印章業者の小さな声
新型コロナウイルス感染拡大防止のための「テレワーク推進」の大きな流れのなかで、ほぼ一方的に悪者にされている「ハンコの業者」です。
「ハンコを捺すために出社しなきゃいけないなら、ハンコは無くしてしまえ」と、ごもっともなご意見で私たちの存在が全否定され、落ち込む今日この頃です。でも、ほんの小さな声なので、ちょっとだけ耳を傾けていただければ幸いです。
はじめにご理解いただきたいのは、印章には大きく分けて「実印」「銀行印」「認印」の3種類があることはみなさんご存知かと思いますが、最近のハンコ不要論は、それらがごっちゃに議論されていることが多いんです。社員がテレワークで作成した書類にハンコをもらわなきゃいけないから出社する、という報道が多いのですが、これは仕事印という認印のなかの一つであって、会社のルールとして「ハンコが必要」となっているだけで、社会のルールではありません。社内で「ハンコ不要」とすれば出社の必要は無くなりますよね。でまた、その上司が会社に出社していてハンコを捺している映像が流れて「代表者印を捺すために出社している」と言います。これは「実印」にあたり、会社間の重要な書類・契約ごとに必要な「印鑑証明書」も必要なもので、先ほどの認印と同じテーブルで議論するのはムリがあると思うのです。
そういうところから、「テレワーク」が進まない大きな理由は、ハンコが邪魔、というより「ペーパーレス化」が進まないことが大きいと思うのです。極端な事を言えば、「ペーパーレス」になればハンコもいらないけど、ハンコが不要になっても「ペーパーレス」にはならないし、「テレワーク」もなかなか進まないだろうと思いませんか?
全国に400万以上ある中小企業の多くがハンコを捨てて、電子印鑑などに置き換えてペーパーレスを実現する、ってかなり大きな事だと思います。パソコンばかりじゃなく、スマホすら活用していない事業所も多くある中で、「紙」をなくすことは大変なことです。「コピー機もFAX機もプリンターもシュレッターもいらない会社」ってどのくらいあるんでしょうか? でも、大企業でも、小さな事務所でも、「ハンコ」は完全に普及しているんです。明治4年から100年以上も変わらずに続いている制度を、別の何かに置き換えることはカンタンな事ではないと思います。
「サインなら簡単」というイメージは誰でも持っていることだと思います。置き換えるならサインでどうだ、と言う方は多いでしょう。でも、それも乗り越えなきゃいけないハードルがあることをご存知でしょうか?
例えばアメリカは契約社会、サインがその中心にあります。サラサラっとカッコよくサインする姿を目にすることもあります(映画とかドラマですけどね)。書いている文字は、もちろんアルファベット。26文字の組み合わせですね。日本語ならどうでしょう。ひらがなカタカナだけで100文字以上あります。漢字なら10万種類以上と言われます。さらにフルネームでサインするとなると画数は?サラサラっと流れるように書けるものでしょうか?しかも、何度書いても、一定の正確さで再現しなければなりません。ホテルにチェックインする時でも、パスポートのサインと同じように書かなければ疑われます。ましてやパスポートを見ながら書くわけにもいきませんよね。日本でサインがなかなか定着しないのは、使用している言語、日本語が諸外国に比べて難解だからではないかと私は思っています。
小さな声と掲げておきながら、長々と申し訳ありませんでした。