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詩 遠い記憶

匂いは記憶に直結する。

記憶の底に眠っていたものが、
匂いを嗅ぐことで、鮮明に蘇る。
それは、心までも鷲掴みにする。

目の前には今の光景が広がるのに
匂いを嗅いだその時へと、
一瞬でさかのぼる。

僕は今、
夜のベランダにいる。

初夏の匂いとともに、
どこからか、
なつかしい匂いがする。

子どもの頃、
夕方の銭湯で嗅いだ石鹸と汗の匂い。

目の前にボンヤリと蘇り、
その時に戻れない郷愁からか、
少し胸が痛む。

今はいない人たちの、
やわらかで、やさしい、
心の感触。

大好きな人たちとの、
思い出せない、
なつかしい場面。

その印象に、
心がまるくなり、
あたたかくなり、
いつまでも続いてほしいと願う。

今、目の前に広がる風景。

一気に年を重ね、
やはり、
少し胸が痛む。

そして、
遠い日をなつかしむ。

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