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Photo by
keigo_kyousitsu
詩 遠い記憶
匂いは記憶に直結する。
記憶の底に眠っていたものが、
匂いを嗅ぐことで、鮮明に蘇る。
それは、心までも鷲掴みにする。
目の前には今の光景が広がるのに
匂いを嗅いだその時へと、
一瞬で遡る。
*
僕は今、
夜のベランダにいる。
初夏の匂いとともに、
どこからか、
なつかしい匂いがする。
子どもの頃、
夕方の銭湯で嗅いだ石鹸と汗の匂い。
目の前にボンヤリと蘇り、
その時に戻れない郷愁からか、
少し胸が痛む。
今はいない人たちの、
やわらかで、やさしい、
心の感触。
大好きな人たちとの、
思い出せない、
なつかしい場面。
その印象に、
心がまるくなり、
あたたかくなり、
いつまでも続いてほしいと願う。
*
今、目の前に広がる風景。
一気に年を重ね、
やはり、
少し胸が痛む。
そして、
遠い日をなつかしむ。