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詩 キンモクセイ

冬のキンモクセイは、
だれも目に留めない。

だれもが、枝だけになった木の前を
通り過ぎる。

秋のキンモクセイは、
その芳香ほうこうに、
誰もがかれ、
安らぎを覚え、
その花の色に目を楽しませる。

同じ場所に立つ、同じ木なのに、
人の反応は、まるでちがう。

その香りは、辺りに手を差し伸べる。

とても届かないと思う場所まで、
その香りは届いて、
人の気持ちをなごませる。

やさしさ、思い出、遠い記憶、
ぬくもり。

息を大きく吸い込むと、
肺のすみずみまで、
さわやかな芳香ほうこうがいきわたり、
体じゅうを、かけめぐる。

足は自然と、
キンモクセイの前に僕を運び、
木の前に立たせる。

オレンジ色の小さな花の集まりが、
これほどの香りを生み出す。

数え切れないほどの花の集まりは、
やがて、ひとつ、また、ひとつと、
地に落ちる。

地面を見ると、これも数えきれない花が、
カーペットのように敷き詰められる。

木に咲いているキンモクセイは、
水面に映る花のように、
地面にも、美しく咲いている。

冬の寒さの中で眠る、キンモクセイ。

また花の咲く季節になれば、
たくさんの人をいやすのだろう。

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