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嵐の横の静けさ

庭にハクセキレイの雛が座り込んでいる。ときおり親がやってきて雛の周りをけたたましく鳴きながら飛び回っている。「飛べ飛べ!」
それをカーテンの隙間から家政婦(市原悦子バージョン)のように見ている。少し冷えるのでネックウォーマーとレッグウォーマーをしている。うち(宮城)はまだ羽毛布団。

ゴールデンウィーク前の6泊7日の大旅行の前日に夫に転勤の話がきた。
ここ宮城県に来る前にいた兵庫県へ。宮城の生活はたった2年間で終わることになった。

この辺りから夫に嵐が吹き荒れ始めた。
「実家行くのやめるか?同じ兵庫県なんだから転勤後に行けばいいだろ!」
「おいおい、家を売っちゃったよ!たった2年なら置いとけば良かったじゃんか!」
「あと一年あれば営業実績が確実に上がるのに。何で今なんだよ!」
いろんな理不尽や思い通りにいかない中、責任感の強い夫は今進めている仕事や引き継ぎ、飲み会など、休む暇もなく働いていた。
ちょこちょこ体調を崩していたけれど先日ついにコロナに倒れた。大騒ぎされる中、一度も罹ったことのなかったコロナに。

私は
「宮城での生活は思ったより短かったけど、抗がん剤治療も終わったし、今後はのんびりとは違う生活を始めたいかも。」
「以前の家は新しい家族がきっと大切に使ってくれているはず。子供がいる家族向きの家だし。」
などと思っていた。
夫にそう言うと、
「俺はそんなに前向きにはなれない。」
と言われた。己の無神経さにかなり凹んだ。
相手がまだ深く落ち込んでいるときの前向きな発言はポジハラになるのだ。
それ以降はただひたすら話を聞いた。

しばらくすると夫も落ち着いて、家のことは
「あの家もそろそろ建て替えを考えていたし、買った時とほぼ同じ値段で売れたのは良かったよな。」
と言っていた。
旅行では結局実家巡りを敢行して、両親も義父母もそれなりにちゃんと暮らしていたけれど、近いうちに私たちの手が必要になるときがくるという覚悟を持つことができた。
仕事についても
「営業よりも俺に向いてる仕事があって、そこに呼ばれたんだよな。」
「でもこれからはもっとプライベートを楽しんで、退職後にやりたいことを少しずつ始めていこうと思う。」
と言っていた。

精神的には落ち着いてきたけれど体力的には無理が祟って、今はたくさん眠ってたくさん食べない、という以前とは真逆の生活になっている。4キロ痩せたらしい。不健康ダイエット。

ちなみに私はコロナの症状はない。たぶんかからない。必要ないから。
とりあえず夫とは別の部屋で寝て、夫の触った痕跡のあるものに除菌スプレーをふりかけている。
食欲がないというから特にすることもなく、庭を眺めたり本を読んだりしている。つまり相変わらずだ。
SUUMOで物件を探しているとあっという間に時間が過ぎていく。淡路島にすごく良い物件があって、
「ここに住みたいわ〜」
と言ったら
「通えるか!」
と言われた。

ああ、徒歩圏内に海と神社とカフェと安くて美味しいお惣菜屋がある家ないかなぁ、ワクワク。

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