エッセイ さびしい蝉
蝉が鳴いている。
夏のような陽気に
勘違いしたのだろう。
ジーと、鳴く蝉は、
一匹だけだ。
一週間の寿命なのに、
聞く相手がないなんて、
やるせない。
しずかな夜の街に響く、
さびしい鳴き声。
僕はその鳴き声を
聞きながら、
車を走らせる。
踏切を越えて、
さらにその先へと。
車を停めて、外に出て、
夜の星を眺めていたら、
ジーと、蝉が一匹
鳴いていた。
夜の街にしずかに響く、
さびしい鳴き声。
遠く離れて鳴く蝉は、
お互いが、お互いを、
知らない。
出会えるときは
くるのだろうか。