ツーリングエッセイ 其の7 道後温泉

*はじめに
バイクツーリングに凝っていたころの
思い出です。当時を思い出して書きました。
間違っているところがあっても、ご容赦を。

道後温泉は以前から行きたいところだった。

理由は簡単で、夏目漱石の「坊ちゃん」に
出てくる道後温泉を見て見たいと思った
からだ。

「坊ちゃん」も昔は国語の教科書に載って
いた。時流だろうか。
当時はドラマになったり、アニメ化
されたりと、話題に事欠かなかった。
でも、最近はあまり注目されなくなった
気がする。

坊ちゃんのアニメは80年に放送され、
西城秀樹が坊ちゃんの声優役で、
ルパン三世のモンキー・パンチが
キャラクターデザインと話題になった。

このアニメを見て、僕は「坊ちゃん」が
好きになり夏目漱石を読むようになった。
いつも通り単純である。

先に書いた「しまなみ海道」経由で道後
温泉に行こうと思ったのも当然の流れだ。

もちろん、僕は「坊ちゃん」の本を買い、
本をバックに詰めて、道後温泉を目指した。

今回は、この道後温泉のお話し。

四国の松山にある道後温泉。
夏目漱石の「坊ちゃん」で紹介されている。

『僕の好きな箇所なので抜粋させて頂きます。
文中には住田と書かれていますが、
道後温泉のことです。
途中<略>としている箇所は坊ちゃんが
生徒に嫌がらせを受けていることが書かれ
てますが、紹介が長くなるので省きました。』

おれはここへ来てから毎日住田の温泉へ
行く事に極めている。ほかの所は何を見ても
東京の足元にも及ばないが温泉だけは立派
なものだ。折角来たものだから毎日這入って
やろうと云う気で晩飯前に運動かたがた出掛る。
ところが行くときは必ず西洋手拭の大きな
奴をぶら下げて行く。この手拭が湯に染っ
た上へ、赤い縞が流れ出したので、一寸見
ると紅色に見える。おれはこの手拭を行き
も帰りも、汽車に乗ってもあるいても、常
にぶら下げている。<略>温泉は三階の
新築で上等は浴衣をかして、流しをつけて
八銭で済む。その上に女が天目てんもくへ茶を
載せて出す。おれはいつでも上等に這入った。
<略>湯壺は花崗岩みかげいしを畳み上げて、十五畳
位の広さに仕切ってある。大抵は十三四人
漬ってるが、たまには誰も居ない事がある。
深さは立って乳の辺まであるから、運動の
為めに、湯の中を泳ぐのは愉快だ。おれは
人の居ないのを見済しては十五畳の湯壺を
泳ぎ巡って喜んでいた。ところがある日
三階から威勢よく下りて今日も泳げるかなと
ざくろ口を覗いてみると大きな札へ黒々と
湯の中で泳ぐべからずとかいて貼り付けて
ある。

新潮文庫 夏目漱石 「坊ちゃん」p29,30

僕が行った当時の道後温泉も、
坊ちゃんに出てくる道後温泉と
同じ三階建てだ。

確か、入り口から入ると、正面に大きな札
で「泳ぐべからず」の看板が墨で黒々と書
かれていた。これを見ただけでも嬉しくなる。

僕は坊ちゃんと同じ上等にしたくて、
流しはついていないけれど
浴衣を貸してくれて、二階で休憩できる
コースにした。
休憩のときにお茶を出してもらえたのも、
一緒だった。

湯壺はこれも小説と同じで「花崗岩みかげいし
で造られていた。
誰もいなければ泳ぎたくなる気持ちが
分かるくらいに広い。

小説にはなかったが、15時になると三階
にある太鼓が鳴らされる。
その響きを聞きながら、二階でお茶を飲ん
で外の景色を見るのは少しだけ気分がいい。

温泉の帰りに団子を買いに行く。
会社へのお土産に買っていこうと思ったか
らだ。

温泉の近くには遊郭の通りがあって、
僕は通りを覗いてみた。
記憶が薄いけれど、当時、「ネオン街」と
して、ギリギリ営業していたと思う。
(現在はネオン街はなくなっているとの
こと)

昼間だったので、人通りはなく、
「ネオン街」の中に入るのは何か躊躇われ
覗いただけで通り過ぎた。

団子屋は、その入り口付近にあったはず。
しかし、ネットで調べてみると、場所が変
わっている。
ネオン街がなくなったので、場所を移した
のか。

いわゆる「坊ちゃん団子」。
緑と黄と茶の小さな団子が小さな串にさし
てあり、箱で売っていた。
うっかりモノの僕は、賞味期限のことなど
気にしないのである。
(ネットで調べたら、賞味期限は短くなっ
ているとのこと。当時は知りませんでした)

道後温泉は気に入ったので、次の日も温泉
につかりにいったけど、
2回目は二階席は高いのでやめにした。

小説に出てくる赤手拭いが、道後温泉の
お土産で売っていた。
早速購入して、温泉内を僕もぶら下げて
歩きまわる。
この赤手拭いは気に入ったので帰った後も
しばらく使っていた。

道後温泉の話しはこのくらいしか覚えて
いないのだけど、
最後に忘れられないことを書く。

お土産に買って帰った「坊ちゃん団子」で
ある。

この団子は賞味期限が短くて、
ツーリングから帰って、会社にお土産として
持って行った時には賞味期限が切れていた。
僕は会社の同僚たちにお土産を渡したときに

「なんだ、賞味期限切れてるじゃないか。」

と言われて気がついた。すると同僚が、

「賞味期限が切れてちゃ、食べられないな。」

と僕にお土産を突き返す。
同僚たちには笑われた。

まあ、自分の不注意だから仕方ないのだ
けれど、バイクで持って帰るのって、
結構大変なんだ。

それを話しても、笑われるばかり。
悔しい思いをした。

道後温泉を思い出すと、
このことを一緒に思い出す。

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