読書日記 上原隆・著『晴れた日にかなしみの一つ』 物悲しいけど大切なこと
■上原隆・著 『晴れた日にかなしみの一つ』 双葉文庫
新婚の息子がひき逃げにあって死んでしまい、しかしその新婚の家をそのまま維持している父親とか、父親に自殺されてしまった息子とか、アル中の母親に育てられた息子とか、そういった人たちが登場する本だ。
この著者のジャンルは、ノンフィクション・コラムというらしい。取材して、その人にそれまでの出来事や人生について語ってもらい、それを短い文章にまとめたものだ。どれも、400字詰めの原稿用紙で、20枚くらいではないか。
取材対象は普通の人だ。記録を出した人とか、何かを表現している一芸を持った人などとは違う、一般の普通の人だ。
普通の人だけど、普通の人にも悲惨で衝撃的な過去があったりする。有名人や成功者ではない、そういった人たちにも、誰かに伝えるべき「人生」とか「想い」とか「気持ち」とか「こころね」といったものがある。それを、著者はコトバにする。その作業が集まったのが、この本だ。
著者の立場は、インタビューアーとも違う。取材対象の人に、寄り添うというのとも違う。まして、取材して得たネタをもとに、小説にするのでもない。あくまでも聞き手なのだ。
聞いて、その人の言いたいことを、すくうのだ。水面に漂っているような、今にもバラバラになって消えてしまいそうになっている、気持ちを、すくうのだ。でも、すくいあげる、のとも違う。なんとも微妙なバランスでなりたっている、絶妙な本だ。
読み終わったあと、心にしんみりとしたものが残る。しんみりとしているけれど、それはなかなか消えない。
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