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地下室の扉

実家にあったはずの扉がなくなっていた。

実家を出る前までは地下室にさらに扉があって厳重に封がされてたのは覚えてるし、奥に入ってはいけないって言われてたのも覚えてる。
なんでって聞いてもはぐらかされたり、その時すごく怖かったモランが出るからとか誤魔化されてた。

数年ぶりに実家に帰省した際に、母親から食器を取ってくるように頼まれて地下室に入ったらその扉が跡形もなく消えていた。どの壁にも棚が置かれていて、新しくコンクリートで固めた様子もなかった。
しばらく地下室でウロウロしてたら、母から心配されたようで声かけられて上に登った。

思わず扉のことを尋ねたら、そんなものはない。思い違いだって言われてしまった。
父も弟も同じ答えだった。
もう自分の思い違いだと思うことにして、久しぶりの家族の団欒を楽しむことにした。

脳梗塞で倒れてほぼ寝たきりの祖父に顔を見せに行って、近況を報告したりもした。
そこでダメ元で「そういえば地下室の扉ってさ…」って口を開いたところで、満足に口もきけない祖父が「その話はするな」ってとてもはっきりした低い声で話した。

もうなんなんだろう本当に。
実家は寺なんだけど、いつどんな経緯で建てられたか不明なのと、私を含めた親族がみんな何かしら目に障害を抱えているのも関係ある気がする。

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