エッセイ 記憶

僕の記憶力が怪しい。

何でもすぐに忘れていく。
留めて置くことが難しい。

昔、ガイ・ピアース主演のメメント
という映画があった。
監督はクリストファー・ノーラン。

主人公は短期記憶喪失という症状で
最近の出来事が覚えられない。
10分すると忘れてしまう。

大事なことを体に刺青をして残し、
自分の記憶と妻を壊した犯人を
探し続ける。

物語は10分刻みで少しずつ過去に
遡る構成になっていて、観ていて、
まったく先が見えず、主人公と同じく
記憶に頼れない不安を感じる。

この記憶を忘れる感覚。

僕はメメントほどではないけれど、
忘れてしまう。

正確には忘れるのではない。
取り出せない。

引き出しには確かに記憶が入ってる。
どの引き出しに入れたかを忘れてしまう。
だから、ふっ、と思い出すことがある。

なにしろ数分前に話していたことを
忘れてしまうことがある。
何を話していたか覚えていない。

でも生活や仕事には支障はない。
大事なことは忘れないのだ。

あくまでも、
僕の経験からの想像だけれど、

僕の記憶に「いらないもの」と
脳のどこかで判定されると、
脳の「目次」に載らなくなるらしい。

だから簡単に探せなくなって、
全てのページを見ないと、
探してる言葉がみつからないから、
時間がかかり、あきらめてしまう。
これが「忘れる」ということ。

目次の量がいっぱいになって、
何かを目次から消さないと、
新しく載せられないのだろう。

使わない言葉や、行かない場所、
見なくなった本や、大分前に見た映画。
学生時代に勉強したこと。

それらは「いらないもの」リストに
あるらしく、思い出せない。

忘れることは不安にもなるけれど、
嫌なことばかりではない。

嫌な記憶も忘れてしまう。

若い頃、嫌なことがあると暗い気持ちで
ずっと考えて、眠れないときもあったけど、

今は忘れてしまうので、
嫌な記憶を引きずらなくなった。

でも、心のどこかに不安は残るらしく、
それは消えない。

夜中に急に目が覚めたりして、
僕を困らせる。

でも、これ以上、忘れなければ、
今のままの方がいい。


上の森 シハ さま
写真を使わせていただきました。
ありがとうございました。

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