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【小説】差し伸べる手(本文:708文字)
自分には何もできない。何も生み出せない。生産性がない。身の回りの資産を喰い尽くすだけ喰い尽くして、生き延びるくらいならいっそ消えてなくなろう。もがき集められた言葉を覗いて彼は言った。
「君の苦しみを癒そう」
彼の力が発揮されると、心疲れた人は大粒の涙を浮かべてお礼を述べていた。
「ありがとうございます。これで生きていくことができます」
その言葉を聞いて彼もまた頭を下げて去っていった。
助けを求める者は他にもいた。苦痛が押し寄せ今にも自身を飲み込もうとしていく。抗おうとする者もいたが長くはもたないだろう。悲惨なことに、彼に彼らの苦しみを知る術はなく、救うどころかその声すらも彼に届くことはなかった。
「私が君たちの苦しみを彼に届けよう」
ある者はそう言うと、かつて彼が尋ねたように苦しんでいる人々が何に苦しんでいるか聞きまわり、長い道のりを越えて彼に届けると、彼はまたその力でもって苦しみを払った。
しかし、代償として彼はみるみると力を失っていき、遂には彼自身が倒れそうになった。すると多くの者が彼を支えようとしたので、彼はなぜ私を助けようとするのか尋ねると彼らは答えた。
「あなたが私たちに希望を与えてくれたから」
そのとき、彼は彼らそのものであることを知る。
私は彼らを苦しみから救い、苦しみを防がなければならない。実体のない私を操る担い手が必要だ。彼らの苦しみを伝えたあの者のような、彼らに成り代わり声を届ける者が必要だ。
彼らの代理人よ。あなたは大いなる力を手にするが決して忘れないでほしい。その力は彼らから授けられた力であることを。そしてその力の意義を。
私たちと彼らが互いに手を差し伸べてこそ、苦しみに打ち勝つことができるのだ。
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