性だったんです。端から見たら俺たちインターホン前に陣取ってる不審者じゃないですか。とりあえず「こんにちは」と言うと女性も会釈してくれて出ていく間際に一言、「まだ決心がつかないみたいですよ」と言って去っていったんです。

「誰か知り合い?」と聞いたんですけど、誰も知り合いではなくて、何言ってんだろうな、さっきの女の人?と思いつつ、どうにかAと接触する方法を考えてました。

「これさ、裏とか回れないかな?」と1人が言ったのをきっかけに大通りから見えない裏に回るとびっくりして。Aがベランダのギリギリに立っていたんです。「お前、何してんの!」と声を掛けたんですがAは「いくのいかないの」と言っていて、こちらがわかってるのかわかってないのか微妙な様子で。これは自分たちで解決できる範囲を超えていると判断して警察を呼びました。

結論としてはAは家に突入した警官に止められて飛び降りませんでした。でも、Aは1週間ぐらい風呂にも入ってない、ヒゲを剃ってないような見た目で、家のテーブルの上のメモ帳には「いくのいかないの、決心がつくのつかないの」とずっと書かれていて…。変な話なんですけど「右足を踏み出したら後は左足を踏み出したらいけるわけだから」とかも書かれていたんですけど、それは飛び降りた経験がある人しかわからない感覚だろうと思って、ちょっと薄ら寒くなりましたね。…Aは親が監視してないとダメな状態になってしまって大学からはいなくなりました。

あの「まだ決心がつかないみたいですよ」と言って立ち去っていったあの女性は誰だったのかは未だに分からないです。誰だったんでしょうね、あの人。

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こちらはツイキャスで放送されている「禍話」で語られた怪談を元に文章化しました。

出典 シン・禍話 第七夜  (2021/4/24)
9分10秒辺り〜


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