エッセイ 記憶
僕の記憶力が怪しい。
何でもすぐに忘れていく。
留めて置くことが難しい。
*
昔、ガイ・ピアース主演のメメント
という映画があった。
監督はクリストファー・ノーラン。
主人公は短期記憶喪失という症状で
最近の出来事が覚えられない。
10分すると忘れてしまう。
大事なことを体に刺青をして残し、
自分の記憶と妻を壊した犯人を
探し続ける。
物語は10分刻みで少しずつ過去に
遡る構成になっていて、観ていて、
まったく先が見えず、主人公と同じく
記憶に頼れない不安を感じる。
*
この記憶を忘れる感覚。
僕はメメントほどではないけれど、
忘れてしまう。
正確には忘れるのではない。
取り出せない。
引き出しには確かに記憶が入ってる。
どの引き出しに入れたかを忘れてしまう。
だから、ふっ、と思い出すことがある。
なにしろ数分前に話していたことを
忘れてしまうことがある。
何を話していたか覚えていない。
でも生活や仕事には支障はない。
大事なことは忘れないのだ。
*
あくまでも、
僕の経験からの想像だけれど、
僕の記憶に「いらないもの」と
脳のどこかで判定されると、
脳の「目次」に載らなくなるらしい。
だから簡単に探せなくなって、
全てのページを見ないと、
探してる言葉がみつからないから、
時間がかかり、あきらめてしまう。
これが「忘れる」ということ。
目次の量がいっぱいになって、
何かを目次から消さないと、
新しく載せられないのだろう。
使わない言葉や、行かない場所、
見なくなった本や、大分前に見た映画。
学生時代に勉強したこと。
それらは「いらないもの」リストに
あるらしく、思い出せない。
*
忘れることは不安にもなるけれど、
嫌なことばかりではない。
嫌な記憶も忘れてしまう。
若い頃、嫌なことがあると暗い気持ちで
ずっと考えて、眠れないときもあったけど、
今は忘れてしまうので、
嫌な記憶を引きずらなくなった。
でも、心のどこかに不安は残るらしく、
それは消えない。
夜中に急に目が覚めたりして、
僕を困らせる。
でも、これ以上、忘れなければ、
今のままの方がいい。
*
上の森 シハ さま
写真を使わせていただきました。
ありがとうございました。