山梨旅行記-太宰治を求めて-
8/9 6:30
私は今、電車の中にいます。居住している京都から、今回の目的地である山梨までの旅の真っ最中です。なぜ、山梨なのか。富士山を見るにしても静岡でも見られるじゃないか。静岡にはさわやか(とても美味しいと噂のハンバーグ屋さん)があるじゃないか。当然の疑問であると思います。私が山梨に拘る理由は太宰治の小説『富嶽百景』にあります。私が太宰治の小説の中で特に好いている作品です。その小説の中で、太宰治が泊まったとされるほうとう屋さんが現存しているらしく、「私も太宰治と同じご飯を食べて、同じ位置から富士山を見たい‼️」今回の旅の目的はこれにあります。要するに推し活です。
琵琶湖線から東海道本線への乗り換えのタイミングで、あんぱんとサンドイッチを朝食として買いました。セブンイレブンのサンドイッチのクオリティには毎度驚かされます。そこら辺のパン屋さんのサンドイッチよりも全然美味しい。何というか、べちょっとしてないんですよね。これを甘いカフェラテで流し込むのがたまらない。
10時間ほど電車に揺られて、甲府に降り立ちました。駅から出たときの最初の印象はよくある地方都市、といった感じでした。太宰治が甲府の街をシルクハットを さかさまにして、その帽子の底に、小さい小さい旗を立てた、それが甲府の街だ
と例えましたが、まさにその通りだと思います。四方を山々に囲われ、その中心部に人間の営みがある。盆地と呼ばれる地形なので、とても暑かった。と書きたいところですが、私は今夏を京都で過ごしたので、このくらいでは根をあげませんよ。
その後は甲府市内の散策をしました。太宰治僑居跡と呼ばれる石碑を訪れ、この場所に太宰が住んでいたのか...!と思いを馳せたり、御崎神社へのお参りをしたり、武田信玄の像の気迫に圧倒されたりなど...一通り甲府を楽しみました。
時間は17時。昼食を食べそびれたので、流石に空腹で限界、ということで信玄というほうとう屋さんに入りました。勿論、ほうとうを注文。具沢山なうどんで、スープは味噌と出汁がベースになっており、どこか懐かしいような、母の手料理のような安心感のある物でした。
そこから、今日の宿がある石和温泉駅まで移動しました。そのまま真っ直ぐ宿へと向かう予定でしたが、駅を出たところに足湯を発見し、暫し休憩。石和温泉を温泉地として発展させたいという地方行政の強い意思が感じられました。
ホテルのチェックインを済ませて、荷物を置き、買い物ついでに笛吹川の土手を歩きました。冷たい風が気持ちいい。ずっと歩ける気がします。
8/10 9:00
起きて軽くシャワーを浴び、今回の旅の1番の目的地である、天下茶屋へ向かいます。天下茶屋は御坂峠の頂上にある茶屋で、太宰治が2カ月ほど、執筆のために過ごした場所としても有名です。宿の最寄りのバス停から1時間ほどバスに揺られ、ついに到着しました。かなり曇っていて、富士山が見えなかったことが残念でしたが、それにしても高所から見る河口湖と街は絶景でした。
ここでは、ほうとうとアイスコーヒーをいただきました。太宰もこのほうとうを食べたのかな、なんて考えると胸が熱くなりますね。また、2階が太宰治文学記念室になっており、当時使われていた火鉢や机を目に焼き付けることができました。
しかし、ここで問題が。帰りのバスがない。天下茶屋からのバスは1日1本しかないことは予め知っていたので、私は覚悟を決めて山道を降り始めました。Google mapによると70分ほど。歩けなくはない。こうして、スーツケースを引きながら、とぼとぼと歩き、約20分後。突然、私の横で軽自動車が止まり、「どこへ行くんだ?」というお爺さんの声。「河口湖駅まで」というと、そっちの方に家があるから、ということで乗せていってもらえることになりました。
車を降りる際に「何かお礼をさせてください」と私が言ったのですが、お爺さんは「礼なんかいらねぇよ」と。
あまりのかっこよさと、人情深さに涙が出そうになりました。他人から善意を受け取ると、誰かにそれをまた返したくなるものなんですね。その心を忘れずに善く生きていきたいと強く思いました。